時間旅行の乾杯
酒缶を開ける。
小気味の良い音が、晩酌の始まりを告げる。
肴はうずらの卵...ああ、切らしていた。
仕方が無いから、開けた缶を上から掴んで、ふらふらと、なんの気もなしに、千鳥足で台所に向かう。
さて、何を活けよう。
野菜室にほうれん草があった。
ベーコン。
エリンギ。
バター。
スパイスを各種。
換気扇を回し、未だIHにする気のないコンロに火をつける。
チッチッチッチッチ...ん、点いた。
先にバターを溶かす。大きくもないフライパンだから、半ブロックでも足りる。
うん...これだけでもいい音と匂いだ。
次にベーコン。少ししてエリンギとほうれん草。少し水気が足りないかな...いや、まぁ大丈夫だろう。
蓋をして待つ。その間に、開いている酒を少し飲もうかと思ったが...すぐ横で、料理の蒸されている音がしている。
完成品の横で飲みたかった。
バラエティの質は下がってきた気がする。
面白いのは続いているものだけだ。
片手間に見るにしても、少し弛れる。
何方かと言えば、テレビを見ているよりは、調理の音を聞いている、という感じだ。
...さて、そろそろ良いだろう。
フライパンにかけた蓋を取ると、油と肉と野菜ときのこが混ざった匂いがした。いい匂いだが、その匂いがするのは当たり前だ。
いい感じにしなっている。うん、美味しそうだ。
センスの欠けらも無い皿に盛り付け、箸を咥えて居間に向かう。料理を机に置いてから、酒を置きっぱなしにしていたのに気がついて、苦笑いしながら戻り、さて、ようやっと揃った。
たまには良いだろう。
面倒というものも、立派な肴だ。
酒が喉を通る、こく、という音が、嫌に目に沁みた。