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第13話 乗り越えた先

「ハァッ…ハァッ…。」


勝った。

肩で息をしながら、勝利を実感した。


自分の命を執拗に狙ってきた、凶悪な化け物。

ミノタウロス。

それに、勝利したのだ。


かつて、スタビア村で『覚醒の儀』を受ける前。

村一番の剣技で、数々の魔物を屠り、盗賊を撃退し、活躍した自分。

命の危機にも瀕したことも数度あったが、ここまで絶望的な命のやり取りは、初めてだった。


それに勝利したのだ。

かつて味わったことのない、歓喜がディールを埋め尽くす。


―さっすが私と、私の見込んだパートナー!―


”熱纏”を収め、能天気にはしゃぐホムラ。

その声に我に返るディール。


確かに、実際、このとてつもない性能を秘めたホムラがあったからこそ、あれほど強靭で強力な装備を身にまとう化物に勝てたのだった。


「あぁ、オレ達の勝ちだな!」


ディールはホムラを目の高さに掲げて笑顔で応える。


―ちょ、ちょっと!さっきも言ったけど見つめないで!その、恥ずかしいし―


さっきまでの能天気っぷりはどうしたのか。急にしおらしくなるホムラ。


「お前は剣だろうが…。」


呆れるディール。

ふと、足元が青白く光っていることに気が付いた。


目線を向けると、絶命するミノタウロスの身体から青白い粒子が巻き上がってきた。


「なんだ、これ…!」


しばらくすると、全身が粒子状になり、ミノタウロスはその姿を消すのだった。


「…まさか、魔法…?ホムラを抜いたやつを殺そうとする、差し詰め番人ってところか…。ん?」


消えたミノタウロスの跡に、何かが落ちていた。

拳大の淡く白く光る石と、宝石と幾何学模様の入った指輪であった。


「これは、魔石か!」


魔石。

魔力を宿す石で、主に、魔力を原動力にして動く装置や町の街灯、水汲みや火おこしなど、様々な生活の場で需要がある。

魔石は魔物の体内で生成され、それを目当てに生計を立てるハンターという職業が、この世界では多く存在する。

強力な魔物であるほど大きな魔石を得ることができ、また大きければ大きいほど、内包する魔力は高く、その価値は大きい。


ディールも村の警護で魔物を狩った時、欠かさず魔物の体内から魔石を取り出していた。

しかし、このミノタウロスから現れた魔石は初めて目にするほどの大きさであった。

村周辺の魔物から採れる魔石で一番大きかったものはは、せいぜい小指の先ほどの大きさ。

それでもそれなりの価値があるものである。


「消える魔物は初めてだな。魔石を置いて行ってくれたのはありがたいが。」


もしや、この魔石を媒体にして…?

そんな魔法もあるかもしれないが、残念ながらディールは魔法講義が苦手であり、自身も魔法はさっぱりであった。

とりあえず深く考えることをやめにした。


そして、もう一つ。


―綺麗な指輪ね…―


ホムラの興味も、もう一つのドロップアテム、宝石の指輪に移っている。


「なんの指輪だろう?鑑定眼の技能があれば一発でわかるんだろうが…」


いずれにせよ、魔石も指輪も、街で売れば金になりそうだ。


また、ミノタウロスは消えたが、黄金の装備品はそのまま残されていた。

ディールとホムラによってボロボロに切り裂かれてはいるが、装備として成り立つほど純度の高い黄金か、それ以上の金属であることには間違いない。

これも売れば金になるだろう。


ただ、問題はこの量。

ディールの持つストレージバックの許容量を遥かに超えてしまうことだ。


「とりあえず、仕舞うか。」


ディールは背中のストレージバックを降ろし、魔石と指輪を仕舞い込んだ、が。

『バチン!』という音と共に、指輪が弾かれた。


「え…??」


呆然とするディール。

足元に転がる指輪。


魔石はストレージバックに吸い込まれ無事収納されたが、何故か指輪は弾かれてしまったのだった。


もう一度試すディール。だが。


『バチン!』


やはり、ダメだ。


―どうしたの、ディール?―


ホムラも尋ねてくる。

何故だ…?

そう言えば、かつてオーウェンが説明してくれたような…。


『ストレージバックやアーカイブリングといった異空間収納アイテムは、宿す魔力や素材によって容量制限があるけど、どんなに容量があっても絶対に収納できないものがある。』


そうだ、それは何だったか。

思い出せ、思い出せ!!


『生き物と、同じ異空間収納アイテムは、収納できない。』


そうだ!その二つだ!

と、なると、この指輪の正体は…。


「まさか、アーカイブリングなのか!?」


アーカイブリング。

強力な魔力を込められる特殊な宝石と白銀を媒介にした、大容量収納を可能とした異空間収納アイテムの中でも最高峰のマジックアイテム。

主に王族やそれに連なる一部豪族しか手にすることの出来ないものだ。


そんな超希少なアイテムが、目の前に?

そんなバカな…と信じられない一方、確かに自分のストレージバックはこの指輪を弾いた。


「試してみるか…」


ディールはその小さな指輪を掲げ、念じてみた。

すると、脳裏に収納されているアイテムの一覧が浮かび上がった。

間違いなく、アーカイブリングであった。


「マジかよ…。とんでもない物を拾っちゃったな。」


―いらなきゃ、私がもらうわよー♪―


「お前は剣だろうが。どこに付けるんだよ。」


呆れるディール。

だがこの指輪の中に収納されている物。


「ホムラ、たぶんこれはお前の物だ。」


ディールは、アーカイブリングの中から一つのアイテムを取り出した。

それは、ホムラと同じような、真っ赤に輝きを放ち、薔薇の花びらのような装飾が施された美しい鞘であった。


―わぁ!可愛いっ!これ、私の!?―


「たぶん、ね。試してみるか。」


鞘を左手に握り、ホムラを鞘の中にそっと収めた。

ピタリと収まる、ホムラ。


―凄い!ピッタリ!―


歓声を上げるホムラ。

やはり、これはホムラの鞘だったか。


「こうして見ると、ホムラって本当に綺麗だな。」


満足そうに眺めるディール。


―や、やめてよ!恥ずかしいっ!!―


そう叫ぶホムラをよそに、自分の剣帯にホムラの鞘を納めた。


「どうだ?苦しかったり変だったりするか?」


―ううん。違和感ないよ。むしろ、この鞘の中…なんだかすごく安心する。まるで服を着ているみたい―


そう答えるホムラ。

すると、ディールとホムラの脳裏に、あの声が響いた。


【ホムラの封印3から封印6までを解除しました。残り、94。】


一気に、封印が4つも解除されたのだった。


―鞘のおかげかな?封印、解けたね―


「あぁ。また何か思い出せたか?」


―うん。どうやら、私は“魔剣”みたい。それも、付与ではない、純粋な魔剣―


付与でない魔剣。

そんなもの、存在するのか?

だが確かに意思を持ち、自分に語り掛けてくるホムラ。

名実ともに魔剣であることに間違いないのだろう。


「純粋な魔剣…確かに意思をもち、自分で自分の能力を引き出せるなんて付与魔剣じゃ考えられないな。」


―もう一つ。どうやら封印は私の記憶と力を封じているみたい。それらを合わせ、100の封印が施されているみたいなの―


それは何となく今までのやり取りで気付いた。


記憶と力を“封じている”。

それはつまり、人為的にホムラの記憶と力に封印を施した存在がいるということに他ならない。


「と、なると怪しいのは…」


―声の主、ね―


封印を解く時にディールとホムラの脳裏に響く女の声。

恐らくだが、この女が封印をした存在、もしくはそれに関係する人物なのだろうか。


「それが誰かは、まだ分からないんだな?」


―うん。ただ、人なのか何なのか分からないけど…それは何故か『白』だと、記憶がある―


『白』――それが、声の主なのか?


―あともう一つ。これはかなり有力な情報かもしれない!―


声を弾ませてホムラが言う。


―私はどうやら、グレバディス教国?ってところに向かう必要があるみたいなの。そこに、封印を解く鍵がきっとあるはず!―


グレバディス教国。

それは、村長に目指せと言われた地であり、姉アデルが住まう場所。


―ねえ、グレバディス教国ってところ、知っている?―


ホムラは恐る恐る尋ねる。


「あぁ、良く知っている。オレが目指さなければならない場所だ。」


その言葉に、ホムラは声を弾ませる。


―ほんと!?じゃあディール、私も一緒に…―


「もちろんだ。言っただろ。よろしくな相棒って。」


そう言って、ディールはホムラを鞘から抜く。


「一緒にグレバディス教国を目指そう。ホムラとなら、必ず行ける!」


―ありがとう、ディール!大好き!!―



これが、落ちこぼれの烙印を押された少年と、意思を持つ謎の魔剣との出会いであった。


まるで、運命に導かれるように引き合った、少年と剣。

遥か遠く、グレバディス教国へ、彼らは向かう。



「その前に、どうやったらこの洞窟から出られるんだ?なんか知っているか、ホムラ。」


―ずっと暗闇の中で封印されていた私だよ!知るわけないじゃん!―


使えねー!

ディールの叫びが、洞窟に響くのだった。

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