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第11話 ホムラとの出会い

どのくらい、伏せていたのだろう。

どのくらい、叫んでいたのだろう。


声も、涙も枯れた。

ただただ、その場にいた。


どのくらい時間が経ったのだろうか。

ふと、ディールは穴の奥が気になった。


どうせ死ぬんだ。

だったら最後まで足掻いてみよう。


戻れば即死もあり得る。

先ほどのミノタウロスが、自分を待ち伏せしているかもしれない。


ならば、少しでも死が先送りになりそうな道を歩んでみよう。


希望も何もない。

ただ、絶望だけが残る、死への道。


ディールは震える身体をよじらせ、何とか這いつくばって先へ進んでみた。

ここがもしワームの巣なら、そのうち、巨大な口が自分を捕食しようと突っ込んでくるだろう。


そう思っていた。

だがしばらく先へ進み、その考えを改めた。


かなりの時間を伏せて過ごし、今も這いながら進んでいるが、そんな魔物の気配はない。

そうなると、単純な自然穴か――?


いや、こんな人が何とか通れる長い横穴が、自然穴とは思えない。

と、なると。

これは…人工的な横穴か?


微かに希望が見えてきた。

この穴の先は、もしかすると出口かもしれない。


そう思い、身体を奮い立たせ這う。


どうせ死ぬんだ。

この先の景色を見てからでも遅くない。


希望と絶望。

矛盾した感情がディールを染め上げている。


そして…



「なんだよ、こりゃあ…」


たどり着いたのは、縦10m、横10m程の、ほぼ真四角の岩の部屋。

明らかに人工物であると感じる空間の作り。


そして何より、


「扉…だよな?」


ディールの目の前には、3mほどの巨大な観音扉があった。

扉の真ん中には、円盤型の岩が差し込まれており、その岩には、魔法陣のような模様が描かれていた。


「もしかして…この奥にこの洞窟のボスとかいるんじゃないよな…。」


だが、人が何とか通れる横穴に、明らかに人工物の空間と扉。

考えられる可能性として、この先に何等かの”宝”があるのかもしれない。


「…ボスや魔物が出たらアウト。もし、ここが宝物庫で、ただ単に宝物だけでもアウト。」


しかし。


「だが、もし武器が手に入れば…」


この洞窟を進めるかもしれない。


さきほど襲われたミノタウロス。

折れた白銀の剣では傷一つ付けられなかったが、もし万全で、かつ、白銀の剣以上の強力な武器が手に入れば、勝機があるかもしれない。


そんな偶然があるはずがない、が。


「考えるだけ、無駄か。吉と出るか、凶と出るか…」


そもそもこの扉は開くのか?

ディールは試しに扉を両手で押してみた。


すると、真ん中の円盤が仄かにひかり始め――脳裏に言葉がよぎった。



【資格を確認。適合者であると認めます】



「は…?なに…?」


『ゴギギギギギギギ…』


脳裏に聞こえた、女の声。

そして、鈍い音を立てて開く扉。

扉が完全に開くと、そこは、真っ暗闇の部屋。


「なんだ、ここ…」


ディールがは恐る恐る部屋へと入る。

だが、次の瞬間、


『ガゴンッ!!』


突然、扉が勝手に閉じてしまった。


「しまった!罠か!?」


扉を叩くが、押すが、ビクともしない。

すると、部屋がボゥと薄明るくなった。


ヒカリゴケでなく、部屋全体が薄く光っているような…奇妙な明かりだった。


ディールは部屋を見渡す。

扉の部屋と同じく、四角い部屋。

ただ、かなり広い。20m四方はありそうだ。


そして、部屋の真ん中に一つの台座。

その台座には――



「これは…剣、だよな?」



台座には、一本の赤い剣が突き刺さっていた。



奇妙な形をした、諸刃の剣。

柄も、鍔も、刀身も赤い。



そして目を引くのは色だけではなく、芸術的までに美しいその形状。

刀身部分にはうっすらと何かの文字が刻まれている。

尋常ではない切れ味を感じさせる光沢。


そして剣と一体となっている鍔。


鍔は通常、剣を打ったのち、木や装飾された金属などを柄部分から鍔を入れ込み、柄を布や動物の皮で巻き込み固定するのだったが、まるで刀身と一体化しているように見える。


どうすればこんな剣を、人の手で打てるのか?


それほど奇妙で、美しい、赤く輝く剣がそこにあった。


「都合が良すぎる。が、この剣、抜けるのか?」


剣さえあれば。

そう思って入った部屋には、まさに望んでいた剣があった。


出来過ぎる、罠か?

とも思ったが、剣はその刀身の半分以上と思われる部分が、台座…まるで岩のような台座に突き刺さっていた。


とても抜ける気がしない。


「ものは試しだ…」

そう呟き、ディールは赤い剣の柄を右手で握った、その時。



―…誰?―



声が聞こえた。

ビクッとし、思わず剣から手を放した。


「な、なんだ…今の声は…。」


辺りを見回す。

薄っすらと光る部屋は、静寂に包まれている。


まさか、この剣が?そんなバカな、話が、あるか。


再度、それでも恐る恐る剣を握るディール。

すると。



―やっぱり!私を抜こうとしているのね、あなた!―



はっきりと、女の声がした。


先ほど扉から聞こえた声よりも若々しく艶のある声。


驚いたが、今度は剣の柄を放さなかった。


「おいおい、まさか剣がしゃべるのか?それとも…色々あって頭が変になったのか、オレは?」


―あんたの頭はたぶん正常。実際に話しかけているの、私だし―


剣が、応えた。

そう、目の前の赤い剣が、ディールに語り掛けているのだった。


「マジかよ…しゃべる剣かよ…。そんなの聞いたことないぞ。」


ディールは震えながら呟く。


―そんな事、私に言われても…―


それよりも!と剣は語る。


―ねぇ、私を、抜いて!ここから連れ出して!―


「連れ出してって…一体、お前は何なんだ…?」


―分からない。私が何なのか、なんでここに居るのか…―


そう、剣は応える。


―でも、これだけは分かる。私は強い。きっとあんたの助けになる!―


そう力説する、目の前の赤い剣。

確かに、一目見ただけで業物を彷彿とさせる剣。


そして、柄を握ったディールは確信していた。

幾時も剣の修行に明け暮れ、身体の一部のように振るっていた剣。

触れればそれがどんな名剣か、感覚でわかる。


そんなディールが、柄を握った瞬間から確信したのだ。

白銀の剣とは天地ほどの開きのある、業物である、と。


ただ、何故か話しかけてくるし、意思があるのが不気味で仕方がない。

フーッとため息をつき、ディールは剣に向かって言う。


「抜けるかどうか、わかんないぞ。こんなに深く突き刺さっているんだ。」


―分かっている。抜けなければ…仕方ない。―


けど、と剣は言う。


―けど、なんとなくだけど、あんたは私を抜ける気がする。こうして、私の声が聞こえるのが証拠よ―


どんな証拠だよ?

ディールは思わず笑う。


「わかった。抜いてみる。もし、抜けたら…」


ディールは、右手に力を込める。

どのみち、抜かなくては、いや、抜けなければ『死』がほぼ確定するのだ。

意を決し、ディールは力強く剣に宣言する。


「今日から、お前がオレの相棒だ。」


その言葉に、剣の声が弾む。


―ええ、よろしくね。素敵な相棒さん!―


「いくぞ!!」


ディールは剣を引き抜こうと腕を上げた、その時!!


『キィィィィィイイイ……ン』


甲高い音と、光沢を輝かせ、赤い剣はするりと抜けた。

岩の台座に突き刺さっていたとは思えないほど、まるで鞘から抜刀した如くあっさりと抜けてしまったのだ。


「おい、簡単に抜けたぞ…。」


拍子抜けである。


―あ、あは、あはははは!本当だね!でも、ありがとう!!これで―



【ホムラの封印1と封印2を解除しました。残り、98。】



ディールの脳裏に、女の声が響いた。

さきほど、扉を開こうとした時に聞こえた、あの女の声が響いた。


「なんだ、また頭に…一体。」


ディールがあたりを見回し呟く。


-そうよ、そうよ…-


何やら赤い剣が興奮するように呟いている。


―そうよ!私の名前は、ホムラ!!なんで思い出せなかったんだろう!!私は、ホムラ!!―


赤い剣…ホムラが声を弾ませて言う。


「そうか、お前はホムラっていうのか。良かったな、思い出せて。」


確か“女の声”はこう言った。

【ホムラの封印1と封印2を解除しました。残り、98。】


「つまり、さっきの女の声が正しいとすると、オレが抜いたことで封印、とかの1つ目と2つ目が解除された、ってことか。」


―そして、残りは98個もある、と。―


ホムラも答えた。


「…お前にも、あの声が聞こえたのか?」


驚くディールに、ムスッとした声でホムラは言う。


―お前じゃない、ホムラだ。ちゃんと名前で呼んでよ…えっと、―


「あぁ、悪かったホムラ。オレはディール。ディール・スカイハートだ。」


―ディールね!いい名前じゃない!これからよろしくね、ディール!―


ディールも名乗る。ホムラは声を弾ませて、それに応える。


「ところで、さっきの質問なんだが…」


―うん、私にも聞こえた。封印1と2が解除されたって。あと98ってのも―


どうやら、ホムラにも女の声が聞こえたようだ。


「その、2つ封印が解けたおかげで、名前を思い出したってことか。」


―たぶんね―


「あと、何か思い出したことはあるか?」


―うーん、名前以外はさっぱり。でも、さっきの声は、聞き覚えがある。―


扉の声と封印が解けたことを告げた声。その声に心当たりがあるようだ。


―でも、さっぱり思い出せない!なーんか、沢山モヤがかかっているみたい!―


と、ホムラが苛立ちを隠さず告げる。


「まぁ、それは思い出したら教えてくれればいい。あと何かあるか?」


解けた封印は2つ。まさか名前だけではないだろう。


―うーん…あとは…。あ、そうそう!私なんだけど…―


その時、『ゴゴゴゴゴゴゴゴ…』と地鳴りと共に、部屋が揺れはじめた。


「な、なんだ!?」


『ビキッ…ビキッ』

大きな亀裂音と共に、扉と反対側の壁が開き始める。


壁に大きな穴が開き、その中には高さ3mほどの黒く長細い箱が現れ、揺れが収まる。


「なんだ、あれは…」

『グギャアアアアアアアオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!』


ディールの呟きをかき消す。

けたたましい叫び声。この声に、ディールは聞き覚えがある。


「ま、まさか…」


叫び声は、黒い箱から聞こえた。

次の瞬間、『バチャッ』という音と共に、水のように黒い箱は溶け、その中身を露わにした。


そこに居たのは、黄金の鎧、黄金の兜、そして黄金の大剣と巨盾を構える、巨大な体躯。

黄金の兜の隙間から雄々しい2本の角がそびえる。

何より、見覚えのある、その凶悪な貌に、ディールは戦慄する。


「ミノ、タウロス…」


忌まわしき、ミノタウロスがそこにいた。

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