黄色の入館券
例えば、毛を刈られた羊は、何を持って、その隙間を埋めればいい?
例えば、枯れた大地を潤すものは、何?
例えば、ずれた調律は、どう引き戻せばいい?
答えはどれも同じ。
奪われたものを補う。
無くしたものを補う。
その空間を、補う。
補う。
歪んだ鏡には空色の香りが棚引いて、期限切れの御守りが警鐘を鳴らす。
使われない季節のエアコンの隙間に、誰かの視線を感じるのも、きっと、ただ、ただ、寂しいからなんだよ。
思い出に浸る時間はない。強過ぎる蛍光灯の白に、瞳を晒して、そうすると現れる幻覚が愛しくて。
火に入る虫の気持ちになる。
寂しいことを言わないで。
受け入れる振りをして、行ってしまわないで。
白は嫌いな色。
その中にあなたがいるの。
手のひらを翳すと、手の甲は見えなくなる。
強過ぎる光は、影を作らない。
空が戸惑う時期、現れたあなたは、この白い部屋から出られない私を、きっと、きっと、必ず、きっと、嘲笑って、笑って、水槽を眺めるように、手を伸ばしはしないだろう。
それでもいい、と望んだ罰。
それがいい、と望んだ罪。
多くの別れが生まれたあの場所で、特別な出会いが幾つあっただろうか?
多くの出会いがあったあの場所で、特別な別れが幾つあっただろうか?
きっと私達は稀有で、他に居ない私達で。
あの時間は最早、私の中の美術館に飾られているのです。
全部、全部。
景色は私だけのもの。
あなたにも見せない、私だけのもの。
我儘な私を、どうか海へと放って下さい。
海へと続く道に、放ってください。
流れる景色に佇む層雲を、ただ眺める。
そんな恋がしたい。