海の一部になる
壁は無い。
いつからここに。
いつから、ここに。
瞳がその潮に染みて、鎖がじゃらと。
髪が伸びてきた。
風に揺れる。
少し、切って来れば良かったな。
白黒の鯱が、泡と泳いでいた。
下の、下の、暗い、暗い所から、死の匂いがして、落ち着かない僕の足は、いつの間にか、底にたどり着いていた。そこから、底が近付いてきて、死が、近付いてきて。
零れ落ちていく僕の欠片を。
底で、其処で、僕が創られる。
ずっと下から、脳を揺らす鯨が吼える。
目が合うんだ。
たまに、僕の部屋から、スプーンの歪みから、携帯のカメラから、切れかけた電灯から、対向車から、駅のホームから、地下の人々から、繁華の声から、エレベーターの扉から、珈琲の底から、カーテンの向こう側から、君の瞳の奥底から。
目が合うんだ。
君の目と似ている。空白のルーズリーフが眩しく、綴った文字は、発音ができない。
泳ぎたい。
沈みたい。
水が、髪を梳く快感。
耳に溶ける音は、僕を一人にしてくれる。
土より優しい。大地より優しい。
夜の言葉が渦に乗り、やがて凍り。
垂れる、世界ではない何かが、歌に載せて。