01. 加速する歯車
熱い、身体中を駆け巡るどす黒いものが俺の体を焼いていく。
次々と思いでが浮かんでは燃え、消えていく。
このまま俺自身もー?
「ーはっ⁉︎」
長い夢を見ていた気がするのに思い出せない。確か俺は仮面男と戦って、それで
「....目が覚めたか、食え。早くしないと冷めちまう」
そこには静かに座る男がいた。
ここは、テントだろうか? 隣には茜が静かに眠っていた。
「茜⁉︎」
胸に手を当てると心臓がトクン、と鼓動を打っている。よく見ると茜の体の傷は綺麗に後もなく消えていた。
「....あなたが助けてくれたんですか?」
何かを温めている男はハァ、とため息をつく。
「そうだ」
見たところ二十代前半といったところだろうか。
常人よりもたくましい体つきをしている。だが背はそれほど高くはない、俺より少し高いぐらいか。
「....俺はガキと話すのは好きじゃないんだ。何度も言わすな、さっさと食え」
男は目線をこっちに向けないで何かを温め続ける。もしかして俺たちが寝ている間もずっと温めてくれていたのだろうか。
「....いただきます」
男が温めていたのはスープだった。
だがこれは何の肉だろうか、今まで食べたことがない味がする。うまいことには変わりないが。
「おいしいですね、これ」
一瞬男の顔が緩んだ気がした。
だがもう一度見るとやはり無表情のまま茜の分のスープを温める無愛想な人にしか見えなかった。
「お前」
「え?」
急に男が喋りだした。ゆっくりと重みのある声で。
「俺が見つけた時、お前とそこの娘は倒れていた。一体何があった?」
ギロリと目線だけを俺に向けてくる。思わずビビってしまうような威圧感があった。
「....分からないんです。気が付いたら火に囲まれてました。そしたらクラブの仮面をつけた男がいきなり俺たちを襲ってきて」
ピクリと男が反応する。
「そうか、奴らついにこんな辺境な地まで手を出し始めたのか。それも俺がいない時を狙って....‼︎」
辺境の地とはどういうことだろうか?
ここは大きな街とは言えないがそれなりにはある。とても辺境の地とは思えなかった。
男は立ち上がり恐らく男の所有物である剣をとる。
「な、何で剣なんて持ってるんですか?」
「逆に聞くが何でお前らは持っていないんだ? このご時世に丸腰で出歩くなんて悪いが正気の沙汰じゃねぇ」
だめだ、頭が回らない。一体俺が眠っている間に何が起きたんだ。
「チッ、世話がやける」
男はそう言うと俺に剣を差し出す。
「こんな事をするのはこれが最初で最後だ。悪いが俺は行くところがある」
「ちょっと待ってください、剣がないと危ないって言ったのはあなたじゃないか」
男は腰に手をあて深いため息をつく。
「いいか? 俺とお前らじゃ鍛え方が違うんだ。その剣も長い間使っていたし新しいのを丁度欲しいと思っていただけだ。」
いよいよ男はテントを出ようとする。
「最後に、名前を教えてもらってもいいですか?」
男は顔を向けずに
「自分の名前から言うのが礼儀じゃないか?」
「....誠です、こっちで寝ている女の子が茜」
「ヴォルクだ」
「ヴォルクさん、ありがとうございました」
「マコトにアカネか、覚えておく」
そう言ってヴォルクさんはテントを出て行った。再び静けさに包まれたテントの中は寂しい思いを感じさせた。
「ん、うん....ん⁉︎」
「茜‼︎ 大丈夫か?」
茜はよく寝たと言わんばかりに大きなあくびをする。
「....ここどこ?」
「テントの中だよ」
目を擦りながらさっきの事を思い出したのかひどく警戒する。
「あいつは⁉︎ あの変態男はどこに行ったの!」
よかった、いつもの茜だ。てっきり怯えているのかと思ったがそんなことなかった。
「大丈夫、どこかに行ったみたいだ」
そう言っているうちに茜はスープを飲み干す。
「そうだったんだ。それにしてもこのスープすごく美味しいね、でもこのスープ誠が作ったんじゃないでしょ?」
「あぁヴォルクさんが作ってくれた」
茜は首をかしげる。
「ヴォルク? 外国の人?」
「いや、見た目日本人だったけど」
へぇー、と腹が満たされて満足したのか茜は
「それより早く出ようよ、今どこにいるのかわからないし」
「それもそうだな」
二人でテントから出る。
「「は?」」
「「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ⁉︎」」
「....くそが‼︎ あのガキ共は必ず殺してやる‼︎ 」
「おやセニティ、どうしたんですか? お腹に穴をあけて」
「うるせぇイラス....王は、王はどこにいる」
「今はお出かけ中ですよ」
「....チッ‼︎ これじゃあまともに動けね....ぇ....」
「おやおや寝てしまいましたか。....それにしてもセニティをここまでするとは、面白い人もいたものですねぇ」
ー歯車は少しずつ加速していくー