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第129話 赤の平原へ

“人類会議” 4日目

“グレバディス教国 大聖堂 大講堂”


昨日までに各国代表者たちで人類結束による “人類軍” について、一定の方向性が決められた。

続く会議は、具体的な【ディアの悪魔】を斃すための手段、手法についてだ。


会議で使われたテーブル配置でなく、講堂本来の形、正面の雛壇に向かい整然と並ぶテーブル。


その眼前、雛壇で講釈するのは【金剛龍ガンテツ】

語られるのは、2,000年前の戦乱についてだ。


「当時、グレバディス教というものを興したのが、“預言者アシュリ” と20人もの “信者たち” であることは存じておるかの? 飢饉や貧富の差によって世界が疲弊していた中、至高神、そして女神たちに縋るという術を、広く伝え、“覚醒の魔法陣” の在り方すらも説いたのだ。」


伝承にも伝わらない、歴史的事実。


だが、ガンテツは事前にディール、アゼイドたちと “どこまで話すか” を調整している。

グレバディス教が信仰する【至高神ルーナ】と【女神たち】と、女神の名を騙る【ディアの悪魔】が同一であるとさらに世界が混乱する、例え【ディアの悪魔】を滅ぼせたとしても、その影響が計り知れないということで、同一視でなく、別の存在として語っている。


その統一名称。

【ディアの悪魔】


女神の名を騙る、人を欺く太古の悪魔。

“邪神” とも違う存在。


“神” ですら無い、最低の存在という意味だ。


「捉えられた “アシュリ” を殺害し、魔女は自らを【アシュリ】と名乗った。それが昨日、モーゼス王国のサリータ殿と言ったか? その娘に化けていたのが、“魔女” じゃ。人に紛れて、人を唆し欺く悪魔。その脅威はすでに理解しておるだろう。」


長い白髭を撫でながらガンテツは紡ぐ。


「その悪魔を完全に屠る方法は?」


ソリドール公爵国の最高位貴族、アーマリー侯爵が尋ねる。

ふむ、と一言呟き、ガンテツは答える。


「現時点では、ディール殿とユウネ殿、そしてホムラが奴等を完全に屠り去る力を持っている。だが、それはあくまでも【ディアの悪魔】という存在に対してであり、我らが手出し出来ないという訳ではない。そこが、“人類軍” の役目だ。」


全員、ガンテツの言葉に聞き入る。

それを確認して、伝える。


「奴等の中には “悪魔の軍団” を生み出せる術がある。その軍団の対抗までをもディール殿たちに委ねてしまうと、本丸の【ディアの悪魔】を取りこぼすことになる。」


2,000年前の当時。

【ディアの悪魔】こと、“魔女” と “弟子たち”

総勢、21人。


対して、人類は100万人の軍勢。

さらに【紅灼龍シュナ】を筆頭とした、7人の “龍神” たち。


結果、70万人の犠牲。

そして、ガンテツ以外の6人の “龍神” の死亡。


「当時……唯一 “星刻” を持っていた【紅灼龍シュナ】と、それを握る勇者が、迫りくる弟子たちを相手取ったのが間違いであった。もし、“意識体” を宿す魔女、もしくは弟子たちの本体を “星刻” で貫くことが出来ていれば、ここまで絶望的な状況にはなっていなかっただろう。」


ガンテツの目から、一筋の涙。


「今思えば、奴等は疑似的でも不老不死の身。例えあの時に死んだとしても、様々な準備を整えた上であれば、時が立てば復活が出来て、続きから始められる。その中で最も邪魔な存在。それが悠久の時を生きる “龍神” だ。それにも関わらず、儂らはまんまと奴等の術中に嵌り、分身体である弟子たちを斃すことに集中してしまったため、シュナを失ったのだ……。」


ガンテツにとって、憧れ、恋焦がれた女性。

先代【紅灼龍】それが、シュナ。


“龍神” に進化を果たした仲間に、“ディア” という存在についてさらに深く説き、とても同じ “龍神” とは思えないほど知性と頭脳に長けた女性であった。


最期は、何度斃しても復活する “弟子たち” こと、【祝福の女神パルシス】の術中に嵌り、分身が生み出せる許容限界まで斃し切ったところで、宿主たる勇者、【火の神子】アルタスと共に力尽きた。

そこにようやくたどり着いた、当時の【土の神子】イリスと共に、ガンテツは疲労困憊であったパルシスの本体を斃すことが出来た。


そこに至るまでの、犠牲が大きすぎた。


“同じ轍は踏まない”


それが、ガンテツの決意であった。

だからこそ、“資格者” と呼ばれたディールと、いずれ【星刻神器】と成るユウネを鍛えあげた。


【ディアの悪魔】に対抗できるように。

人々と手を取り合い、自らの役割を見失わないように。


「ガンテツ様。現状、その “弟子たち” が複製できる分身体は、何体ですか?」

「儂が聞いたのは、8体までだ。だが、昨日の “ルール変更” でその数を増やせると考えらえる。奴等はただの複製でなく、融合により傷を癒し、戦闘力までも底上げしてくる厄介な相手だ。だからこそ、人間の数と装備が必要となる。」


そう言いガンテツは、パンッ、と手を叩いた。

すると、ガンテツの前にある机の上に、黄金に輝く剣と鎧が現れた。


おおっ、と歓声があがる。


「そ、それは?」

「剣は、お主らのいう “金剛天鋼” と “神鋼” を織り交ぜたもの。鎧も同じじゃ。“人類軍” と銘打つならば、これらは全て儂が用意しよう。まずは剣。各々魔力を込め、自らに最も適した魔剣とするが良い。」


色めきだつ各国首脳陣。

だが、とガンテツは注文を付ける。


「ただし、約束が1つと頼みが1つある。それを守れるなら、渡そう。」

「約束と、頼み……ですか?」


まじまじと装備を見つめるラーグ公爵国最高位貴族のレリック侯爵が紡ぐ。


「まず約束の方だ。【ディアの悪魔】を滅ぼしたら、これらの装備は全て儂に返すこと。以前は儂も未熟者でな。十分この装備を用意出来なかったとは言え、そのまま人間に渡しっぱなしにしたら、【ディアの悪魔】の脅威が無くなった後に戦争が起きてな。この装備を多く持つ領主が有利になってしまったのじゃ。」


ゴクリ、と唾を飲み込む面々。

まさか、そのような歴史的背景があるとは思いもしなかった。


「もう一つ、頼みとは?」


険しい顔で、アーマリー侯爵が訪ねる。


「飯じゃ。」

「……飯?」


少し目を輝かせるガンテツ。


「この装備を造るには、うーーんと、力が居るでのぉ。人間の食事を、儂に毎日提供することじゃ。何せ、お前さん方は全部で150万人もの軍隊になるのだろ? その数を儂一人で量産するんじゃぞ? どこからその力が出る?」

「な、なるほど! 畏まりました!!」


ちなみに、半分嘘である。

食事をとらなくても、常に【DEAR(ディア)】を摂取している “龍神” の身であるため、休み休み作業を行えば問題はない。


確かに食事を摂ればその分エネルギーに回る。

しかし【DEAR(ディア)】摂取量を考えると微々たるものだ。



説明するまでもなく、すでにガンテツはグレバディス教国大聖堂の地下で作業に入っていた。

限られた時間の中で、どれほどこの強力な武具を用意できるかも、一つの鍵であるからだ。



だが、とある理由で一旦中断となり、最初の食事にはありつけなくなるのであった。



――――



「……結論が、出ました。」


グレバディス教国 西区 高級宿

アゼイドとシエラの部屋。



仰々しい “黄昏ノ箱舟” に浮かぶ半透明のモニターを見つめ、同じ半透明の板に何かを押すように操作していたアゼイドが紡ぐ。

あまりに不可思議な光景に、シエラ、オフェリア、ゼクトは目を丸くさせて眺めているだけであった。


「ぜ、全然理解できない……。」

「それが、本当に5,000年も前にあった技術なのか?」


ははは、と苦笑いしながら “黄昏ノ箱舟” から “星詠ノ導器” を取り外すアゼイド。


「まぁ、ボクも全ての機能が使えるわけじゃないですよ。こちらにエリアーデが居なければ無理でした。さて、結論から言います。どうやら【血空】の現象はロゼッタが出現しただけでなく、別の “ディア” が出現しても現象が生じるというのが、最も可能性の高い結果となりました。」


唖然とする全員。


「え、でも、現象自体は操作出来ないって……。」

「シエラ。それは “現象を止める” 場合だよ。存在するものを減らしたり無くしたりするのは無理でも、元々反応が鈍かったものの、感度を高めて現象化させることは、難しい話じゃない。特に【DEAR(ディア)】を利用した事ならね。」


腕を組み、唸るゼクト。

その後ろ、【黒冥龍アグロ】と、【白陽龍シロナ】ことエリアーデも唸る。


「恐らくパルシスでしょう。彼女は唯一【依代】の身でも他者から【DEAR(ディア)】を奪えます。その条件を合わせ、身体から溢れる【DEAR(ディア)】と大気の魔素を反応させるようにルールを歪めた、というよりも緩めたと考えられます。」


そう言い、エリアーデは窓の外を見る。

血のように、真っ赤に染まる空だ。


「この空の下、奴が動いているのか。」


眉間に皺を寄せてアグロも呟く。


「どうするのだ、アゼイド殿。“移動要塞グリヘッタ” を先に発見されたら、不味いのだろう?」


ゼクトの問いに、頷くアゼイド。


「ええ。そこで今、改修をしました。」


アゼイドは、“星詠ノ導器” を起動させる。


すると、今まで見たことのない紫色の濃い点が輝いていた。


その数、12。


「精度は低いですが、【依代】でも反応できるようにしました。これらは、全て “ディア”、恐らくエリアーデが言ったとおり……パルシスでしょう。」


苦々しく呟くアゼイド。


「奴も分身数を増やせるようになったのか。」

「ええ。ただ、12が限界数であるかどうかは分かりませんが、分身を遣って探していると見て間違いないでしょう。」


12の光を眺める。

うち一つは、このグレバディス教国だ。


「……どこかに潜んでいるのか?」

「そうでしょうね。こいつは斥候でしょう。こちらの動きを捉え、本体やルーナに情報を明け渡していると考えましょう。教皇猊下に、厳戒態勢を引いていただくよう直訴してみます。」


ゼクトとアゼイドの会話の途中、ジッと “星詠ノ導器” を見つめるシエラとオフェリア。

そして目を合わせ、頷く。


「アゼイド君、ゼクトさん。あいつ等、“赤の平原” に集まっているね。」

「……本当だね。よく気が付いたね。」


ただの水晶体で、模様が浮かぶ程度なのだが、集まる光の様子と、世界地図を頭に浮かべて “どこか” が読み取れるようになったシエラとオフェリア。

伊達に “元十二将主席”、“皇帝代行” では無い。


「12体のうち10体も集まっているね。」


そうぼやき、アゼイドは立ち上がる。


「……また、あいつ等の策略では?」

「あり得る。だが、放っておくわけにはいかない。」


その言葉に、頷くシエラ。


「よし。昨日決定した、“討伐チーム” で向かいましょう!」


武者震いをさせながら、オフェリアが宣言する。

頷く全員。


「もしかすると、“ディア” 全員が揃っているかもしれない。だが、こちらの守りも必要だ。ガンテツ様も武具の量産に入られたそうだが、一時中断してもらいます。撤退も視野に入れて、奴等の妨害、そして可能な限り討伐を試みよう。」


各々準備を行い、外へ向かう。



――――



「……ディール、ユウネ。連絡がきたよ。」


高級宿の部屋。

道具の整理をしていたディールとユウネに、ホムラが伝える。


「よし。アゼイドさんの部屋へ行こうか。」

「うん。」


ストレージバックを背負い、ディールとユウネは頷き合う。


「が、がんばろうね!」


震えながらライデンが紡ぐ。

その言葉にホムラの頬が赤くなる。


「わ、私たちの足を引っ張らないことね!」

「またぁ……すぐホムラさんはそういう事を言う。照れ隠しだってバレバレですよ?」


ボンッ! と真っ赤になるホムラ。


「何言っているの、ユウネ!」

「まぁまぁ二人とも! アゼイドさん達が待っているから、早く行こう!」




“討伐チーム”

ホムラを携える、【剣神】ディール。

ディールの婚約者にして世界最強の魔導士、【女神】ユウネ。


元十二将主席【天衣無縫】シエラ

“史上最強” の “咎人” アゼイド


ソエリス帝国十傑衆1位【百鬼夜行】ゼクト



そして。


「オレ達もディールと一緒に戦う時が来たか。」

「ディール様、ユウネ!私も精一杯がんばるね!」


アゼイドとシエラの部屋の前。

【五聖】が揃っている。


「ほ、本当に行かれるのですが……教皇猊下?」


震えながら訪ねる、【雷の神子】レナ。

にこやかに頷く、教皇アナタシス。


「ええ。これでも【聖者】ですから。あと皆さま、“討伐チーム” 結成中は、私の事を “教皇” とは呼ばないでくださいね?」

「あ、はい。……メリティース、様。」

「敬語も、敬称も無しでお願いします。」


教皇アナタシス、もとい【聖者】メリティースの言葉に、たじろく【剣聖】ゴードン。


「ほ、本当によろしいのですか、ディール様。」

「あ、貴方に “様” を付けて呼ばれるのは違和感しか無いので、止めてもらえませんか?」


恐る恐る、そして震えるのは【聖王】であるソエリス帝国皇帝オズノート。

その隣に立つのは、ディールのパートナーとなった、【紫電龍ライデン】だ。


【五聖】全員、“龍神” の魔剣化、“深淵” が握られる。

そのうち二振り、【紅灼龍ホムラ】はディールが、【銀翔龍フウガ】は留守番をする連合軍 “総統” マリィの手にある。


必然的に、戦力増強という意味で、【聖王】オズノートの手に【紫電龍ライデン】が握られるのであった。


「ディールに感謝しなさいよ!」


ふんぞり返って睨む、ホムラ。


「お、おい! やめろホムラ!」

「いや、良いんだ。オレは “討伐チーム” の一員だ。立場など、関係ない。あるのは、【ディアの悪魔】どもを斃すことだ。」


【黒冥龍アグロ】の一月に亘る修行の果て、心身共に成長を果たしたオズノートが宣言する。

その言葉に頷く、全員。


「揃ったみたいだね。」


部屋から、アゼイド、シエラ。

そして【魔聖】オフェリアとゼクト、アグロが出てくる。


「目指すは “赤の平原”。恐らく、そこに “移動要塞グリヘッタ” が遺されていると推測される。空振りになるかもしれないが、こちらには “龍神” 様の機動力がある。この10人と、“龍神” 様の手で、必ず、奴等を駆逐しましょう!」


アゼイドの力強い宣言。



“人類の結束” が為された今。

遂に“ディア” という最悪の敵へと向かった。



――――



同時刻 “赤の平原”



「気付かれたみたい?」

「うーわ、予想より早いね。」


合流した、パルシスの分体同士がぼやく。

そこに、もう1体が翼を広げてやってきた。

その手は、血だらけだ。


「首尾はどう?」


手に着いた血を舐めて、飛んできたパルシスが紡ぐ。

実は、“本体” だ。


「ぜーんぜん! ロゼッタとお母様曰く、座標はここで間違い無いみたいだけど、5,000年の間に大きな地殻変動があったみたいだね。」

「あちこち爆破しているんだけど、影も欠片も見えない。」


ああー、と呟く本体。


「私は引き続き、のこのこと平原に入り込んだ奴から【DEAR(ディア)】を搾取するけど、ちょっとでも形跡があったらすぐ呼んでね。あと、これから来る奴等の対応は、あの3人に任せていいから。」


そう言い、翼を広げる本体。


「応援は不要?」

「不要。もう場所も割れちゃっているし、他の地に居る子たちもこっちに呼んで探すの手伝ってもらうわ。」

「バレるの、早かったねー。」


分身体の言葉に、ははは、と笑う本体パルシス。


「お母様の想定通りよ。」


そして、空を見上げる。

真っ赤に染まる空の下、キラキラと輝く光が見える。


「“根” も順調。最悪、殺したっていいんだから。」


そう告げ、ブワリと飛び立つ。



「じゃあ、競争ね。」

「あいつ等が連中を殺し切るか、私らが施設を見つけるのが先か、競争ねー。」


笑いながら作業を進める、パルシスの分身体たち。



かつて500年前。

【五聖】が【赤き悪魔】を追い込んだ最終決戦地。


“移動要塞グリヘッタ” が発見されるのが先か。

赤き悪魔(ロゼッタ)】を斃すのが先か。


運命の決戦が、始まる。

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