第18話 星の神子
「は…何言って…」
「村長!!何言ってるんですか!!!」
村長からディールのグレバディス教国への旅にユウネを同行させてほしいとの提案に、ディールが真意を聞こうとしたが当のユウネが大声で叫んだ。
だが、村長はいたって真剣にディールを見つめる。
「…何か事情があるのか?」
「お察しのとおりですじゃ。」
―はいはいはーい!私は反対でーす!―
これまた大きな声でホムラがディールに伝える。
(一応聞く。なんでだ?)
―巨乳は、敵―
聞いたオレがバカだった…
ため息をつくディール。
何故剣なのに人間の女の乳に憎悪をたぎらせるのか。
改めて村長と向き合いディールは尋ねる。
「その事情を教えてもらえない限り了承できない。オレにも事情がある。」
「…恩人殿のことじゃ。無駄に吹聴するとは思えん。話すが、良いかユウネ。」
村長はユウネを見る。顔を真っ赤にさせてアワワアワワ言うユウネ。
「ふえっ!私の、何を!?」
「落ち着きなさい。ユウネ、お主の事情を、ディール殿に伝える。良いね?」
「あ、え、それって…私の加護を…?」
頷く村長。
「ディール殿。ユウネを連れて行く、連れて行かないに関わらず、この件は内密にお願いしたい。」
「…オレに害することでなければ、ね。」
それは、了承の意味であった。
村長は一呼吸おいて、伝えた。
「今日、ユウネは成人になり覚醒の儀で加護を授かった。その名も【星の神子】」
村長の言葉に、目を見開くディール。
【神子】
それはグレバディス教国では最上位とされる、姉アデルが授かった【水の神子】と同列の7属性系の頂点の加護。
だがしかし…
「【星の神子】…なんだよ星って!?」
7属性は「火・風・雷・土・水」の5体系と「光・闇」の2体系の総称だ。
【星】という属性は聞いた事が無い。
「そうだ。【星】などという属性は無い。それどころか、儂や司祭が知る限り【星】を冠する加護は聞いたことも見たこともない。」
「つまり、全くの未知の加護ってことか…?」
ユウネは俯き、伏せる。
村長はそんなユウネの肩をポンと叩き、続ける。
「だが授かったのは紛れもなく【神子】の加護。凄まじい魔力を有し、民を導く者。それが【神子】の加護を得た者の定め。だが、その絶大な力の使い方を誤ると、世界に多大な害にすらなるとも言われる。」
姉アデルもそうだった。
力の使い方を学ぶため、遠いグレバディス教国にまで向かったのであった。
「それは、知っている。」
「でしょうな…ディール・スカイハート、奇跡の子よ。」
その言葉にディールは目を見開く。
「悪い気を起こさないでくれ。ユウネからお主のことは聞いている。安心せい、此の事は儂とユウネしか知らぬ。司祭にもまだ伝えてはいない。」
村長の言葉で、多少だが胸を撫で下ろすディールであった。
「お主の逸話はある程度耳にしている。神童ディール、それが、お主だな?」
「周りが勝手に言っているだけだ。」
「いや、その二つ名に恥じぬ実力であった。その剣もさる高名な魔剣と見受けられる。そんなお主もグレバディス教国へ…理由は聞くまい、お主もそこへ向かうとおっしゃった。ならば、【神子】の定めに沿ってグレバディス教国へ向かわざるを得ない、この娘も同行させてはもらえぬだろうか。」
もう一度、村長は頭を下げてディールに懇願する。
「何が出来る?」
ディールは尋ねる。
「何が…とは?」
「その【星の神子】とやらは何が出来るんだ?【神子】の加護なんだろ、授かったまま何もないってことは無いだろ?」
その言葉に村長は頷いた。
「ユウネ、ディール殿にステータスを見せなさい。」
「私の、ですか?」
「ああ。加護を授かった直後にゴタゴタがあり、お主もまだ自分のステータスを見ていないだろう。」
確かに加護を授かった直後、盗賊襲撃の報を受け、そのまま司祭に魔窟へ逃がされたのだった。
「…はい。」
ユウネは服のポケットからステータスプレートを取り出した。
そして、呟くように宣言した。
「ステータス、オープン」
その言葉にユウネのステータスプレートは淡く光り、ホログラムのようにユウネのステータスを映し出す。
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[名前] ユウネ・アースライト
[年齢] 15歳0か月
[加護] 星の神子
[戦闘力] 71
[魔法力] 3,156
[固有技能] 星 気配探知(小) 神子
[所持魔法] 星魔法(星弾、星盾、星の息吹、星連弾、[未収得5])、星天魔法(流星、[未収得4])、極星魔法(魔星、剣星、巨星、[未習得2])
[属性値] 火0 風0 雷0 土0 水0 光0 闇0 星973
[DEAR] 89,100
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「なんだ、これ!?」
ディールは驚愕した。
村長もユウネも驚き声を失っている。
「まさか…ここまでとは。」
【星の神子】を授かったため魔法力は高いだろうと推測していた。
だが3千オーバーという驚異的な数値に驚愕するばかりである。
一般的なステータスの平均値は「100」であり、それが基準となっている。
体力や生命力、主に肉体の強さを示す戦闘力は残念ながら平均値より相当下回っているが、それを補っても余りある魔法力であった。
それよりも『普通なら』あり得ない表示が、そこにあった。
「属性値に【星】ってあるな…」
7属性とは別に、8つ目の属性“星”が表示されているのであった。
「こんなもの、見たことがない…。それに、所持魔法も異常だ。」
村長も唸るように呟く。
所持魔法は、覚醒前、そして覚醒後に所有しその後鍛錬等で習得できるものである。
だが加護を授かった当初から、複数の魔法を取得しているユウネは異常そのものであった。
さらに前代未聞の【星】属性の持ち主。
さらに。
「恐らく“星天”や“極星”は上位魔法だな…」
通常、下位の魔法を全て習得することが『鍵』となり、その後に発言するはずの上位魔法らき魔法を、をすでに所持しているのであった。
「あ、でも…“星天魔法”と“極星魔法”は今の私じゃ使えないみたい。」
申し訳なさそうに伏せて伝えるユウネ。
「魔法力3,000超えの状態でも使えないのかよ…」
しかし、逆にディールが感心して言う。
もし使えるようになれば…恐ろしい潜在能力を有していることになる。
「まぁそれでもこれだけ魔法が使えるんだ。オレなんかよりもずっと凄い。」
正直にユウネに伝える。
突然のディールから振られユウネは頬を赤らめながら「ふぇ!?え、ええ、そ、そうなの…?」と答える。
「どんな魔法だ?その“星魔法”とやらは。」
「え…。えっと、星弾は、星の固まり?を飛ばす攻撃魔法みたい。星盾は自分や対象者…味方を、守る防御魔法で、星の息吹は回復魔法みたい!あと星連弾は、星弾をたくさん飛ばす魔法みたい!」
ユウネは喜々として教える。
昨日まで一切魔法が使えなかったのだ、テンションも高くなるのも無理はない。
「凄いな。魔導士として殆ど問題ないな。あとは威力がどうか、というところだが…何とかなるだろうな。」
ディールはさらに感心して言う。
そして、意を決して村長とユウネに向き合う。
「ユウネが【星の神子】というのはもちろん秘密にする…が、オレに付いてくるには相当のリスクがある。今からそれを二人に伝えるが、その話を聞いても一緒に行くっていうなら…グレバディス教国までの旅に、ユウネが付いてくることを了承する。」
「うむ、どんな事であろうと、恩人殿が抱える問題など…」
「オレは【加護無し】だ。」
ディールの告白に、絶句する二人。
しばしの沈黙。
「ま、まさか…あれほどの力と技量をもっていらっしゃるのに…【加護無し】と?何の冗談でしょうか…」
「冗談でそんなことを言うか。事実だ。」
ディールは、二人にこれまでの出来事を掻い摘んで話す。
“意思ある魔剣ホムラ”についてはさすがに伏せたが、概ね事実を伝えるのであった。
「うむ…にわかに信じられぬが、恩人殿が言うのなら、事実でしょう。」
話を聞き、答える村長。
「オレを排除しなくてもいいのか?」
その言葉に村長が微笑みながら答える。
「そもそも【加護無し】が災いを齎すなど、眉唾でしかない。それに、何度も言うようにお主はこの村の救世主。そんな恩人を無碍になど出来るものか。何より、加護があろうとなかろうと…お主は強い。」
「ありがとう、村長。」
少し、気が楽になったディール。
だが、ふとユウネを見ると…啜り泣く声。
「ユウネ?」
「…ディール。辛かったね。」
顔を上げるユウネ。
目から零れ落ちる大粒の涙。
それは、先ほど村の危機を憂い泣いていたのと変わらない、ユウネの涙だった。
「ユウネ、どうしたんだよ!?なんでユウネが…」
「…だってさ、ディール。奇跡の子とか呼ばれて、皆の期待を背負って、来る日も来る日も鍛えて…あんなに凄く強いのに…加護が授からなかっただけの理由で、一緒に過ごしていた村の人たちから命を狙われて、村を追われるなんて…あんまり過ぎるよ!」
初めて感じる、ユウネの怒り。
それは紛れもなく、ディールの理不尽な境遇に対する、怒り。
「…ディール、辛かった…ね」
ボロボロ涙を流すユウネ。
そんなユウネを見て、ディールの目から涙が零れ落ちた。
「あれ…なんだ…なんだこれ…」
必死に涙をぬぐうディール。
ふと、ユウネは立ち上がりディールの頭をギュッと抱きしめた。
温もりと、柔らかな香り。ディールの目から涙が止まらない。
「ディール、もう、大丈夫だから。」
そんな二人を見て、そっと席を立ち部屋を出る村長。
部屋から、二人の啜り泣く音が聞こえる。
ーーーー
「悪い…恰好悪いところを見せたな。」
照れながらディールは言う。
顔を真っ赤にさせて横を向くユウネ。
「ううん。私こそ、ゴメンね…」
「…」
気まずい空気。
それをブチ破るのが、空気を読まない能天気の赤い剣。
―もーー!泣きたいのは私のほうよ!ディールに抱き着いていいなんて、私、許可していないんだけど!―
わめく、ホムラ。
その言葉に『うるせぇよ!』と答えるディールと同時に、驚愕したユウネが叫ぶ。
「え!?何、これ!?」
あたりをキョロキョロと見回す。
その姿にディールも驚愕する。
「え、どうし……まさか…!」
―ちょっと!どうせこの乳女には聞こえていなんだから!ディール、いい、あんたは…―
「剣がしゃべったあああああああああ!!!!!」
叫ぶユウネ。
完全に、目線はホムラに向けられている。
―え、え?ちょっと、まさか、あんたまで私の声が聞こえる、の?―
恐る恐る語り掛ける、ホムラ。
「きゃああああああああああ!やっぱり、やっぱり、しゃべったああああああああ!!」
「落ち着け、ユウネ!!」
「やっぱり…ね…」
落ち着きを取り戻し、ホムラと相対するユウネ。
「やっぱりって?」
どうしてこうなった?と言わんばかりに手で顔を覆うディールが尋ねる。
「だって、最初から会った時から色々不自然だったし…私言ったよね?剣としゃべっているの?って。」
「ああ…あれは焦ったよ…。」
「冗談で言ったんだけど…まさか本当とはね。」
クスッと笑ってユウネは呟く。
―嘘でしょ…私とディールの愛のメッセージを!こんな!乳女に!!…―
その瞬間『ビシッ』という音がした気がした。
とてつもない殺気…。
あのミノタウロスの殺気が児戯に等しいほど、体感温度が氷点下まで急降下する感覚になる。
とてつもない気配が場を支配した。
「え、えっと…ユウネ、さん?」
何故か震えの止まらないディール。
そして、ホムラ。
「何か、言ったかしら?ホムラさん??」
『ゴゴゴゴゴゴゴ』
そういう擬音が聞こえる幻聴がした。
明らかに、ユウネの気配が変わった。
-えーっとぉ…何も言ってませんわ、ユウネさぁん!-
剣なのに、カタカタ震えるような音が自然とする気がしたホムラ。
これはダメなやつだ!!!
(おい、ホムラ。さっきのは禁句だ。もう二度と言うな!)
―(わ、わ、分かった!)―
「何をコソコソと二人で話しているのかなぁ~?」
笑顔で尋ねるユウネ。
なぜか、笑顔である。
「なんでもありません!」―なんでもありません!―
ディールとホムラの声が揃った。
笑顔が、怖すぎるのだ。
「まさか、意思を持つ魔剣とは…本当に凄いのね、ディールは。」
目を輝かせながらディールを称えるユウネ。
さっきの殺気は気のせいだったのかと思うほど、雰囲気がまるで違う。
「あ、ああ…。凄いのはホムラなんだけどな。」
―そ、そうよ!私が凄いのよ!―
「うん、ホムラさんも凄い!盗賊をあっと言う間に倒した二人は本当に凄いと思う。」
そして、と改めて口にする。
「ディールは【加護無し】をどうにかするためにお姉さんに会う。ホムラさんはグレバディス教国へ向かうことで、何かを思い出せるかもしれない、と。」
「あぁ、そうだ。そのために魔窟を一刻も早く抜け、町や村で旅の準備をする必要があった。」
「そこに、私が現れた、と…」
ユウネは確信した。
これは、運命だと。
「ねぇディールとホムラさん。さっきの話だけど…。私も、グレバディス教国に一緒に連れて行って!」
ユウネは真剣な眼差しでディールに伝える。
「オレが【加護無し】だって話と、ホムラが前代未聞の意思ある魔剣…つまり、トラブルの火種を常に抱えている状況だというにも関わらず、てことだな?」
ディールは改めて確認する。
それがどんなに危険なことか分かっているのか、と。
だが、ユウネの意思は固い。
「それでも、です。私の魔法は…どんな力になるか分からないけど、攻撃も守備も回復も出来る。きっと、役に立てるはず!」
確かにディールは一切魔法が使えない。
『魔法っぽい攻撃』はホムラで出来るが、魔法とは違う気がする。
何があるか分からない旅路。
魔法が使える仲間がいると色々と助かる。
それに彼女は【神子】
その旅の同行…つまり護衛は、かつての兄ゴードンが請け負った姉アデル…【神子】の護衛とも重なる。
憧れ、そして大好きな兄と姉のように。
「分かった。ユウネ、一緒に行こう。」
ディールは右手をユウネに差し出す。
ユウネは頬を赤らめ。
「よろしくお願いします。」
そう言って、ディールの手を取った。
―ちょっと!私はまだ認めてないんだからね!―
ホムラが叫ぶ。
「だが、魔法が使える仲間がいると助かる。それに彼女は【神子】だ。グレバディス教国に付いたとき、ホムラのことを知っている人物に会えるかもしれないぞ?」
―いったい【神子】がなんだっていうのよ…―
「グレバディス教国では最高位の加護だ。そんな彼女と、彼女の仲間であるオレ達を無碍にするとは考えられない。ホムラの目的にもグッと近づくと思うぞ。」
そんな言葉にホムラは―ぐぅぅぅぅ…―と唸り、そしてついに観念した。
―わかったよ、わかった!連れて行けばいいんでしょ!勝手にしなさい、村娘!―
「どちらかと言うと、連れて行くのはホムラのほうだけどな。歩けないし。」
そう言って笑うディール。
つられてユウネも笑う。
―笑うなー!!―
本業の出張と重なってしまったので、今日から三日程1話掲載となります。




