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第1話 ”7年前”【剣聖】誕生

ディール・スカイハート


黒髪黒目に、整った顔を持つ少年。

幼いころ両親を早くに亡くし、7才離れた兄と3才離れた姉との3人兄弟で過ごしていた。


スタビア村は、穀物類や家畜類を育て、収穫物を周辺の町部や市街地へ売り生計を立てる普通の農村である。しかし、いつしか『勇者を生み出す村』として周辺に敬われ、または妬まれていた。



その理由として、2つ挙げられる。



1つ目。

この世界は15歳で成人とされるが、一つの儀式を経ることとなる。


それが『覚醒の儀』


かつて、邪神と呼ばれる存在が自らの眷属を生み出すために世界中のありとあらゆる場所に生み出した”覚醒の魔法陣”。


これを神より遣わされし女神たちが


「悪魔の企てを阻止するため」


「人間に加護を与え、悪しき存在に打ち勝つため」


と、自らの力で全ての”覚醒の魔法陣”を浄化したことが始まりとされる。



この世界で成人となったものは、この女神の祝福を受けた魔法陣で祈りを捧げ、自ら宿す『魂』を昇華させ、本来の力を得る儀式『覚醒の儀』を経ることが義務となっていた。


この覚醒の儀をもって得た力を、人々は女神による“加護”と名付けた。


女神から賜った“加護”は、自らの力と可能性を増幅させ、ある者は戦い、ある者は守り、またある者は奪うとための『力』にとした。


女神による“加護”は、人の魂に刻まれるもので、全て一律でなく、当然、順列なるものが存在する。

その順列により、ある者は王国の騎士に、ある者は神殿の司祭に、またある者は冒険者として名を馳せた。


中でも力の強いものは四つの大公爵国によって築き上げられた「連合軍」の将軍にさえなる。


だが、その逆も然り。

地方の町村の門番や、中には盗賊に身を落とす者さえいる。


しかし、魂に刻まれた加護の順列でその全てが運命付けられるものではない。


女神に賜りし加護により技能や成長の度合いなど早熟晩成の差はあれ、鍛錬し、己を磨くことで様々な”力”を得ることが可能である。


女神の加護はあくまでも可能性の提示であり、結果に悲観することは無い。

……はずである。


そんな世界で、スタビア村。

近年、この『覚醒の儀』で世界でも稀有な加護に目覚める者が多く輩出されたのであった。


ある者は言う。

「勇者を生み出す奇跡の村、スタビア」と。



2つ目。

スカイハート家の奇跡である。



ディール・スカイハートの7才年上の兄『ゴードン・スカイハート』。

彼は15歳の“覚醒の儀”で、この世界で5人しか受け継ぐことができない英雄が賜りし加護【聖】の字が、魂に刻まれた。


その名も【剣聖】


もともとゴードンは、弟ディールが生まれて間もなく他界した両親に代わり、妹アデルと弟ディールを養うため、若くして様々な仕事に就いた。

穀物の種まきや草取り・収穫に加え、家畜達の世話はもちろん、村の門番、野営、子ども達の剣の指導、はたまた盗賊の撃退、と、覚醒前にも関わらず大人顔負けに働いた。


そんなゴードンに村人たちは、期待と尊敬を込め「きっと神から素晴らしい加護を授かるだろう」と口々にした。


そしてゴードンが15歳の日、覚醒の儀。

覚醒の儀はいつも村の司祭が執り行う。


力を見定める神々の祝福の権現、通称「ステータス」を授け、覚醒の魔法陣にて自らの魂に刻まれた加護を発現させるのだが……


「ゴードンに刻まれた加護は【剣聖】!!! かの【五大英雄】が一人『黒白の剣聖セナ様』がその身に宿したと謂われる伝説の加護が降誕された!!!」


この時、ディールは8歳。

姉のアデルは11歳であった。


その晩、村中挙げての祝会となり、村人たちは勇者誕生を朝日が昇るまで祝福した。


歓喜と歓声を挙げる村人たちの姿。

口々に褒めたたえられる兄の名。

同じく期待と羨望の言葉を掛けられる、自分と姉のアデル。


誇らしげに微笑むアデルと、嬉しそうに破顔するゴードン。

幼いながらも、それはとても素晴らしく、同時に誇ってよいことと理解するディールであった。



しかしその一ヶ月後。

突如、尊敬する兄との別れが訪れるのであった。



----



「え、え、英雄の末裔であらせられるラーグ公爵とバルバトーズ公爵の御令嬢が、か、か、此のような村に一体何用でしょうか……」


震える村長を筆頭に集まった村人の中、ディールは生まれてこの方見たことがないほどの豪奢な馬車に、それを護衛する白銀に輝く甲冑を纏った騎士団に息を飲んだ。


この国々の守護者である『連合軍』が、このスタビア村に訪れてきたのだった。


そして、馬車からは物語の中から現れたような可憐な二人の美少女。


金色に輝く絹糸のようなサイドポニーテール、想像もつかないほど豪華な薄蒼と金の刺繍を施したマント、胸元が開かれながらも清楚さを失わないローブを身にまとうラーグ公爵令嬢。


続いてもう一人。美しくなびく朱色のロングヘアに銀の髪留め、黒のドレスと白の薄いスカーフの対比がまるで一枚の絵画を彷彿させるような閉眼の美少女、バルバトーズ公爵令嬢。


ディールが住まう『ガルランド公爵国』を含めた『四大公爵国』

その内”ラーグ公爵国”と”バルバトーズ公爵国”の跡取りでありながら、連合軍の幹部であり、いずれ連合軍最強の“十二将”に名を連ねるだろうと言わしめる二人の公爵令嬢が訪れてきたのだった。


その目的は言うまでもなく500年ぶりに誕生した【剣聖】である。



「突然の訪問、申し訳ございません。この子が急に飛び出してしまったので……」


朱髪の美少女、バルバトーズ公爵令嬢が、その両眼を閉じたまま頭を下げた。


「おおおお、おやめくださいませ! どうか頭をお上げくださいませ!! 我らが英雄【セナ・バルバトーズ】様の末裔であらせられる貴女様が我らのような民草に遜る必要はございませぬ!! どうかおやめくだされ、エリス様!」


いつもの威厳はどこやら。

村長は滝のように汗を流し必死でバルバトーズ公爵令嬢エリスに懇願する。


そのエリスの横で、頬をプクッと膨らませてジト目にする金髪の美少女、ラーグ公爵令嬢が口を開く。


「ちょっと待てエリス。それじゃまるで私が勝手に行動したみたいじゃないの。」


頭をあげるエリス。

眼は相変わらず閉じたままだが、ふふっと微笑みながらエリスも口を開く。


「あら、本当のことじゃないですか。ユフィナさんったら、剣聖が誕生したって聞いた瞬間、公務ほったらかしですぐに飛び出したじゃありませんか。」

「すぐじゃないし仕事も放ってないから。そんなことしたらマリィに睨まれるだけだし。そういうエリスだって、ガラになくウキウキしながら一緒に来たじゃない。」


そんなカウンターに、エリスは「はて?」と首を傾げ、


「私がお願いした、全軍の兵站の拡充計画はいつになったら御報告いただけますの?」


その言葉にラーグ公爵令嬢、ユフィナは「うぐっ!」と言葉を詰まらせた。


「それに、マリィの阿呆……ゴホン、マリィさんからも武具用製鉄の増産の人員確保を頼まれていたと思うのですが?」


エリスからの追撃は止まない。

ユフィナは「ぐふぅっ!」とのけぞった。


「他にも…」

「あーー!あーー!あーー! はいはい私が悪かった! 剣聖誕生に我を忘れて飛び出しましたゴメンナサイ!」


ユフィナは観念した。

その言葉を聞いてエリスは笑顔をほころばせる。


「そうだと思って、どちらも私が済ませておきました。ユフィナさん、貸一つですよ?」


悪戯っぽく、うふふと笑うエリス。

唖然となるユフィナであった。


「貸一つ、て。これで貸幾つだよ……。そもそもどっちもまだ期間あったでしょうが! て、言うか、エリス?」

「はい?」


ゲンナリして言うユフィナに、また首を傾げて尋ねるエリス。


「あんたさっき、マリィの事、阿呆って……」


パンッ


「さて、村長さん。この村で誕生した剣聖様にお目通し叶いませんか?」


手を叩きエリスは笑みを浮かべ村長に尋ねる。

「誤魔化したな……」と隣のジト目金髪少女は無視して。


絶世の美少女、二人のやり取りをまるで夢物語のように見惚けていた村長。

「はっ!?」と意識を現実に引き戻した。


「は、は、はいですじゃ! 我が村に降誕なさった【剣聖】ゴードンを連れて参りますじゃ!」


あまりの焦りか、語彙がおかしくなった村長。

無理もない。目の前にいるのは、まぎれもなく救世の英雄の末裔なのだから。


村長の言葉に、

「ゴードンを連れてこい!」

「あいつはどこだ!?」

村人たちも必死の形相で叫ぶ。


その声にわずか遠くから眺めていたディールはビクッとした。

嫌な予感がする。


「オレはここにいるよ」


焦る村長と騒ぎ立てる村人の、わずか後方からそんな声が響いた。

村の裏側で、日課である牛の世話を済ませ、騒ぎに気付いたゴードンがやってきたのだ。


「おお、おお、ゴードン!待っておったぞ!」


村長は安堵の表情でゴードンを迎え入れた。


村長の隣に立つゴードン。

村長は気にしていないが、さっきまで牛の世話をしていたゴードンからは家畜特有の匂いがまとわりついている。


その匂いで顔を若干しかめるユフィナ。

表情には表れていないが、明らかに後方へ下がった、エリス。


「オレがゴードンです。えらい豪奢な方々がお出でなさったが、あんたらは一体誰だ?」


村の護衛も務めるゴードン。

身なりからどこぞの公爵国の重鎮かつ連合国の騎士団だろう。

だが、早馬による伝達もなく、突如現れた貴族然とした面々に警戒心丸出しで尋ねる。


それにギョッとするのが、村長と周囲の村人たち。


「ゴードン! なんつー態度じゃ!! この方々をどなたと心得る!?」

「知らねーよ村長。てか、何の連絡もなく突然来てさ。どうせ『剣聖に会わせろ』だろ? 言っておくけど、これはオレが神様から授かった加護だ。可愛い妹と弟と、大事な村のみんなをこの手で守れとの神様からの思し召しだ。この国や他の公爵国、連合軍の勧誘ならノーサンキューだ。帰りな。」


ユフィナとエリスが口にする前に、要件を察して自分の答えを先に言う。

もともと狩りに盗賊撃退と修羅場を超えてきたゴードン。

状況判断や決断の早さは【剣聖】となってからはさらに磨きがかかっている。


その言葉に一瞬、殺気を漏らしかけたのがユフィナ。

公爵令嬢として、連合軍の幹部として、殆どの周りがイエスマンである彼女にとって聞き捨てならぬ『村民』の言葉に激高しかけたが……


「おっしゃる通りです。こちらの非礼を詫びます。大変申し訳ありませんでした。」


ユフィナより一歩前に歩みを進め、ゴードンに頭を下げるエリス。

ギョッとしたのは村長や村人たちだけでない、後ろに控える騎士団も同じだ。


「ちょっと、エリス……」

「ユフィナさんは黙っていてください。そもそも、あなたの先走りが原因でしょうが。」


何かを言おうとしたユフィナに、頭を下げながらも制するエリス。

「ぐっ…」と言葉を詰まらせるユフィナ、だが次の瞬間には、


「この村に伝令も走らせず、先走って騎士団一行で突如訪問した全ての責はこの私にある。一行の代表者としてお詫びします。」


エリスの思惑を察し、一緒になって頭を下げた。


それに拍子抜けし、たじろくゴードン。

まさか、豪奢でいかにもお嬢様である公爵令嬢の二人が素直に自分達の非礼を詫び、頭を下げるなんて想像できただろうか……。


「い、いや、オレも言い過ぎ、ました……。わかりましたので頭を上げてください。」


焦るゴードン。


【剣聖】とはいえ、生まれも育ちも村人である。


目の前にはかつて世界を救った大英雄の末裔。

一旦は拒否したとはいえ、公爵国の男子なら一度は必ず憧れる「連合軍」

それも”十二将”に名を連ねるのは時間の問題と言われる幹部。


しかも絶世の美少女二人が一同に頭を下げる姿は、筆舌し難いほど居心地が悪かった。


ゴードンの言葉で頭を上げるユフィナとエリス。


「ご寛容、感謝いたします。そこで、今回の訪問の件ですが……」


エリスが微笑みながら伝える。

その両眼は相変わらず閉じたままだが、ふと、顔を村長に向ける。


「た、た、立ち話もなんですから、我が屋敷にお越しくださいませ!」


村長が慌てふためいて、そんな提案をする。

もちろん、ユフィナとエリスは了承した。

有無なくゴードンも村長亭へ赴くこととなる。


だが。


「村長の家で話をするのは構いません。ですが、妹と弟も同席させてください。」


ゴードンの提案に、エリスは頷く。


「ええ、あなた様だけでなく、あなた様のご家族にも関わるお話しですので。」


ゴードンは、傍にいたディールとアデルの手を繋ぐ。

厳しい顔のアデルとは反面、良く分かっていないディールであったのだ……。

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