表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/5

訓練兵 準備期間

 脱落者が出たものの基礎訓練を生き抜いた僕らは祝宴をあげた。

 皆、この訓練を通して幾度となく自分の限界と向き合わされ身体以上に精神が摩耗していた。心身にたまった疲労を酒で洗い流す必要があったのだ。そうしなければ、次に脱落するのは自分だからだ。


 僕らには、それぞれ軍人にならなくてはいけない理由がある。

 僕ならば勇者として魔王に対抗しうる力を得、これを打破することだ。魔王を倒さなければこの世界のヒト種共々、殺され、虐げられる運命が待っている。僕がやらなければ誰かがやってくれるなどという甘い事はないのだ。


 僕が僕自身の生存のために戦わなければならないのだ。こんなところで脱落などできない。


 大なり小なり、皆それぞれに使命があり覚悟を決めてここへやってきたのだ。皆、思うところがありながらも祝宴に異を唱える者はいなかった。


 訓練所から城下町へと降りてすぐの広場の一角にある訓練生馴染みのポピーナ|《居酒屋》にぞろぞろと入った。ちょうど厨房では店主夫婦が配膳を終わらせて休憩をとっていた。

 店内は飲食店というには少し開けたホールに木の頑丈そうな、しかし丁寧に角の丸められた机が綺麗に並べられていて店主の腕の良さがうかがえる。

 そんな気取りはないものの品が感じられる店内に祝宴の陽気な声が響く。


「じゃあ、基礎訓練終了に祝してカンパーイ!!!」


「「カンパーイ!!!」」


 僕ら訓練兵一のお調子者が音頭を取り、木製のジョッキになみなみと注がれた香り漂うホップを一挙に飲み干した。

 僕の席には最近塞ぎ込んでいるカイン、妙に目の座っている巨漢ハインケル、気の合う仲間を早く見つけたいという風のランが訓練生お手製のクジで選ばれた。


「そういえば、上はなんでこんな時期に勇者召喚したんだ?」


 ランが2杯目のジョッキを傾けながら心底不思議そうな顔で聞いてきた。漂ってくる焼きたてのパンのような香ばしい香りにつられて僕も一口つけてから答える。


「僕ら勇者も即座に魔王を倒せる状態で召喚されるわけじゃないんだよ。もと居た世界のまんまさ。だから、魔王が復活したときに全盛期になるようにこの時期に召喚されるんだ。」


 魔王を倒せる状態で召喚されるならばカウンターよろしく魔王の目の前で召喚されてるだろうが…。


「勇者さんも最初は俺らと同じ人間ってことかよ。勇者っていうとひとり敵軍の中を駆け抜けてバッタバッタ倒してるイメージだったわ…」


 そんな超常兵器みたいに扱わないで欲しい。こちとら、生身の人間だ。


「それはプロパガンダの聞き過ぎだバカ野郎」


 ランのおかげで、クジ引きで集まり名前と顔だけはなんとなく知っている程度の仲間との関係を探っていた僕らの空気が緩んだ。

 だが、油断は禁物だ。自慢話はダメだ。ウザがられるぞ…。


 ここで気を緩めて調子付くと大学デビューの二の舞いになってしまう。


 僕は異世界デビューを成功させるため訓練以上に緊張していた。

 僕にとってこちらに来てからの最大の敵だったブラックな教官はあっさりと自分自身の調子に乗るクセへとそのポジションを譲った。


 自分を抑えるため、必死に召喚前に読んだ自己啓発本の謳い文句を心の内で唱え続けながら酒をすすめた。


「勇者さんってこの前まで王宮にいたんだろ?王宮ってやっぱり美人さんだらけなのか?」


 話のうまいランが自己顕示欲をそそるような質問を投げた。まずい。自慢話にならないように話さなければ…。刺激されて高ぶる気持ちを抑えるため酸味の効いたつまみを一口含んだ。


「美人か…。」


 ちょうど口の中が空になったとき、いままで黙り込んでいたハインケルとカインが同時に呟いた。


「王宮のメイドさん達の美しさは顔から来るんじゃないんだ、内面から来てるんだ。」


 やらかしてしまった。こうなった僕はもう話しきるまで止まらない…。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ