ウェーイ系勇者の魔王討伐譚
【あらすじ】
艱難辛苦を乗り越え、魔王のいる城にまでたどり着いた勇者たち。
ここまでにあった幾多の思い出が、傷だらけの彼らの胸のうちに蘇る。
――だが魔王は、既に世界を凍らせる魔法『永久の眠り』を発動させていた。
大地は輝きと命を失い、空と海は瞬く間に色褪せ、世界はじきに、悲しみの氷に包まれるだろう!
立ち向かえ勇者。抗え勇者。
生きとし生けるものたちの希望は、勇者の双肩に託されている――!
「――ふはははは、よく来たな勇者よ! ここまで幾多の困難を退け、我が精鋭なる四天王を倒し、とうとうこの魔王城の頂上まで来た努力は誉めてやる。
――だが、お前たちは遅すぎたのだ!
既に世界を凍らせる魔法、『永久の眠り』は発動している!
大地は輝きと命を失い、空と海は瞬く間に色褪せ、世界はじきに、悲しみの氷に包まれるだろう!
お前たちが必死に七つの秘宝を集めたところで、もう手遅れなのだ。
古の秘宝など、所詮は貴様らには過ぎたオモチャだったのだ――!」
「そんな勇者から始まるーー!?」
「「「いぇーーーーい!!」」」
「王様ゲーーーーム!!」
「「「いぇーーーーい!!」」」
「……は?」
魔王城、頂上にて。
世界の破滅を予感させる暴虐非道の魔王の姿と、何か知らんが空気を読んでノリノリでいかなきゃいけないパリピな世界がそこにあった。
「40度のウィスキーを! 8度のお酒で割ったら! 5度になりまーーーーーーすwwww」
「ウケるww割り算めっちゃおもろいんやけどww」
「魔王ちゃん行っちゃお! ここは魔王ちゃん禊行っちゃおって!」
「魔王ちゃん飲むってウーワーサー!」
「は? ――は?」
訳もわからず飲まされる魔王。飲み会は始まったばかり。生ぬるい飲み会ではない。ウェイの飲み会である。
即ち会話のテンポが早い。目まぐるしく話題が展開さて、馬鹿みたいに盛り上がる。
げらげらと笑って饗宴が続く。ここはそんな世界である。
「ん、んぐ、むぐ――ぷはっ。お前たち、何を勘違いしているのか知らんが、この私に酒を飲ませたところで」
「てかさー! 魔王ちゃんの挨拶エグない? 俺ら来た瞬間にさー、『だが、お前たちは遅すぎたのだ!』とか言ってたじゃん? いや遅いって何? 何か始まってんの?」
「ほんまそれなーー! ウチら抜きで始まってんのかよーーって感じーー!」
「あれ若干滑ってたやんww」
「もっかい禊行っとく? まだウィスキーめっちゃ残ってるし」
「ちょ、ん、んぐ、んむ!」
禊。
空気をシラけさせたらまずは飲んでおけ。
そんな暗黙の了解が、魔王に次々と酒を汲み与えていた。
「き、貴様らっ、ちょ」
「「「言いたいことは! 飲んでから言おう?」」」
「はい!!」
「「「飲んでかーら言え! 飲んでかーら言え! 飲んでかーら言え! まずお酒! 飲んでかーら言え! 飲んでかーら言え! 飲んでかーら言え! まずお酒!」」」
「んっ、ぐ、んむっ……」
有無を言わさない飲みコール。言葉を封じる悪いノリがそこにある。
せっかく盛り上がっているのに水を指すな――という雰囲気が、この飲みコールの秘めたる魔力なのである。
「う、ぷはっ……けほっ、貴様らっ」
「あ、ちょい残し! あ、ちょい残し! あ、ちょい残しーは、倍返し!」
「「「あ、ちょい残し! あ、ちょい残し! あ、ちょい残しーは、倍返し!」」」
「ちょ、新しい酒、こらっ、――むぐっ!?」
当然ちょっと残すこともNGである。
ちょい残しは倍返し。これは自然の摂理である。残すことは罪である。だからこそ、贖罪するために新たなる杯を乾かす必要があるのだ。
「おいおいおい! 魔王ちゃん全然飲めるじゃーーん!」
「んぐ、っぐ、ぷはっ……ぅ…………。き、貴様ら」
「カッコいいじゃん! 中々いいじゃん! じゃんじゃん飲もーうじゃん! はい!」
「「「カッコいいじゃん! 中々いいじゃん! じゃんじゃん飲もーうじゃん! カッコいいじゃん! 中々いいじゃん! じゃんじゃん飲もーうじゃん!」」」
「!? んっんむっ、ぐっ!?」
飲みっぷりがいいことは賛美の対象である。
魔王は飲んだ。ならば褒め称えるべきである。純然たる敬意と盛り上がりの結果である。勇者からの賛美を受けて、魔王はまたしても新たなる杯を手に入れたのだった。
「あれ? 魔王ちゃん瓶もってんじゃん?」
「ぅ……ぷはっ…………。お、お前が、持たせら、から」
「――はい! なーに持ってんの! なーに持ってんの! 飲みたいーかーら持ってんの!」
「「「はい、ドドスコスコスコ! ドドスコスコスコ! ドドスコスコスコ! おいしいわい! はい、ドドスコスコスコ! ドドスコスコスコ! ドドスコスコスコ! おいしいわい!」」」
「!! むぐっ、むっ、むーっ!」
持たされた酒を油断して持っているだけでも飲まされる。これは当然のことである。飲みたいから持ってるのだ。
そもそも飲みたくないなら持ってないはずである。油断している魔王が悪いのだ。よって魔王は飲む。論理的な帰結であった。
「……っ、…………っ」
「まーだ瓶もってるじゃーん! これリンダリンダじゃない!?」
「…………っ、ぷはっ、お、お前っ、いい加減にッ……」
「はい、瓶だ瓶だーー! 瓶だ瓶だ瓶だーあー! 瓶だ瓶だーー! 瓶だ瓶だ瓶だーあー!」
「「「瓶だ瓶だーー! 瓶だ瓶だ瓶だーあー! 瓶だ瓶だーー! 瓶だ瓶だ瓶だーあー!」」」
「!!! むっ、むぐぐっ、むぐぐっ!!」
替え歌も当然ある。歌う人と飲む人。
歌詞を知ってるのは勇者たちなのだから、必然と勇者たちが歌う側になる。飲む側は当然魔王である。役割分担、盛り上げのための分業なのだ。ここは飲み会なのだから甘えは許されない。
「……っ、……っ、…………んぐっ、げほっ」
「あれ、溢してる!? これ粗相じゃない!? 粗相じゃない!?」
「むぶっ、う、うるさい! 勇者貴様っ!」
「えーす!! おー!! えす、おー、えす、おー、そっそっう! はい!」
「「「そっそうっ! 粗相! そっそうっ! 粗相! そっそうっ! 粗相! そっそうっ! 粗相!」」」
「!!!! むぐーーっ! むぐぐっ、むぐっ!!!」
無論、粗相は当然許されない。
飲み物を溢したり、場の空気を悪くしたり、そういう粗相はいったん誠意をもって謝罪せねばならない。
どうやって水に流すか? 当然、飲んでである。そうすれば皆も笑って水に流してくれるであろう。
「誰だ! 誰だ! 誰だーー!!
酒を飲みたいやつがいるー!
そいつのなーまえはー!
魔王ちゃーーーーん!」
「「「飲め! 飲め飲め、魔王ちゃーん! 吐け、吐け吐け魔王ちゃーん! 飲め、飲め飲め魔王ちゃーん! 吐け、吐け吐け魔王ちゃーん!」」」
「むぐぐっ!!! むぐぐっ、むご、げほっ」
――――。
「おい! 待てーー! ルパーーン!」
「たらたららららーん!
てれっ、てれっ! てれっ、てれっ! てれっ、てれっ!
魔王ちゃーーーーーーん! はいはいはい!」
「「「魔王ちゃーーん! 飲んでなーーい! 魔王ちゃーーん! 飲んでなーーい! 魔王ちゃあーん! 飲んでなーあい! 魔王ちゃーーん! 飲んでなーーい!」」」
「むぐぐっ!!! むぐぐっ、むご、げほっ」
――――――。
「あるー日ー! 魔王ちゃーん! お酒が! 飲みたりない!」
「「「そこでイッキッキーのーきーー! そこでイッキッキーのーきーー!」」」
「むぐぐっ!!! むぐぐっ、むご、げほっ」
「ところが! 魔王ちゃーん! まだまだ! 飲み足りない!!」
「「「そこでイッキッキーのーきーー! そこでイッキッキーのーきーー!」」」
「むぐぐっ!!! むぐぐっ、むご、げほっ」
「ところが! 魔王ちゃーん! 今飲んだの! 水だーった!!」
「「「そこでイッキッキーのーきーー! そこでイッキッキーのーきーー!」」」
「むぐぐっ!!! むぐぐっ、むご、げほっ」
――――――――。
「魔王ちゃーん! お酒の飲み方分かってる!?」
「分からナーイ!? 分からナーイ!? ナイ、ナイ、ナイナイナイ!!」
「「「分からない! 分からない! 分からないなら帰ってウィキペディア! 分からない! 分からない! 分からないなら帰ってウィキペディア!」」」
「むぐぐっ!!! むぐぐっ、むご、げほっ」
「お酒がなくなる手品ーにゃ!! はい! お酒がなくなる手品ーにゃ!! はい!」
「「「ライ! ラララライ! ラララお酒がなくなる手品ーにゃ!! ラララライ! ラララライ! ラララお酒がなくなる手品ーにゃ!!」」」
「むぐぐっ!!! むぐぐっ、むご、げほっ」
「ダーリン、もっと飲むだっちゃ! はい! ダーリン、もっと飲むだっちゃ! はい!」
「「「ラム! ララララム! ラララダーリン残しちゃダメだっちゃ! ララララム! ララララム! ラララダーリン残しちゃダメだっちゃ!」」」
「むぐぐっ!!! むぐぐっ、むご、げほっ」
――――――――――。
「魔王ちゃんの! ちょっといいとこ! 見てみたい! はい!」
「「「ドドスコスコスコ! ドドスコスコスコ! ドドスコスコスコ! おいしいわい! ドドスコスコスコ! ドドスコスコスコ! ドドスコスコスコ! おいしいわい!」」」
「むぐぐっ!!! むぐぐっ、むご、げほっ」
「魔王ちゃんの! ごちそうさまが! 聞こえなーーい!? はい!」
「「「もう一杯! もう一杯! ドドスコスコスコもう一杯! もう一杯! もう一杯! ドドスコスコスコもう一杯!」」」
「むぐぐっ!!! むぐぐっ、むご、げほっ」
「魔王ちゃんの! 飲むの遅すぎて! つまらなーーい!? はい!」
「「「もう一杯! もう一杯! ドドスコスコスコもう一杯! もう一杯! もう一杯! ドドスコスコスコもう一杯!」」」
「むぐぐっ!!! むぐぐっ、むご、げほっ」
「魔王ちゃんの! ごちそうさまが! かわいくなーーい!? はい!」
「「「もう一杯! もう一杯! ドドスコスコスコもう一杯! もう一杯! もう一杯! ドドスコスコスコもう一杯!」」」
「むぐぐっ!!! むぐぐっ、むご、げほっ」
――――――――――――。
「殿様! 殿様! 魔王ちゃん村で一揆でおじゃる!」
「「「はい! イッキイッキ! イッキでおじゃる! イッキイッキ! イッキでおじゃる! イッキイッキ! イッキでおじゃる!」」」
「むぐぐっ!!! むぐぐっ、むご、げほっ」
「殿様! 魔王ちゃん村の一揆が収まらないでおじゃる!」
「「「はい! イッキイッキ! イッキでおじゃる! イッキイッキ! イッキでおじゃる! イッキイッキ! イッキでおじゃる!」」」
「むぐぐっ!!! むぐぐっ、むご、げほっ」
「殿様! わが軍は完敗でおじゃる!」
「「「はい乾杯ーー!」」」
「むぐぐっ!!! むぐぐっ、むご、げほっ」
――――――――――――――。
「魔王ちゃん飲むーぞ 魔王ちゃん飲むーぞ 魔王ちゃん飲むーぞー! 五秒で飲むーぞ!」
「「「5! 4! 3! 2! いーーーち!!」」」
「むぐぐっ!!! むぐぐっ、むご、げほっ」
「判定は!?」
「アウトー!」
「まだまだ行けーる まだまだ行けーる まだまだ行けーるぞー! 四秒で飲むーぞ!」
「「「4! 3! 2! いーーーち!!」」」
「むぐぐっ!!! むぐぐっ、むご、げほっ」
「判定は!?」
「アウトー!」
「まだまだ行けーる まだまだ行けーる まだまだ行けーるぞー! 三秒で飲むーぞ!」
「「「3! 2! いーーーち!!」」」
「むぐぐっ!!! むぐぐっ、むご、げほっ」
「判定は!?」
「アウトー!」
「まだまだ行けーる まだまだ行けーる まだまだ行けーるぞー! 二秒で飲むーぞ!」
「「「2! いーーーち!!」」」
「むぐぐっ!!! むぐぐっ、むご、げほっ」
「判定は!?」
「アウトー!」
「まだまだ行けーる まだまだ行けーる まだまだ行けーるぞー! 一秒で飲むーぞ!」
「「「いーーーち!!」」」
「むぐぐっ!!! むぐぐっ、むご、げほっ」
「判定は!?」
「アウトー! チェーンジ!」
――――――――――――――――。
そして、ついに。
「――――――ー」
「あれ? 魔王ちゃんつぶれちゃった?」
どしゃ、と柔らかいものが地面になだれ込むような音がした。いつの間にか周囲を包んでいた絶望と恐怖の威圧はそこになく、ただ、酒で茹だってふにゃふにゃになっているモノがそこに横たわっていた。
魔王、陥落。
屈強と名高い獣人族も、酒にべらぼうに強いドワーフ族も、生まれてこの方酒につぶれたことがない巨人族も、蟒蛇という言葉の語源にもなったほどの酒豪の竜族さえも、ウェイな空気で潰してきた勇者たちは――とうとうこの世の魔族の覇者さえもをつぶしたのである。
――否、つぶしたどころではない。
「魔王ちゃん限界?」
「限界だって!?」
「「「限界をこーえてー! ラララ星のかーなたー!
飲むぞー! 魔王ー! お酒の限ーーりーー!」」」
「むぐぐっ!!! むぐぐっ、むご、げほっ」
「魔王ちゃん飲めるね! がっぽがっぽいこーぜ!」
「がっぽがっぽ!?」
「「「がっぽがっぽ!」」」
「「「がっぽがっぽ行け! がぽ行けがぽー! がっぽがっぽ行け! がぽ行けがぽー! がっぽがっぽ行け! がぽ行けがぽー!」」」
「むぐぐっ!!! むぐぐっ、むご、げほっ」
「はい、一口飲んだならー! はい!」
「「「ぐーーっと! ぐっとぐっと、ぐっとぐっと、参りましょう! ぐーーっと! ぐっとぐっと、ぐっとぐっと、参りましょう! ぐーーっと! ぐっとぐっと、ぐっとぐっと、参りましょう!」」」
「むぐぐっ!!! むぐぐっ、むご、げほっ」
追い打ち。
無慈悲なまでの追撃がそこに待っている。
笑顔。
嬌声。
盛り上がり。
宴会。
終わりがない。終わらないのだ。これだけのペースで盛り上がっておきながら、なぜか全く終わろうともしないし、空気がしらけることもないのである。
薄れゆく意識の中、魔王は悟る。
あ、これ逃げられない奴だ、と。大魔王からは逃げられないのだと。
勇者。女戦士。賢者。僧侶。
酒で定まらない視界と、手の平から零れ落ちるように溶けていく思考の果てで、魔王は、抗うことを遂に諦めた。
世界の果てで、心が折れる音。ウェイやパリピには気付かれぬまま。
――ウェーイ系勇者の魔王討伐譚 完
【後日譚】
魔王は泣いていた。
「調子乗ってごめんなさい世界滅ぼすとか言ってごめんなさいほんと皆さんごめんなさいもうしませんごめんなさい」
「そーれーはないだろー!」
「「「それはないだろー! それはないだろーよーく考えて! それはないだろー! それはないだろー! それはないだろーよーく考えて!」」」
「むぐぐっ!!! むぐぐっ、むご、げほっ」
「魔王ちゃんが飲み足りない!?」
「飲み足りない!?」
「「「飲み足りないから! 飲み足りないから! 僕は酒を一気するー! さあ!
飲み足りないから! 飲み足りないから! さらに酒お代わりするー!
飲み足りない! 飲み足りない! ほら一気に飲み足りないとらんど!」」」
「むぐぐっ!!! むぐぐっ、むご、げほっ」
「飲ーーめーー! 飲め飲め飲めーー!」
「You are the champ! You are the champ!」
「「「飲ーーめーー! 飲め飲め飲めーー! You are the champ! You are the champ!」」」
「むぐぐっ!!! むぐぐっ、むご、げほっ」
――いつか絶対飲ます。倍飲ます。
復讐心に燃える魔王の脳裏には、すでに世界を滅ぼす思いなど綺麗さっぱり消え去っていたのだった。




