第2話 雨暗菜々美という女 前編
あらすじ
地元青森で家族に別れを告げて、夢の大都会東京の一人暮らし!
しかし、引っ越し先のアパートでは管理人さんで株式会社Happy Corporationの社長でもある
橘深月と呼ばれる女性(少女?)に無理やり入社させられてしまう・・・。
そして謎の視線の正体とは・・・
「昨日は散々な1日だった・・・」
俺は、汚れなど一切無い真新しい天井を眺めながら呟く。
職を探しに上京してきた人間にまさか1日で入社(勝手に)が決まるだなんて誰が想像しただろうか?
「しかも、社長と秘書さんどっちも可愛いしなぁ」
社長の深月はあんな性格だが、容姿はもうなんていうか天使!そう、天使みたいだしー。
夕子さんはなんというか大人のお姉さんみたいな感じだな。勿論美しさはとんでもないが。そういえば、深月が昨日他の社員さんにもあいさつするんですよ~なんて言ってた気が・・・
「ということは、俺のほかにも社員さんはいる!」
そう確信した武畜は、届いた自分の荷物をほったらかし家を飛び出し大家さん(深月)の部屋101号室に向かう。
ピンポーン
「すいませーん、104号室の社です。大家・・・みっちゃんいますかー?」
すると、何やらドア越しに『ドンガラガッシャーン』と轟音がした。
心配になってドアを開けるとそこには全裸の橘深月がいた。
廊下にはビールの缶やら、食べかけの弁当の容器、衣服や下着、その他諸々が散乱していた。あれ、ビール缶があるってことは成人済みなのか。あの容姿でねぇ・・・世の中不思議だらけだぜ!
「ちょっとぉ!なに入ってきてるんですかぁ!!」
「うわあああすいません!!あまりにもすごい音が聞こえたものですから心配になってきました」
「外で待っててください!今行きますから!」
「失礼しましたぁ!!」
初めて女性の裸体を見たかもしれない。いやそれは嘘になるな。いつもインターネット上でお世話になっていたのを思い出した。
「ネットで見たのと違うなぁ・・・」
2分ほど玄関の前で待っていると、急いで着替えたのであろう、上は半袖シャツ下はショートパンツの
深月が出てきた。エロい!
「ふぅ~さっきはお騒がせしました!それで何か御用でしょうか?」
「えーと、社長と秘書のほかにもこのアパートにはどなたか住んでらっしゃるのですか?」
「はい!204号室に雨暗菜々美さんがいらっしゃいますよ。」
「ほぉ、雨暗さん?」
「一応うちの社員さんなのですが、人とお話しするのが苦手らしくてあまり外に出てきてくれないんですよねぇ」
「そうでしたか、この会社に来て長いんですか?」
「ん~、まあこの会社自体が去年できたばかりだからねぇ、あ!でも設立当初からいたよ!」
「お!ベテランというわけですね?雨暗さんはどんな業務を担当してるんですか?」
「それがねぇ・・・」
ふと手を顎に当てた深月が204号室の窓際に目をやると、そこには目をがん開きにし充血しきって窓際に張り付きこちらをガン見する女性の姿が見えた。
「うわあああ!!!」
俺はその異様な光景に思わず尻餅をついてしまった。
「大丈夫ですか?」
「あ、はいスイマセン。びっくりしました。あの方が・・・雨暗さん?」
「はい、そうです。雨暗さんああやって窓越しから外を監視してるんです。意外と防犯にもなるんですよ!」
「へ、へぇ・・・。」
生まれて初めて、人の意見に1回で納得できた気がする。
自分でいうのもあれだが、俺は結構ひねくれた性格だと思っている。親に対しても毎度屁理屈ばかりで
なんでか、自分の意見をわかってもらわないと納得がいかなかった。でもこういう性格も直さないといけないのだが。
「それはそうと、他には・・・」
「残念ながら今のところ私と社君含め4名なのですぅ・・・」
「そ、そうなんですね!まあつい最近できたばかりですし仕方ないですよ!」
「ありがとうございます社くん。あ、そうだ!私たちの会社では『MALINE』っていうアプリで連絡とか取り合ってるんですが、一応社君も社員ですので招待しておきますね!」
「そうなんですね。わかりましたよろしくお願いします」
『MALINE』とは今やインターネット業界がとんでもないスピードで普及した今、1人1台スマホやパソコンを
持つ時代の中で欠かせない連絡アプリなのである。手軽にメッセージや電話のやり取りができるといった
利点がユーザーに愛される理由の一つでもある。
「月2位のペースで会社内で懇親会を行ってますので、近くなったらその都度連絡しますね」
「いいですねぇ!社員さんがこれからもっと増えればいいですね」
「あぁー、えっとみっちゃん。俺の仕事はいつからなんですか?」
「んむ~、まだ引っ越してきて日も浅いでしょうからまずはやることを済ませて慣れたなぁと思ったら私に言って下さい。」
「わかりました。それでは失礼します。」
俺は軽くお辞儀をして自分の部屋に戻った。
「まあ、聞きたいことも聞けたし、仕事を探す手間も省けたから良しとしようかなぁ」
実際どうだろう。東京で一人暮らししながら働きたい!だなんてわがままはそう簡単に通るだろうか?
地方とは違い、物価は高くそれに伴って家賃も平均の1.5倍はある。便利なのは便利だが武畜はやはり金全面で不安は残っていた。
ーその日の晩ー
引っ越しの荷物の整理を終え、近くにどんな建物がある程度の範囲の開拓を済ませた俺は今晩の飯に困っていた。時刻は22:00を回っていた。
「いろいろ考えて作業してたらもうこんな時間かぁ、コンビニに飯でも買いに行くか」
そういって俺は部屋を出た、がドアを開けた瞬間目の前には204号室の雨暗さんが立っていた。
昼間に見たときは違って、髪の毛は紐で結んで肩から降ろしており眼鏡をかけていたためか
一瞬別人に見えた。お風呂上りなのか、ほのかにシャンプーのいい匂いが漂っていた。いい匂い!
「おぉっ!こ、こんな時間に何か御用ですか?」
「武くん...まだ夕食を済ませていないでしょう?」
なぜわかった!というかどこかに隠しカメラでもついてて監視されてるのか?俺は。てか武くん?俺そんなにこの人と親しかったっけ。そういえば204ってことは真上の階か・・・
「えぇ、まだですが」
「丁度良かったわ、私の部屋に来ません?一人では食べきれなくて・・・」
「いやいやぁ迷惑ですよこの時間に、今日はコンビニで済ませますよ」
「遠慮なさらないでください。わたしからの引っ越し祝いです。」
この会社の人たちって良い人ばかりなぁ会って初日でこんなに歓迎されるとは思ってなかった。
俺は金全面的な問題があったのを思い出し、情けないがその日の夕食は雨暗さんの部屋でご馳走になることにした。
「お邪魔します。」
玄関に入った瞬間からふんわりとした優しい香りが漂ってきた。所々に花瓶が見受けられる。ユリ、コスモス、チューリップ?花には詳しく無いが、多分そんな感じの花が
置いてあった。それとともにカレーのいい匂いもした。
「お花好きなんですね」
「えぇ、とっても落ち着くんです。あ、どうぞ上がってください。」
部屋に入ると女の子の部屋にしては大分すっきりしていて、全体的に落ち着いた雰囲気の部屋だった。やはり花瓶が置いてあった。
中央のテーブルには鍋いっぱいのカレーが置かれていた。あれ、なんで一人暮らしなのにこんなに沢山作ってるんだ?もしかして大食いキャラとか?
そういえば、作りすぎたとか言ってたな。おっちょこちょいか!可愛い・・・
「武畜さん、お腹すきましたよね?いっぱいあるので沢山食べてくださいね。おかわりもありますから・・・。」
「すいません、正直ぺこぺこっす。頂きます!」
「フフっ、可愛い...」
「?」
何か聞こえた気がしたが、気にせず食べた。がらにもなく3杯もおかわりしてしまった・・・。だってめっちゃうまいんだもん!
「ふぅ~、お腹いっぱいです。ほんと美味しかったです!
「お粗末様です。一杯食べてもらえて私もうれしいです。フフ」
「んじゃ、俺はそろそろ戻ります。すいませんこんな夜遅くにご飯いただいてしまって、おいしかったです!」
「えぇ、またいらしてください。たくさん作りますから・・・フフフ」
何やら怪しい笑みを浮かべている雨暗さんを背に俺は帰ろうと玄関へ行くと
「・・・?やべぇめっちゃ眠い・・・。これは・・いけな・・」
その場に倒れてしまった。引っ越しの準備で疲れていたのかそれとも単純に食べ過ぎて眠くなってしまったのか、どちらなのかわからないが俺はそのあとの記憶がない。
「あららら、意外と早かったですね。よいしょっ、うぅ重いですぅ」
廊下に倒れこんだ、武畜を雨暗菜々美は一生懸命部屋まで運び、布団に寝かせた後どこから取り出したのか手錠と足かせで手足を固定した。
「ふぅ、こんなもんですかね、鍵は一先ずここにでも隠しておきましょう。しかしカレーを作ったのが正解でした。お薬が見えてしまったらおしまいですものね。」
そういうと鍵を自分の下着の中にしまい込んだ。
さてここで軽く自己紹介。私の名前は雨暗菜々美19歳。去年この会社に通りすがりに社長に声を掛けられて勢いで入社してしまったけど、その時別に何かやっていたわけでもなかったし家にいるのが嫌いだった
から、このアパートにきたのよね・・・。社長も秘書もいい人そうだから来てみたけど、あまり家にいるのと変わらないことに気づいてしまったの。でもそんな矢先このアパートに
新しい人が来た。歳は私と同じくらいの男の子・・・。一目惚れだった。私の中で新しい風が吹いた気がしたわあの天真爛漫な笑顔と誰にでも親切に接する優しい人。初めての感覚だった。
同時にあの人とつながりたいと思った。武くんがきたあの日から私はいろいろ試行錯誤してどうしたら自分のものにできるか悩んだ。結果常に監視してなにをしてるか見て研究して
チャンスをうかがっていた。そして今日行動に移した
「可愛い寝顔...ついに私のものになったんですね...」
結果が報われた瞬間であった。しかし同時に嫌われたらどうしようという不安にも駆られていた。それにこの会社にはあと2人女性がいる。もしも武くんのことを
好きになってしまったらどうしようという気持ちも強くなっていく。
「今日は目的を達成できたし、私も寝ましょう...」
菜々美は洗い物を手早く片付けると、目覚まし時計をセットし武畜が眠る布団の隣で添い寝したのであった。
ー話は1話冒頭に戻る。ー
ピピピピ!ピピピピ!
「んぁ~、もうちょい・・・」
そう言って武畜は自身が温めた布団に再び戻る。それとともに柔らかい感触が手元にあることを確かに感じた。
「ん...なんだろう?ムニムニ」
「ふぇぇ...んっ]
「ん~このもみ心地...この収まり具合...これは」
「私の胸です...///」
「わあああああああああああ!」
その瞬間眠気という眠気がどこかにぶっ飛んだ。眠気ってなんだっけ!ていうかここどこだ!後なんで手足が拘束されてんだYO
「確か、俺は昨日雨暗さんの家で晩御飯を頂いてそのあとは...」
「もぅ武くんったら昨晩は激しくて大胆でしたよ///」
「あれ、俺昨日晩御飯食べた後の記憶がないんですが、てかこの拘束は雨暗さんが?」
「武くん寝相悪いんですもの、こうやって縛り付けておかないと私何されるかわからなかったから...」
えぇ...俺そんなに寝相悪いほうなのかなぁ?ちっちゃい時から部屋に一人で寝てたからあんまよくわかんねぇや。たまに妹が横にいた時があったけど(笑)
というかほとんど初対面の相手の家に勝手に泊まってしまって良かったのか?!後多分、この布団雨暗さんのだよなぁ。んん理性ががが
「雨暗さん、俺そろそろ帰ります!なんだか寝落ちしてたみたいで...ハハハ」
「いえいえ別に構いませんよ。このままここにいてもらえると私は助かります」
「すいません、本当に...って、え!?いやいや明日から仕事も始まりますし今日はいろいろ手続きに行こうと思ってましたので」
「仕事だなんて、こんな会社でやる仕事なんてたかが知れてるんですから、お金だって私たくさん持ってますから何にも心配いりませんよ。
それに手続きだって私が全部やってあげますし、ご飯だって作りますし、何ならリクエストさえくれれば毎日その通りに作れますよ?トイレもお風呂も寝床も食事も睡眠も
全部私が管理しますから。武君は私に思う存分甘えてください。何にも遠慮なんていりませんよ。あ、もういっそ武君の部屋と繋げちゃいますか。どうせ真下の部屋ですし
どうしてもというのなら、私の願いを聞いてください。」
「ハ..ハハ冗談ですよね雨暗さん?それでお願いというのは」
「本気ですよ?冗談だったらここまでしませんって普通。どうしても断るというのでしたら、私と結婚してこの会社を辞めてどこか遠いところで私と暮らして
頂きます。さあどうしますか?武君」
やばい!なんか知らんがやばい!今結構崖っぷちなんじゃ・・・あぁどうしよこういうの初めてだし・・・とりあえず褒め散らかす!
「いやぁ、もちろんご飯は美味しかったですし雨暗さん可愛いですしお部屋もきれいですし、お花のいい香りとか特に!結婚って言ってもまだお互いあまり知らないですし
それにほら、俺がここにいなくても真下は俺の部屋なんですから、いつでも遊びに来ていいですよ!俺も暇だったら遊びに来ますし。確かにまだ俺この会社入りたて(半ば強制)
でまだなにもしてないですけど、社長も秘書さんもいい人ですし、これからいろんな人が入社してくると思いますしなにより雨暗さんがいてくれて良かったと思ってます!」
プシュゥゥゥ
雨暗さんは顔を真っ赤に染めて気絶していた。
「お!効果抜群!ひとまずこの場はしのげた・・・かな?」
結構勢いで喋ってしまったが、正直な思いをぶつけたと思ってる。実際社長のひところがなければ俺はまだ就職活動中だったであろう。それにみんな本当にいい人だし
俺は今のうちにと思い。雨暗さんを無視して外に出ようと思った。が大事なことを忘れていた。
「この拘束誰が解くんや?」
続く・・・
HappyWork! 第2話をお読みいただきありがとうございました。
新キャラ登場です。
『ヤンデレ』というものを詳しく知らなかったので、若干違うかと思われます。
間ぁでも自分で執筆している際、こういう女性も悪くないなと思ったり思わなかったり(笑)
社長と秘書さんが登場しなかったのはちょっとミスったなと思いました。
では、次回第3話お期待ください!