表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/15

黄色の入館券

 例えば、毛を刈られた羊は、何を持って、その隙間を埋めればいい?

 例えば、枯れた大地を潤すものは、何?

 例えば、ずれた調律は、どう引き戻せばいい?

 答えはどれも同じ。

 奪われたものを補う。

 無くしたものを補う。

 その空間を、補う。


 補う。


 歪んだ鏡には空色の香りが棚引いて、期限切れの御守りが警鐘を鳴らす。

 使われない季節のエアコンの隙間に、誰かの視線を感じるのも、きっと、ただ、ただ、寂しいからなんだよ。


 思い出に浸る時間はない。強過ぎる蛍光灯の白に、瞳を晒して、そうすると現れる幻覚が愛しくて。

 火に入る虫の気持ちになる。

 寂しいことを言わないで。

 受け入れる振りをして、行ってしまわないで。

 白は嫌いな色。

 その中にあなたがいるの。

 手のひらを翳すと、手の甲は見えなくなる。

 強過ぎる光は、影を作らない。

 空が戸惑う時期、現れたあなたは、この白い部屋から出られない私を、きっと、きっと、必ず、きっと、嘲笑って、笑って、水槽を眺めるように、手を伸ばしはしないだろう。

 それでもいい、と望んだ罰。

 それがいい、と望んだ罪。


 多くの別れが生まれたあの場所で、特別な出会いが幾つあっただろうか?

 多くの出会いがあったあの場所で、特別な別れが幾つあっただろうか?

 きっと私達は稀有で、他に居ない私達で。

 あの時間は最早、私の中の美術館に飾られているのです。

 全部、全部。

 景色は私だけのもの。

 あなたにも見せない、私だけのもの。

 我儘な私を、どうか海へと放って下さい。

 海へと続く道に、放ってください。

 流れる景色に佇む層雲を、ただ眺める。

 そんな恋がしたい。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ