好きです、琢磨様
二部構成です!
しばしの間、お付き合い頂けると嬉しいです。
キャラ名
北城百合亜→きたしろ ゆりあ
堂上琢磨→どうじょう たくま
私は10才の時に湖で溺れたことがある。
湖の中はとても冷たくて怖かった。もがいてもどんどん沈んでいく身体に、このまま死ぬんだと思った。もう駄目なんだと思った。
薄れゆく景色の中で金色に光る何かが見えた気がした。
「ごほっ……!! ううっ……」
苦しい! 水を吐き出した私は思いきり息を吸い込む。
その様子を心配そうに覗き込む少年は「大丈夫?」と背中をさすってくれた。
ひとしきり咳き込んだ私は落ち着くと、助けてくれた彼にお礼を言おうと顔を上げた。
あれ? 何処かでこのシーン見たような……
そう思った瞬間、頭の中に『私』の記憶が入ってきた。生々しいほど強烈で強い感情と一緒に。目まぐるしい情報量にめまいがする。
それは前世の記憶だった。
前世の『私』は、不運な事故で死んだ。確か、修学旅行中に山で足を滑らせて転落したんだっけ?
今世は湖。前世は山か。落ちすぎだなー。と記憶に思いを馳せる。
どうやらここの世界は、かつての『私』がとてつもなく好きで、気に入って読んだ小説の世界のようだった。
その話の中には、ヒロインとヒーローの関係に難癖をつける、いわゆる当て馬キャラがいた。
そのキャラの名前は北城百合亜。黒髪に黒眼のわがまま娘。
10才の時に湖から落ちた彼女は、目の前に居る色素の薄い茶色の髪に碧眼、超絶イケメンである彼に助けてもらう。
この出会いをきっかけに両家で私達の婚約が決まり、晴れて婚約者同士になるのだ。
高校2年生の進級時に、彼から婚約を破棄されるまでは……。
彼は高校の入学時に、ヒロインと恋に落ちる。二人の仲を嫉妬した百合亜は、仲を引き裂こうと画策するのだ。
百合亜の妨害を乗り越え、二人の絆は固くなる、といったストーリーだったと思う。
この湖のシーンはヒロインに百合亜と婚約した経緯を、彼が話すところにあった挿絵。暴言を吐き、仲を引き裂こうとする私の立ち位置は、ヒロインを虐め抜く『悪役令嬢』ってやつで。
ってことは! 目の前にいるのは、もしかしなくとも夢にまで見た彼じゃない?
確か、お、お名前は……堂上琢磨様。
あ、ちょっと待てよ。私まだお礼言ってないじゃない。
急に前世の『私』を思い出して呆けてしまった私を、彼はまだ心配そうに見ている。間近でみる彼の顔は、挿絵なんて目じゃないほど可愛らしかった。
「助けて頂きありがとうございます」
身体を起こして辿々しくお礼を言う私に、彼は満面の笑みを浮かべた。
「全然たいしたことしてないよ。無事で良かった」
その笑顔に煙が出そうになるくらい頬が熱くなる。
何これ! 超、眼福!!
可愛すぎて悶絶しそう……!!
そうして、静かに悶絶していた私は、探しに来ていた使用人達に慌てて屋敷に運ばれた。湖に落ちたからか、前世を思い出したからか、私は熱を出して倒れてしまったのだ。
その後、私は何日も寝込んでしまったらしい。
比較的体調が良くなった後、お父様から彼との婚約を聞かされた私はとても喜んだ。
これから私は琢磨様と主人公の仲を邪魔して引き裂いて、その恋仲を深めるお手伝いができるわけだ!
早速私は努力を重ねた。
小説にでるライバルキャラだからか、私の容姿は整っていた。艶やかな黒髪は、さらさらのストレートで全く癖がない。寝癖だってつかないから、朝の支度だって楽ちんだ!
シナリオ補正最高!
ただ、湖に落ちてからは、百合亜に『私』の記憶が混ざってしまい、わがままを言わなくなった。それをお父様はとても寂しがっていた。
お父様、ごめんなさい。今はお父様にかまってる暇はないんですの。
そこまで直接的な表現はしなかったけど、そういう意味合いの言葉を告げる私に、しょんぼりと背中を丸めたお父様はちょっと可哀相だった。
なんにせよだ。
私は来たるべき日に備えて、勉強を頑張って頑張って、頑張り続けた。
前世で得意じゃなかった勉強は、今世ではそこそこできたので、中学を卒業するまでに上位に食い込ませることができた。
運動は前世も今世も苦手なので、そこには目を瞑ってほしい。
着々と準備を進めながら、私は今日ついにこの日を迎えた。
そう! 待ちに待った今日は高校の入学式。ヒロインと琢磨様が出会うシーンだ。
ここでの私の活躍が、二人の仲を深めると言っても過言ではない。
迎えに来てくれた琢磨様の車へ乗り、私は決意を新たにするのであった。
次の回で終わらせる予定です!
読んで頂きありがとうございます(*'▽'*)