よくある特撮ヒーロー
事の発端は、本来街の平和を守るべき存在である変身型ヒーローが、不良少年達に混じって、深夜に暴走行為を繰り返していたことが発覚した事に始まる。
当然、地元住民は怒りを抱いた。
住民達は、すぐにこのヒーローを町内会議に呼び出し聞き取りをする。
ヒーローの主張はこうだ。
「自分は今まで命懸けで街の平和を守ってきた。
だが、戦えども戦えども、子供達はすぐに拐われる。
これでは埒があかないと思い、私は子供達に身の護り方を教えてまわろうと考えた。
そして、子供達と直接話して分かったことは、拐われている子供の殆どは、家庭に何らかの事情を抱えており、居場所が無くなって自ら拐われに行っているという信じがたい事実だった。
これではいけないと、私はその子供達の親に話をしに行った。
だが殆どの場合、他人の家庭問題に立ち入るなと罵声を浴びせられ門前払いをされる。それでも根気強く訪問を続けていたら、警察を呼ばれる始末。
自分は何のために戦っているのか分からなくなった。
そして深夜暴走行為をしている少年達は、かつて自ら誘拐されていたものたちだと知り、気が付けば私はそんな少年達と一緒に爆音を鳴らして走っていた。」
ヒーローのこの言葉に、同情を寄せる者も少なくは無かった。
しかし、爆音で安眠を妨げられていた住民達の怒りは当然収まらない。
ヒーローはこの事を真摯に受け止め、自分はもちろん、少年達にも暴走行為を止めさせると誓い、事件は終息するかに思えた。
だが事はこれだけに収まらなかった。
「本来住民に迷惑をかけるのは我々の仕事である。ヒーローにこのような事をされては我々の立場がない。これは営業妨害だ!」
と、悪の組織が参入し訴訟を起こしてきたのである。
そして悪の組織は利害の一致した住民らと手を組み、ヒーローに対して多額の慰謝料を請求してきたのだ。
一体誰が誰の為に戦っているのか、泥沼の展開である。
ヒーローは正義の為に戦っている。それ故、低賃金で質素な生活をしていた。多額の慰謝料など払えるわけがない。
途方にくれていたヒーローだったが、弁護士から予想外の提案をうける。
「ヒーローは、悪の組織に対しては無条件で討伐・壊滅させる事が出来るように法律ではなっています。そして悪の組織に手を貸した者も、討伐の対象になると明記されています。
やりましょうぜ、旦那。」
なんと弁護士は、悪の組織と住民達を討伐しようと持ちかけてきたのだ。
流石にこの提案は受け入れ難いものがあった。
だが、慰謝料から逃れる方法は、もはやこれしか残っていなかった。
ヒーローは直ちに悪の組織の本拠地へと乗り込んだ。
何の策もなく、ただ一人で乗り込むのは本来無謀だ。
だが、慰謝料を払いたくないという想いが、ヒーローを普段の何倍もの強さにパワーアップさせていた。
湧き出てくる戦闘員達を次々と倒し、呆気なく最深部である指令室まで到達する。そこでは、地元住民と悪の幹部達が、お茶菓子をつまみながら裁判に向けた話し合いを行っていた。
ヒーローが侵入していたことをようやく知った悪の幹部達は、最強クラスの怪人を出し惜しみすることなく次々と投入する。そして、各々武器になりそうな物を持っていた住民達も戦いに参加した。
実際に、相手に住民が混ざっているとなると、さすがに堕ちたヒーローといえども迷いが出てしまい、戦闘はヒーローが徐々に押され、遂に窮地に陥ってしまった。
そして、住民達の中心人物であった町内会の会長が、とどめとばかりに鍬を振りかざしたその時だった。
「アニキに手を出すな!」
絶体絶命のヒーローを助けにきたのは、暴走グループのメンバーである少年達であった。
そしてグループのリーダー格である一人の少年が、ヒーローを庇うようにして前に出てくる。
「何故お前がこんなところにいるんだ!」
会長が声をあげる。この少年は会長の息子だったのだ。
「オヤジ、もうやめてくれ!」
その場にいた者全員が、二人のやり取りを注視していた。
「そこをどけ。お前が庇っているそいつは、慰謝料を払いたくないが為にここまで乗り込んできた最低のヒーローだ。」
「違う!この人は、アニキは、俺達の話に耳を傾けてくれて、相談にのってくれたヒーローだ!」
あくまでもヒーローの前から退こうとしない少年。
そんな息子に対し会長は提案をする。
「どうしてもそいつを助けたいというのなら、その暴走グループを解散させて、お前は真面目に学校に行くことだ。それが出来ると誓えるなら、ソイツの命は助けてやろう。」
暫く沈黙した後、少年は覚悟を決めたように口を開いた。
「分かった、誓うよ。」
その言葉を聞いた会長は、この件はこれで手打ちにすると、町内会のメンバー達に話をしだした。反対の声が出なかった事が、会長の人望の厚さを証明していた。
また少年の方も、メンバーに向かってグループの解散を指示した。こちらも反対の声は出なかった。
「人望の厚さは父親譲りだな。」
悪の幹部の一人がフッと笑いながら呟く。
この幹部は、かつてこの少年が自ら拐われに来た時に、面倒を見ていた元怪人であった。
当時この少年は、仕事に夢中になるあまりに家族の事を蔑ろにする父親に対して不満を抱いていた。
そして、母親の葬式さえも仕事の都合で欠席したということが、少年の中で何かを変えさせた。そして自ら怪人に拐われに行ったのだ。
そんな少年の心の闇を、この時下っぱ怪人だったこの幹部は知り、話し相手になっていたのだ。
だが、その時から感じていた。そんな中でも、父親の身体の事を心配していた少年の優しい心を。
他の幹部があくまでも戦い続行を主張するも、自分が責任を取るということで、悪の組織側もひとまずこの件に関しては手を引いたのであった。
こうして、この泥沼バトルは幕引きとなった。
そしてヒーローは、恩人であるこの少年に話を持ちかける。
「君は素晴らしい勇気と人望の持ち主だ。
私はもうヒーローとしての信頼を失なった。
どうだろう、君が高校を卒業したら、私の後を引き継いでヒーローになってみないか。」
この少年なら、自分と違い必ず立派なヒーローになる。そう確信していた。
だが少年の答えは
「いや、それだけはマジ勘弁っす。俺、警察官になりたいんで。」
そ、そうかと返事をしたヒーローの顔は仮面で覆われていたが、どこか寂しそうに見えた。
ヒーローは孤独な存在である。
だが、心に宿した強き勇気に目覚めた時、誰しもがヒーローとなりうるのだ。
そう思いながら、今日もヒーローは夜中に独り爆音を響かせ走るのであった。
おわり




