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第17話 恩人

教会の外。

その入り口には3人の盗賊が座っていた。


「ん?…な、な、なんだてめぇはウギャアアア!!」


気を抜き過ぎ。

そう言うまでもなく、即座に座る3人の盗賊の背中を切り裂き、倒しこんだ。


その叫びを聞きつけ、仲間の盗賊が駆け寄ってくる。


「てめえ!どこから現れ…ギャア!」

「一体てめえは…この村のやつじゃグギャアア!!」

「な、な、なんだお前はグアアアア!!」


駆け寄ってきた盗賊が攻めに転じる前に、一瞬で間合いを詰め、切り裂くディール。

明らかに杜撰な攻め方、そして動きは遅く弱々しい。


本当にこいつらが30人程度でこの村を制圧したのか!?

さらに襲い掛かってくる盗賊を切り裂き、数を減らしていくディール。

一人、逃げようとした盗賊を捕まえ、首筋にホムラを付けた。


「あああああ熱ぃいいいいいいいいいいい!!!!」

「おっと、すまん。」


ホムラは熱纏を発動中。

そのため、切っ先を首に付けただけで男の首は一瞬で焦げるほどであった。


「お前たちのボスはどこだ?」


熱纏を解き、男に尋ねる。


「あ…あ…あ…、そん…ちょう…の家に…いる…」


首を焼かれ、息を絶え絶えながら答える盗賊の男。


「そうか、ありがとう。」


そう言い、ディールは再度熱纏を発動させ、男の背中を軽く切る。

熱纏の効果。

あの黄金装備のミノタウロスや魔窟の魔物で試して把握したその効果は、軽く切るだけで重症となり、さらに高温の熱で同時に焼き切るため、血が噴き出ない。


これにより想像を絶する痛みと引き換えに失血による死亡を防いでいるのだ。

わざわざ盗賊を殺さずにいるのは、とある理由のためである。


ディールは当たりを見回す。

口から血を流し、全身痣だらけでロープに縛られる村の男たちが目に映る。

盗賊たちはいつの間にか、全員切り伏せていたのだった。


ディールは村の男たちのロープを切り裂いた。


「ああ…ありがとう。きょ、教会の妻や子供たちは…」

「たぶん全員無事だ。あそこにいた盗賊たちもすでに切り伏せた。」


男の言葉に、ディールが答える。

そして、歓声が上がる。


「あとは、ボスだけだな。」


ーーーー


レメネーテ村の村長宅。

村長の孫娘が人質のようにボスの子分に抑えられる中、嗜虐的な笑みを浮かべ村長と相対するのが、盗賊団“灰蛇の頭”の頭目――ボスであった。


「なぁ、村長さん。悪い提案じゃないだろ?村の食料と多少の女子供を融通してくれりゃ、オレ達は殺しもしなければ強奪もしない。時折、オレ達の面倒を見てくれればいいんだよ。」


そう言って村長に迫るボス。

つまり、強奪行為を行わない代わりに村の食料を分けること、慰み者として、または奴隷として、女と子供を定期的に寄越せ、そう言っているのだ。

だがそんな馬鹿気た提案など、村の代表者たる村長が受け入れられるはずはない。


「しょ、食料と、村の金銀財宝を提供する!もちろん、国や連合軍には黙っている!だから、村の者に手を出すのは止めていただけないか!?」


代替案を出す村長。

だが、盗賊のボスは村長の顔面を殴って答える。


「ああ?てめぇはバカか。女っ気のないオレ達に男同士で抱き合えって言うのか?それに金銀なんぞ腐るほどあるわ。ほしいのは、食う物と、寝床と、女だ!なあに、壊れたら奴隷にして捨ててやるから、あんたは嫌なモノを見ずに済むぜ。」


口から血を流し睨む村長。

肩をすくめ、やれやれ、というポーズをするボス。


「分かってないみたいだな、この爺さんは。おい、お前、その女を今犯せ。」


村長の孫娘を抑える子分に命ずるボス。

子分はヒヒヒヒといやらしく笑い、孫娘の胸元を強引に揉みだした。


「いやああああああああ!!!」


泣き叫ぶ孫娘。


「やめっ!おやめくだされ!!!」


悲痛な叫びをあげる村長に、ボスはもう一発殴り上げた。


「ははははは!どうするんだ村長!?こいつの後は、教会の女どもをオレの子分共に一斉に犯させてもいいんだぜ!?」

「グギャベッ!!」


大笑いするボスの後ろから、奇妙な音が聞こえた。


「あ?…!!!」


後ろを振り向くボス。

その目は驚愕に見開かれた。


孫娘を犯せと命じた子分の頭から、一本の赤い剣が突き刺さっていたのだ。


「てめぇか。ボスは。」


すでに絶命する子分を孫娘から引きはがし、ホムラを子分の頭から抜き取るディールが静かに尋ねた。


「て、て、てめぇは何だ!?」


そう叫ぶボスだが、


『ピスッ』


軽い空気を切る音。

同時に、ボスの右腕が宙を舞った。


「あ、ぎゃ、ぎゃああああああ!!」


『ピスッ』


再度、軽い音。

今度は左腕を切り裂いた。


断末魔のような叫び声を上げて転がるボス。

その頭を足で踏みつけるディール。


「残念だがお前の子分共は全員捕縛済みだ。おとなしく、縄に付け。」


レメネーテ村の教会に付いてわずか15分。

ディール一人で、30人の盗賊団を制圧したのであった。


ーーーー


「なんとお礼を申し上げたら良いのやら…」


村の中央の広場。

盗賊団“灰蛇の頭”は全員、ロープに縛り上げられている。

盗賊団の死亡者は1名。孫娘を襲おうとした子分一人だった。

ボス含む残り29人は腕を亡くすもの、指を亡くすもの、背中をばっさり切られたもの、それぞれだが、辛うじて息はあった。


「こいつらは弱いなりに名の馳せた盗賊団なんだろ?領主に引き渡せば、国から報奨金が出るだろ。」


そう言って縛られた盗賊たちを指さすディール。

スタビア村でもこうして盗賊を生きて捉え、領主に引き渡しては報奨金を得ていた。


捕まった盗賊たちは、良くて犯罪奴隷、最悪、見せしめ死罪である。

そうして、国全体の強奪行為の抑止を図るのであった。

ただ、効果は今一つのようだが。


「それでは、あなた様に報奨が出ない。何かお礼が出来ないだろうか。少なからず謝礼をお渡ししたいが。」


村長は甲斐甲斐しくディールに尋ねる。

しかし、当のディールはというと。


「正直、金には困らないと思う。」


素っ気なく答えた。

魔窟で手にした魔石に、例の黄金装備の欠片がたんまりある。

大きな町に出て換金すればそれなりの稼ぎになるだろう。


それよりも。


「出来れば、地図と、あと何日かの食料を分けていただきたい。」


グレバディス教を目指すディールにとって当面必要となる物は、金銭よりも食料であった。


「そ、そんなのでよろしいのか?あなたは、村の恩人だが…」

「さっきも言ったがオレをこの村に連れてくるよう説得したのはユウネだ。恩人というなら、ユウネだろ。」


そう言い、ユウネを見る。

ディールに見られユウネはビクッとし、少し顔を赤らめ俯く。


「うむ…確かにユウネにも報奨が必要じゃの。だが、現に盗賊を撃退したのはあなた様じゃ。何かお礼をせねば我々の沽券にかかわる。」

「だから、地図と何日かの食料があれば十分だ。あと、そうだな…」


ディールは少し考える。


「出来ればこの村に1泊させてくれ。それで貸し借り無しでどうだ。」


何日も魔窟で彷徨っていた。

食事も干し肉といった携帯食料。

温かな寝床と食事に飢えているのであった。


その提案に、村長はしばし唸り…


「なんと謙虚なお方だ…。合い分かった。村を挙げて、精一杯もてなそう。」


ーーーー


夜。

盗賊の魔の手から救われたレメネーテ村は、村を挙げての宴会となった。


その立役者こそ、ディール。

そして、そのディールを連れてきた、ユウネであった。


「さあ恩人どの!遠慮せず飲んで食べてくれ!」


村長や村人たちは、ディールにどんどん食事を進める。

特に、村娘たちからのアピールが激しい。


―ちょっと、私も相当活躍したんだけど!―


それが面白くない、ホムラ。


(まあ、そう言うなって。)


「それにしても、素晴らしい剣技と技能をお持ちですな、ディール殿は!」


村人に囲まれ絶賛されるディール。

一口、果実酒を含み答える。


「いや、オレの力だけじゃない。こいつの力が殆どだ。」


そう言って赤く輝くホムラを掲げる。


―ちょ、ディール!何するよ!―


(何って…今日一番の立役者を紹介しているんだ)


心で答えるディール。

おぉっと歓声を上げる村人たち。


「何て美しい剣…さも強力な魔剣ということでしょうか。」

「私、見てたの!切られた盗賊どもがなぜか血を出さず倒れていくところを!死んでもおかしくない傷だったのに!」

「なるほど、それで失血を抑え生きたまま捕らえられることが出来たのか。素晴らしい!!」


口々に絶賛する村人たち。


―あああー!恥ずかしいっ!やめてよディール!―


(普段、割と威張っているのに、こういうの苦手なんだな、ホムラは)


クククと笑うディール。

もー!と拗ねるホムラ。


「ただ、本当の意味で村を救ったのはユウネだ。ユウネに会わなければ、オレは絶対ここにはたどり着けなかった。そもそも魔窟を彷徨っていたんだ、ユウネはオレの命の恩人とも言える。」


そう言うと、ディールの隣に座って終始モジモジとしていたユウネは「ふえっ!?」と変な声を上げる。


「謙虚なディール殿だが…確かに、ユウネがディール殿を連れて来られなければ、我々はこうして宴を楽しむどころか、奴等に蹂躙されていただろう!」

「マヤナが襲われそうになったの助けたって!」


マヤナとは、村長の孫娘である。


「いいなー!私もマヤナみたいにディール様に助けてもらいたかった…」

「でも、教会でのディール様、本当に恰好良かったよね!」

「うんうん!すっごい速さで、盗賊共をバッサバサ切ったんだもん!まさに英雄よね!」

「あああ~ディール様ぁ…素敵…」


一気に村娘たちが盛り上がる。

その言葉に、ディールは怪訝な顔をする。


「…すごい、速さ?」


急にディールに声を掛けられて村娘は「キャーーー!」と黄色い声を上げる。


「え、え、ええ、ディール様、すっごく速くて目で追うのがやっとでした…。」

「すっごい速さ」と称賛した娘がシドロモドロで答える。


「…オレが速かった?いや、あいつらが遅すぎなだけだと思うが…」


腑に落ちないディール。

そんなディールにお構いなしに言葉を掛ける村娘達。


「ね、ねぇディール様!ディール様はどんな加護を授かっているのですか!?」

「そうそう!ステータスはどんななのでしょうか!」


当然と言えば、当然の質問。

答えに窮していると、


「これこれ、お前たち。そういう事はこういう場で聞くものではないぞ。」


娘達は、村長に窘められた。


「さて、恩人よ。十分食事をとられたら、今夜は我が家で持て成そう。明日には、旅に必要な食料を十分用意するつもりだ。良ければ、案内をするぞよ。」


村長がディールに言い、ディールも「あぁ。」と答える。

そして村長はユウネの方も向き、伝えるのであった。


「ユウネ、お主もこれから我が家に来なさい。大切な話がある。」

「わ…私もですか!?…はい…」


ーーーー


村長の家。

外ではまだ村人たちが宴を続け、大騒ぎしている。

これは夜通し盗賊たちを見張る役目もある。


そんな中ディールとユウネは村長宅に招かれ、リビングでお茶を飲んでいた。


「大した持て成しでなく恐縮だが。」

「いや、十分だ。数日魔窟を彷徨っていたんだ。ありがたい。」


ディールはゆっくりお茶を味わい、応える。


「魔窟を彷徨っていた…ユウネからも聞いていたが、何やら訳ありのようだな。見たところ、成人したてのように見受けられるが。」

「まぁ、色々とね。」


ディールは少し顔を曇らせて呟いた。


「…恩人殿のその剣、相当特殊な魔剣とも見受けられる。よほど高位の加護を授かっているのでは。」


村長の質問に、ディールは答えない。


「…すまぬな。恩人殿というのに詮索するような真似をしてしまって。」


村長は頭を下げる。


「時に、おぬしは旅をしている様子だが、地図と食料を欲するということは、相当の長旅を予定されているのか?」


今度は違う質問。

これなら答えても良いか。


「あぁ。ちょっとした事情があって、グレバディス教国へ向かう必要があるんだ。」


その言葉に、村長と、ユウネも驚いた。


「なんと!グレバディス教国へ!」

「ああ。だがさっきも言ったとおり、ちょっとゴタゴタがあって魔窟を彷徨うことになってね…。ここからグレバディス教国までどうやって行けばいいか、見当が付かないんだ。」

「なるほど…。」


申し訳なさそうに村長が伝える。


「レメネーテ村からグレバディス教国まで、馬車を上手く乗り継いでも1か月半は掛かる。それに今は連合軍とソエリス帝国が戦争をおっぱじめてな。連合軍本部フォーミッドを通過しなければならないが、そこを通るにも時間がかかる。何より…」


村長は一口お茶を飲み、さらに伝える。


「今は雨期で、連日山に雨が多く降ってな。ここからフォーミッドまでの街道が土砂で埋もれて遠回りをしなければならない。」

「遠回り…」

「うむ。ラーグ公爵国を通り、フォーミッドへ向かうルートだ。かなり大回りになるため、順調でも馬車で2ヶ月はかかる。さらに、馬車も戦争の影響で本数が少なくなっている。運が悪ければ…倍は掛かるだろう。」


つまり最悪4ヶ月はかかる。


「まぁそれでも行かないと、なんだ。」


ディールは答える。

何がなんでも、グレバディス教国に向かう決意を口にする。


「路銀もたぶん困らないし、今となっては急ぐ旅でもない。ゆっくり向かうとするよ。」


そう言い、お茶の器をテーブルに置いた。

村長は何やら思案顔。


「…ディール殿。お主の力量と人柄を見込んで頼みがある。」

「内容による。」


一呼吸おいて、村長は告げる。



「その旅に、ユウネを同行させてはくれないだろうか?」

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