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タバコと休息と少女 (ベニー、ミレーユ、班長、ベルサ) 時系列本編47話後

 密室の中で四つの人影が口にある物を咥えたまま、各々に思い悩んでいた。

 その中で年若く、くすんだ金の髪に鼻筋の通った軍人が、口に咥えていたタバコを筋張った手で離す。

 そのまま換気扇が回る天井へ向って口の中に溜めていた息を吐き出すと、やや濃い目の白い煙が唇から飛び出し換気扇に導かれ吸われて行く。


「ベニー、お前まさか吹かしてただけかよ?」


 捲くった軍服の袖から大きな傷痕が腕に残る軍人が、くすんだ金の髪の男に意外そうな声を上げる。

 ベニーと呼ばれた若い男は考え込んでいた青い目を、腕に傷跡を持つ男の方に向け直す。


「ああ、最近になって肺喫煙は止めたんだよ。班長殿も、ベルサに言われてないのか?」

「うっ……痛い所を突くな、お前は……」


 ベニーが少しだけ皮肉的な笑みを作ると班長が罪悪感と共に、咥えていたシガレット――タバコから手を離す。

 逃げる視線とは裏腹に、班長の鼻と唇からは薄く広がった煙が垂れ流すように換気扇に飲み込まれていた。


「班長、そろそろ禁煙したらどうですかー? ベルサちゃん泣かせちゃ行かんでしょうよ?」


 ベニーと班長とは些か趣の違う形をしたタバコ吸っていた男が、自分が今吸っている物を棚上げして非難めいた口調で告げる。


「お前だって、今まさに吸ってんじゃねえかよ!」

「ふふふ、これはこの前ヤマグチ司令官から貰った試供品の電子タバコですー、俺はミレーユさんの付き合いなんですー」

「……私、別に一緒に一服しようなんて言ってませんわよ?」


 何故か急に自分を巻き込んで来た会話に、呆れ気味で応じているミレーユと呼ばれた女性が、血色の良い唇で電子タバコの煙をゆったりと吐き出す。


 ベニー達と同じ野戦服を着ている筈のミレーユだが、憂いを思わせる仕草と色褪せない気品ある佇まいが、没落した貴族の様に草臥れた色香を漂わせる。


 そんなミレーユの姿を、同じ電子タバコを吸っていた男が鼻の下を伸ばしたまま満足げに微笑む。


「おーい、ミレーユのお嬢ちゃん、このバカどうする?」

「別に、見られても減るものではありませんし、それに慣れましたわ。実際に手を出してくる訳でもありませんし」

「お嬢ちゃんも大概タフだよなあ」

「まあ、この場所で一人抜け駆けしようもんなら間違い無くフクロになるしな」


 気さくに笑うベニーに三人が一瞬だけ固まり、お前が言うのか? と訴える視線を送るが気付いていない。


 先程まで鼻の下を伸ばしていた男が、ミレーユにだけ解る距離で微かに舌打ちを立てて笑みを崩さずに額に一本の青筋を浮き立たす。どうしようもうない。

 ミレーユは笑みを引き攣らせながら、今はお互いそう言うのを自覚している関係では無いだろうと、結論付ける。


 ――何だか、こう言う所で似た者同士だったのですね。

 今頃、トゥレー島の方で二人揃って広告や街作り、果てには街の警備と福祉関係にてんてこ舞いになっているカップルを思い出す。


『それでね、ようやく新しい開発予定地区の地質調査の目処が立ったんだ! お陰で久しぶりにこっそり二人で海に行ったらね、何時か一緒に泳ごうねとか、釣りもやってみたいとか、でも、お腹の痕は見せるの少し恥かしいな、って私が言ったらコウちゃんが急に抱き寄せて、それはエメリの勲章で誇りだよって! もうっ――コウちゃん格好良すぎ!!』


 だらしなく緩みきった映像通信越しでの友人の顔を思い出し、手にしていた電子タバコを握る手に握力がかかる。

 軋む音が鳴り、電子タバコにヒビが入った。後で耐久性に難在りと報告して置こう。


 ヒビを入れた事で幾らか冷静さを取り戻したミレーユが、周りの視線に気付いて言い訳の為にヒビの入った電子タバコを指で遊ばせる。


「それにしてもこの電子タバコといい、班長とベニーさんが今吸っているタバコといい……何だか最近色んな趣向品のサンプルがこっちに回されて来ますわね?」

「そんだけトゥレー島の発展が目覚しいんだろうなあ、逆に言うと、企業のお偉いさん方の殆どが俺達の成功を信じてなかった訳だ」

「現に対立構造出来そうですよねー、トゥレー島入植を苦労して支援していた立場の人らからすれば、今が最大のチャンスなんでしょうけど」


 班長が得意気に誇る笑みを作り、試供品のタバコの缶ケースのデザインを再確認する。

「黒閣下・スペシャル」と達筆な筆書きが印刷された真っ黒な缶ケースには、頭身の小さい悪魔がスタンドマイクをシャウトしていた。


「しっかし、このタバコ……不味い訳じゃねえんだけど、匂いがキッツィなあ。レポート頼まれてなきゃ誰かに押し付ける所だぞ」


 そう言って吐き出す班長の煙は甘く香り、丸で木の実をミルクで混ぜたジュースを連想させる。

 ベニーの方からはそれほど甘ったるい匂いはしないが、口の中にある甘みに耐え兼ねたのか、自分の私物である、赤マルが描かれたタバコを吹かし始めた。


「俺も甘いのはなあ、ミント・バニラとか一体どう言う積りで作ったんだ?」

「比較的にタバコを嗜んでいないターゲット層を狙っているのかも知れませんわね。頂いた資料ですと、他の銘柄より安いようですし」

「なるほどなあ、確かにこう言った趣向の方が若い子らには受けそうだ」


 自分達の元司令官であるロックフェラーがトゥレー島で色々と産業を起そうとしているのは基地内の噂で知っている四人だったが、自分達の元上司がここまで来ると本当に軍人なのか疑わしくなる。


 忙しなく動く小さな足音が不意に喫煙室の方へ近づいて来た。

 その音の正体とガラス越しに映る愛らしい影に、班長とベニーが慌ててタバコの火をもみ消す。

 ミレーユ達も一応、電子タバコのバッテリー止めて置いた。


 勢い良く両手で扉を開けようとした少女の手が、扉を空けるのに手間取っていると、さり気無くベニーが手を貸す。

 すると室内へと、垂れていた濡烏の前髪をお気に入りのヘアピンで留めた少女が何時もとは違い、堂々とした足取りで入ってくる。


 裏表のない無垢な瞳は、今は半開きで据わっており、ベニーと班長に一回ずつ向けられると、二人が都合悪そうに目をそらす。


「べ、ベルサちゃん、一体どうしたんだい?」


 顔に脂汗を垂れ流す班長がぎこちない笑顔のまま、ベルサと呼ばれる少女に向き合う。

 ジュニアハイスクールの制服に身を包んだままのベルサが悲しげに、両手を胸元に引き寄せる。


「タバコ……吸わないって約束しました」

「うっ」

「ぐあ!?」


 男二人が良心に訴えかけるベルサの言葉に苦悶の表情を浮かべる。

 ベニーが見苦しく手を震わせながらもゆっくりと上げ、弁明を図った。


「ベルサ、タバコを吹かしていただけだ、タバコは吹かすだけならそんなに体に害は無いんだよ?」

「嘘です……ニコチンは、水溶性だから、口内で溶けます。……それに、歯肉炎を筆頭に歯周環境も悪くなって、副流煙も……」

「悪かった、俺達が悪かったから! 泣きながら説明しないでくれ!?」


 半開きの瞳に涙を浮かべて、学校で学んだ事を説明するベルサにベニーと班長が慌てふためきながら謝罪を始める。

 

 ――ひとり娘には勝てませんのね。

 ミレーユは、これはこれで何かのネタになるんじゃないかと、見守りながら頭の中で次の構図を練る。

 

 今回の件以降、キャピタル駐屯地ではガムと飴を嗜む軍人が増加した。


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