03. VSイヌモドキ
「へぇー、ここが君の村なのか」
「なんというか、普通ね」
少女について行った先は、森の中で円形に切り開かれた小さな村だった。
それにしてもあんなに歩いて見つけられなかった俺の努力はいったい....。
「うるさいですね、普通でもいいのです。むしろ普通でいいのです」
イヌモドキを担いだ少女は口を膨らませる。
というかこの子めちゃくちゃ力持ちなんだな。
「ついて来てください、私の家に案内します」
「あなたたちもイヌモドキ食べますか?」
少女は家に入るなりイヌモドキを解体している。見たところ少女一人だけが住んでいるようだ。
中はかなり小さく生活に必要なものしか見当たらない。
「あぁ、少しもらおうかな。そういえば君の名前はなんて言うの?」
解体作業をしながら答える。
「私ですか? 私の名前はセルバと言います。趣味は短剣の訓練、狩り、女湯の覗きです」
「待て待て、明らかにおかしい部分があったぞ」
「....何がです?」
「女湯の覗きはおかしくないか? せめて男湯だろ」
その瞬間俺の頬のすぐ横を短剣が刺さる。
「あ、あのセルバさん....?」
いつの間にかイヌモドキの解体は終わっていた。すくっと立ち上がり俺の元に駆け寄る。
「誠! は、早く謝ったほうがいいって‼︎」
「マコトさん、今何か言いましたか?」
俺の目を見て言ってくる。別に怒っているような顔をしていないのに寒気がする。
俺の本能がやばいと告げた。
「....次言ったら殺しますよ?」
耳元でボソッと言われた。
この場面だけ切り取ってみたら羨ましい人にとっては羨ましいのかもしれない。
が、俺にとっては生死の選択をさせられているわけであって。
「はい!」
そう言うとセルバは殺気を消しイヌモドキの料理を作り始めた。
「ね、ねぇ誠....。なんて言われたの?」
「....聞かないほうがいい」
「出来ました! イヌモドキのステーキです!」
俺たちの前に皿を出す。
「わぁ! 凄く美味しい! セルバちゃんいいお嫁さんになれるね!」
「いやぁ、アカネさんにそう言われると嬉しいです」
なんて平和な会話なんだろう。でも明らかにおかしい所がある。
「あの、僕のステーキじゃないんですけど、骨なんですけど」
「あぁすみません。間違えちゃいました。ま、それで我慢してください」
俺は犬扱いなのか....。
「ところでなんで森にいたんです? 普通この森に入る時はこの森に詳しい人が付き添いでいくはずなんですけど」
「それが分からないんだよな。俺たちも気づいたらここにいたんだから」
うーん、とセルバは腕を組む。
「あなたたちに分からないならどうしようもないんですが....。....そうだ! 長老に聞いてみましょう!」
長老なんているのか。なんだかrpgの世界に来た気分だ。
「キャァァァァァァ‼︎」
「何だ⁉︎」
外から女性の悲鳴が聞こえる。それを聞くといち早くセルバが駈け出す。
「茜! 俺たちも行くぞ‼︎」
「うん!」
外にはさっきのイヌモドキよりもひと回りもふた回りも大きいイヌモドキが暴れていた。 尋常じゃないくらい殺意をむき出しにした「それ」はこれが現実だと教えた。
体が震える。
元の世界では絶対に味わう事のできない感覚が俺を支配する。
「....何です⁉︎ この大きさ普通じゃありえません!」
「茜! やっぱり危険だ、下がってろ!」
「え⁉︎ 誠は!」
「俺にはヴォルクさんからもらった剣がある! だけど茜は何も持ってないだろ!」
そう言って無理矢理茜を下がらせる。
「マコトさん! あなたの加護は何ですか?」
「え⁉︎ 加護ってなに!」
「ししし知らないんですかぁ⁉︎ もういいです! とにかくこいつを倒しましょう!」
そう言うとセルバは飛び上がりイヌモドキを斬りつける。
だが先ほどのイヌモドキとは違いあまりダメージを負っていない。
「くっ‼︎ 何故私の短剣で歯が立たないんです⁉︎ まさか通常の個体より皮膚が頑丈なのですか⁉︎ 」
その時飛んでいたセルバの足をイヌモドキが掴み地面に叩きつけようとする。
「っ⁉︎ しまっ....‼︎」
間に合え‼︎
「ぐはっ‼︎」
「....マコトさん⁉︎ 何してるんですか‼︎」
何とかセルバのクッションになることができた。
「....さすがに女の子が傷つくのをそう何度も見たくは....くっ‼︎」
「すいません‼︎ 私のせいで‼︎」
ぽたぽたと涙が俺の頬にたれてくる。身体中が痛む。だが戦えないというわけではない。
「無理ですよ‼︎ そんな体じゃ!」
「いいから下がってろ!」
視界がぐらつく。
だがやらないといけない。そんな気がする。
初めてヴォルクさんから貰った剣を抜く。するりと抜けた剣は不思議なほどに俺の手に馴染んでいた。
「いくぞ! 犬野郎‼︎」
しかし動けないということには変わりはない。
それを感じたのかイヌモドキは両手で叩きつける。
「....ぐっ‼︎」
何とか剣で受け止める。
地面にはヒビが入り、その強さを表す。
「くそ....があああああああああああああ‼︎」
身体中が痛いのに不思議と力が湧いてくる。全力で両手を払い
「くらえやぁぁぁぁぁぁぁぁぁ‼︎」
大きく飛び上がり、頭からイヌモドキを真っ二つにする。
途端、力が抜け崩れ落ちる。
「ハア....ハア....どーだ。やってやったぜ」
視界が霞む。再び体が大きく痛んだ。
「ぐぁっ‼︎」
「誠‼︎」
「マコトさん‼︎」
少しずつ二人の声が遠ざかっていった。