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酒は飲んでも (コウタロウとエメリ) 時系列本編29.5話

 良くある若い男女の別れ話の一つに「いざ付き合ってみたら想像と違っていた」と言うパターンがある。

 それは今まで女性と付き合った経験の無いコウタロウからしたら、どこか間抜けな話に聞こえたし、自分の彼女であるエメリとは幼少期のお互いを知っている仲で、そんな事とは無縁であると思っていた。

 しかし、それは思慮が足りていなかったのだと改めさせられた。

 自分がそうだと決めつけた瞬間、それは己の常識になって偏見となる。

 人が無意識で日常的に行っていくその行為の代償をコウタロウは今まさに身を持って味わっていた。

 ――舐めていた。


「んふ~~コ・ウ・ちゃーん!」


 エメリの酒に対する弱さを――。


「まさか、アルコール8%の缶ビール一杯でこうなるとは……」


 休日に士官部屋を割り当てられているエメリの部屋で、2人でのんびりと部屋飲みしながら映画でも見ようとしたらこの様である。


「でへへ、カッチカッチの大きい背中―」

「そりゃまあ、鍛えてるからなー……どうしようかな、この状況」


 顔をアルコール反応で真っ赤にさせたエメリが無遠慮にコウタロウに抱きつき、密着させ、背中に頬をすり寄せて来る。

 コウタロウ自身も言葉とは裏腹にエメリを無理に離そうとせず、されるがままに身を任せた。


「むふー……至福のひと時……」

「あーそう言えば昔、近所の爺さんが犬って動物を飼ってたなあ」


 あの犬も今のエメリの様にやたらと引っ付いて来たなと、コウタロウは思い出す。


「度数の高いウィスキーならまだしも、ビールも駄目だったかあ」

「コウちゃん、あったかーい かったーい」

「どうしようかなあ……ってこら、もう飲むのは止せ」


 テーブルに乗せてあった未開封のビールに手を伸ばそうとしたエメリから先回りしてコウタロウが素早く回収する。

 エメリは意識が混濁した瞳で残念そうにコウタロウへと視線を向けている。


「えー……美味しいよう?」

「これ以上酔ったら潰れちまうだろうが……って、なんで脱ぎ始めてんだ、エメリ」

「あっついから……うー、何かうまく脱げない」

「そりゃ、酔っぱらってるからなあ……もう仕方ねえなあ、よい、しょっと!」

「わきゃっ」


 トップスとボトムスを放り投げてシャツ一枚になったエメリを、コウタロウは横抱きで抱え込み、ベットまで運ぶ事にした。

 こうなってしまったら、水を飲ませて寝かせた方が良いだろう。


「わーい、お姫様抱っこだー」

「はいはい、お姫様は早く寝ましょうねー」


 コウタロウが適当に相槌を返しながら、薄着のエメリをベットへと寝かせる。


「水持ってくるからなーっとうあ!?」


 エメリへ水を飲ませようとベットから立ち去ろうとしたら、後ろから右腕を両手で掴まれバランスを崩す。

 コウタロウは引っぱた張本人であるエメリを押し潰さない様に咄嗟に庇おうとした。

 偶発的にコウタロウがエメリを押し倒している状況になってしまう。

 エメリの潤んだ瞳でコウタロウを見詰める。

 熱の籠った呼吸、開けたシャツから覗く柔肌にコウタロウが思わず唾を飲み込んだ。

 ――これはその、サインと言うやつでいいのか!? そうなのか!?

 コウタロウが脳内で自分同士の会議を開くが全員が速攻で「前例が無い為、安易に判断できない」と言う結論を下す。

 駄目だ、経験値が足りな過ぎてどうすればいいか解らない――。


「……昔さ、お昼寝なんかも一緒にしたよね」


 混乱するコウタロウを他所にエメリが懐かしい思い出を語り始める。

 ――助け舟来た! いや、困ってる原因からだけども!


「そ、そんな事もあったのか……俺はあんまり記憶に無いかなあ」

「あー言われてみれば、コウちゃんが結構小さかった時かも。私とエミリの後ろに必死に着いて来ながら、おねいちゃん達待ってーって、可愛かったなあ」

「今の俺からは想像がつかないな……」

「本当に……こんなに頼りになっちゃって……」


 エメリがコウタロウの首へ両腕を回し、自分の元へと引き寄せる。

 コウタロウの鼻腔をくすぐる甘い桃の匂いが強くなった同時に、視界が一気にエメリの体に引き寄せられて塞がる。

 ――やわらけえ……あと何か熱の混じったいい匂いすんだが……やばい、理性がやばい。

 息苦しくも頭を包む心地の良い感触に流されそうになるのを寸前の所で踏ん張る。せめて、事を始める前にエメリへ一言かけなくては。


「エ、エメリ……?」

「……………」

「もしもーし……」


 何か言ってくれないかと、耳を傾け続けているとエメリの呼吸音の調子が変わり、一定のリズムを繰り返し始めた。

 もしかしなくてもこれは――。


「寝たのか……」

「すー……ふ……すー」

「……俺も寝ちまうか……」


 半ばやけくそ気味にコウタロウはエメリに付き合う事にした。

 エメリに抱き留められたまま、恥ずかしくも懐かしい心地好さが睡魔を連れて来る。


「……コウちゃん……エミリ……」


 エメリの口から洩れたか細い寝言を最後にコウタロウも眠りへと意識を落としていく。

 この後、目覚め酔いから醒めたエメリが禁酒を決意したのは言うまでもない。

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