プロローグ
「残念だよなぁ!お前は正義の味方でも何でもないんだからよぉ‼︎」
「黙れ‼︎ ....それ以上喋ると殺すぞ‼︎ 」
「何度でも言ってやる‼︎ お前は
ー悪魔だー
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眠たい、眠たくて仕方がない。
何で学校ってこんなに退屈なんだろう。俺にやる気がないからだろうか。というか多分それだ。
俺は以前まではやる気に満ちていたごく普通の高校生だった。
だがそんなやる気はすぐに途切れた。
自分で言うのもなんだが俺は頭がいい。ある時全国模試で一位を取った時、糸が千切れたような、そんな感覚に襲われた。
これ以上やる意味がない、と思うようになってしまい、やる気など消えてしまった。俺は学生失格だろ
「痛って‼︎」
頭を思いっきりしばかれた。いったい誰がこんな野蛮なことをするのだろうか。いや、わかってはいるのだが。
「誠くーん。起きてますかー?」
ショートヘアに程よく引き締まった体。スポーツ女子の手本のようだ。
「お、お前なぁ辞書の門で人の頭を叩くやつがいるか?」
神崎 茜、俺とは幼馴染で小さい頃からずっと遊んでいる。高校まで一緒になった時は驚いたものだが何となく納得してしまった。というか痛い。頭が痛い。
「もう帰りのホームルームも終わっちゃったよ! ....本当に起きてる? おーい、柊 誠くーん‼︎」
「うっせぇ! 耳元で叫ぶな‼︎ 痛くて顔が上げられなかったんだよ‼︎」
茜は満足したかのような顔をし俺の手を引っ張る。てか引っ張るな。クラスの奴らに見られたら笑われる。
「あれ?」
気がついたらクラスには誰もいなかった。多分ホームルームが終わってからしばらく時間が経ったのだろう。
「ほーら、大人しく引っ張られろ‼︎」
「分かった、自分で立つから離してくれ」
「ダメ! 無理矢理連れてく」
何はともあれクラスの奴らに見られなくてよかった。
「ダメだよちゃんと授業は受けなきゃ」
夕日が沈みそうな、そんな時間だった。カラスが鳴きなにか幻想的なものを感じる。
「何だかなぁ、学校自体がつまらないのに授業何てどうして受けなきゃいけないんだ?」
「小さい男だなぁ、もっと大きな心を持ちなよ。私みたいにさ!」
「胸は小さいけどな」
その瞬間俺の首は茜の腕の中で締められていた。半端な男子よりも茜は力がある。
「ギブギブギブ‼︎ 参ったから早く離してくれ‼︎」
「いーや離さない。そのまま今言ったことを悔いるんだね‼︎」
あ、やばい。まじでやばい。
「ちょっまじで頼む‼︎ 早く離してくれ‼︎」
「........」
「茜?」
首を絞めていた腕が解かれる。茜は立ち尽くしていた。
「どうしたんだよ茜」
「何よ....あれ」
茜が見ている方向、道の真ん中には黒い渦のようなものができていた。今まで見たことがない「それ」は俺の好奇心を駆り立てた。
「ちょっと近づいてみようぜ」
俺の手を茜が掴む。
「ダメ、なにか嫌な予感がするの」
「なわけないだろ。大丈夫だって」
近づこうとすると黒い渦にいきなり引き寄せられる。
「な⁉︎ 何だこれ‼︎」
「だから言ったじゃない‼︎ 捕まって‼︎」
電柱にしがみついた茜が俺に手を差し出す。渦からの引力は強くなる一方だった。
「ナイス茜‼︎」
茜の手を取り何とかこの場を凌ぐ。
凌いだと思っていた。
突如電柱が外れる。
「....嘘でしょ?」
「....まじ⁉︎」
俺たち二人は黒い渦に呑み込まれた。
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「う....」
目がさめるとそこは火に囲まれた絶望的な空間。いったいあれから何が起きたんだろうか。
「おい、茜‼︎ 起きろ‼︎」
横にいた茜を揺さぶる。幸い外傷などは見られなかった。それだけでも不幸中の幸いだった。
「う....ん? ここは⁉︎」
茜が目をさます。よくよく考えてみると空は暗く星など見えもしない。とてもじゃないがさっきまでいた道だとは到底思えなかった。
「....痛‼︎」
「どうした‼︎ 茜‼︎」
茜が頭を抱えその場にうずくまる。
「何か、何か嫌なものが....近づいて、くる‼︎」
その時囲っていた炎が裂け、クラブの模様の仮面をつけた男? が歩いてきた。言葉に出来ない何かを感じる。
「あーん? まだガキと小娘が残ってたのか。全く上は面倒な仕事を押し付けるぜ。鬱になっちまう。ま、ストレスをこうして解消できるからいいんだけどなぁぁぁぁぁぁ‼︎」
その男の爪はビキビキと音を立て鋭く尖っていく。
「っ‼︎ 避けろ茜‼︎」
そんな言葉もむなしく茜の体は引き裂かれる。
「....逃げて、誠....」
茜はその場に崩れ落ちた。
「な、んだ....これ....‼︎」
体の内からどす黒い感情が渦巻いているのが分かる。怒り、悲しみ、憎悪、全てがぐちゃぐちゃになって俺の体を支配していく。
....押さえることが、出来ない‼︎
「はぁー....これだよこれ。この為に生きてんだよ俺は。でもまだ満足できねぇなぁできねぇんだよなぁぁぁぁぁぁ‼︎」
「うるせぇ」
仮面男の爪を受け止める。思ったよりも軽い。体の内から力が湧いてくる。何故だか分からないけど今は負ける気がしない。
「....こんなもんかよ?」
仮面男は体を震わす。
「あ? 大人しく殺られろよ、お前の存在価値は俺に殺られることしかねぇんだよ‼︎」
「....クズが」
仮面男の懐に入り腹に拳で殴る。豆腐のようにすんなりと相手の体を突き抜けた俺の拳は赤く濡れていた。不思議と嫌な感じはない。あるのは俺の体の中を渦巻くどす黒いものだけだ。
「がふぁっ‼︎ 」
仮面男はよろめき、その場に倒れる。
「許さねぇ、俺の楽しみを邪魔しやがって‼︎お前だけは絶対に許さねぇぇぇぇぇ‼︎ いつか‼︎ 必ず‼︎殺してやる‼︎」
そう言うと仮面男は突然姿を消した。
「....ぐぁっ‼︎ ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ‼︎」
突如激しい痛みに襲われる。
まるで糸が千切れたかのように意識が途切れる。俺の意識は深い、深い闇の底へと沈んでいった。