1.僕はあの笑顔を忘れない
中学3年生のある男子生徒の初恋の話です。
これは、5年前の話だ。
当時僕は中学3年生だった。
今まで苦労なく、それとなく、無難にしのいできた毎日だった。友達にも囲まれ、いじられキャラだったがそれでも楽しかった。
僕は僕の中で平和で自由だった。
ある日、いつものように友達と後ろのロッカーの上に座りながらゲームの話をしているとある1人の女子が教科書を何冊か抱え近づいてきた。どうやら彼女は自分のロッカーに教科書を直しに来たらしい。だが彼女は声を掛けるでもなく、僕らの数歩手前で止まりそのまま空を見つめた。
その子は大人しく、ほぼ目立たない子だった。休み時間は自分の机から動かず、小説を読んでいる事が多くたまに友達と喋っていた。昼休みは特定の人と廊下で話しているのをよく見かける。最初は僕と「同じ」だと思った。
だがその子はオーラが違った。皆と違う、いつまでも目が離せない、吸い込まれるような、そんなオーラを感じていた。特に彼女が空を見ている時、口は微かに笑っているが、どこか悲しげなような瞳はホントに美しかった。
「...い、おい、なに見つめてんの(笑)」
はっ...
友達に言われ、気づいた。とっさに
「そこ邪魔」と、照れ隠しで誤魔化す様に言った。
彼女もそれに気づき、僕を見て、ニコッと笑ってくれた。そして小さく「ごめん、ありがと」と言ったのが聞こえた。
僕は今もその笑顔が忘れられない。
その笑顔は彼女が空を見上げている時のあの瞳の笑顔に似ていたからだった。