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天のお告げは絶対ムシ  作者: ポン酢放置禁止区域
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バカは高所が好きだから太陽に焼かれる

「一昨日辺りに強盗計画を立ててるJK達とすれ違ったんすよ」

「へぇ、面白い奴らもいたもんだなぁ」

「今時女子の流行なんすかねぇ、強盗」

「さあな、流行ってたらやるか?」

「ウトシが手伝ってくれるなら……と言いたいところっすけど生憎やる必要がないっすからねぇ、貧乏でも裕福でもないっすけどそこまで潤いたいわけでもない、それに何よりめんどくさい」

「そんな事やって金が稼げる程この国治安悪くねぇしな」

「もし捕まったらと考えるといろんな人に迷惑かかるっすしね」

 横並びで歩く二人はいつも通りの雑談をしていた。

 午前の授業が終わり、今は昼休み、昼食を食べながらおしゃべりに興じる生徒たちが学校の中のあちこちで見られる時間である。

 そんな中をウトシとエコは、他の生徒と同じく、自分達も昼食をどこかで食べようと歩いていた。

 教室で食べてもいいがいつもそれではつまらない、という事でいろんな所で昼食を食べよう、と昼休みが来る度に二人は校内を散策しているのだ。

 その成果でこの校内で昼食を食べた事のない場所はほとんどない。

 外を見れば相変わらずの太陽からの殺人光線のプレゼント、その下で昼ご飯でも食べようものなら熱されたアスファルトによって焼肉が完成し、カニバリズム人間が狂喜乱舞しながら持って帰って食べる事間違いなし、そうじゃなくてもこの温度の中で飯を食べる生徒なんて被虐性変態性質の人間か光合成植物人間しかいないだろう。

 さて、ならどこで食べるかといった所だが、今二人がいるのは階段、それを上へと昇っている。

 上へ、上へ、最上階は新入生、一年生のクラスが並ぶ廊下のある階、中学生気分のバカ騒ぎが二人の耳にも響いていた、そこから上には廊下はない、しかし二人は歩みを止めない。一年生のフロアへと続く道をスルーしてさらに上へと続く階段に足をかけた。

「だからといって銀行強盗程金がすぐに稼げる仕事ってそうそうなさそうだよな、株とかは頭よくなけりゃあ稼げそうにねえし」

「ローリスクハイリターンな仕事なんて簡単には見つからないっすよ、あったら争いが起きてるっす」

「命をつなぐために金稼いでんのにそうなったら意味ないよなぁ」

「おっ! ついた!、ちょっと待つっす」

 銀行強盗の話をつづけながらウトシとエコが階段を上った先、そこには扉があった。丁寧に立ち入り禁止の張り紙が張られたその扉のドアノブの前にしゃがみ、エコはうなじの方に手をやって細い髪留めを取り出すとドアノブの鍵穴に差し込んだ。

 最上階より上で立ち入り禁止、この二つの条件からこの扉の先がどこへとつながっているモノかは容易に推理できるだろう。二人がこれから行こうとしている場所は屋上だ。

 どこから学んだのかエコにピッキング技術により、普段であれば入れないであろう屋上に入り、高みから街の風景を見ながら飯を食べようという試みだ。

「いつも思うがその技術はどこから学ぶんだ?」

「はっは~、乙女の秘密は詮索しちゃいけないっすよ?」

「どこに立ち入り禁止場所の鍵を針金でこじ開ける乙女がいるんだか」

「ここに、いるっす、よっと」

 金属同士が軽くぶつかり合うカチャカチャ音のBGMは少し経って、鍵の開くがちゃり音のフィナーレと共に止んだ。

 そののちエコがドアノブを回して押すとドアが開き、屋上への道の封印を解いた。



 結果から先に言おう、失敗であったと。

 何故気付かなかったのか、外のコンクリートが人を焼く位の暑さなのだ、そこよりも太陽に近い屋上が熱くないわけがない。快適なのは屋上入り口周りの日の当たらない影の所のみ、二人ギリギリ入れるか入れないかという範囲だった。

 おかげで二人、肩をきゅっと触れ合わせて密着して飯を食べる事になっている。

 ただでさえ熱いのに二人でくっついていたらなお暑い、しかもエコはこんな日でも学校指定の黒いブレザーを着ているのでさらに温度が高まる。

「く、食いにくいっすね、ってかウトシ体温高すぎっすよ、赤ちゃんっすか?」

「お前こそこのクソあっちぃのになんでブレザー着てんだよ」

 コンビニで買った焼きそばパンをかじるエコと鮭のおにぎりをほおばるウトシは互いにそっぽ向きながら文句を言いあう。

 いつもなら弾む会話のキャッチボールも夏の暑さと密着しているという状況から生み出されるちょっとした緊張感でボールの空気が抜けたのでうまく出来ない。

 エコの首筋に汗が伝う、いつもならどんなに暑くても汗をかくことがないというのになんでかと言われれば密着している事でいつもよりウトシを意識してしまっているからだ。

「水分補給を、っと、ってえぇ~~~!!」

「どうした!? って、あ~あ」

 夏の日差しのいたずらか、エコが校内の自動販売機で買った冷えた紅茶のペットボトルは影の外で日光浴に興じていた。

「やっちゃったっすね~これは」

 げんなりしながらもキャップを取り、その中身を喉に通してみるエコだったが顔をしかめた。

 案の定ぬるま湯、この暑さで自動販売機のつめた~いの付与効果が飲むも無残に無効化されていて、飲んでも暑さは解消されず気持ち悪い甘さだけが残る、飲まない方がよかったと言えるだろう。

「うえっ、こいつはやばいっすね」

「大丈夫か? 俺のをやろうか」

 顔色までも悪くするエコを心配してウトシは無事だった自分の黒いジュースをエコに手渡す。

「ありがたいっす、んぐんぐ、ん?」

 それを一気に飲み、エコは炭酸飲料らしい清涼感に一瞬満ち溢れた。心の中は感謝であふれかえった。だが同時にもある事に気付く。

 これって間接キスじゃねーっすか? と。

 あと黒い炭酸ジュースだからコーラか何かかと思ったけど独特な香りがあり、結構まずい、と。

「ぶーーっ!」

「はっ?おいどうした?暑さで頭がやられたか?」

 屋上の噴水とかしたエコに驚くウトシ。

 吐き出されたウトシのジュースは太陽に暖められた屋上の床に触れると音を立てながら蒸発した。

「このジュースなんなんすか? まずい、あー後味がさらにまずいっす!! 劇物じゃないっすか!?」

「んなわけねえだろ、最初はみんな戸惑うがな、このエスプレッソソーダ」

「エスプレッソ、ソーダ? 別々に飲みたいっすね」

「そんなに言うなら返せよ」

 ウトシがエコの手に渡った愛飲の黒い劇物に手を伸ばすが、エコはその伸ばされた手とは反対方向にペットボトルを持って行く。

「ああん? おい、どういうことだ?」

「いやっ、ん~ちょっとそれはちょっと待ってほしいっす、もうちょっと飲んでみたらもしかしたらがあるやもしれないっす」

 確かにこのジュースはまずい、がそれよりもウトシに自分が口をつけたペットボトルを渡すのはそれはそれでまずい。

 間接キスなんて小学生が言う事、などと舐めていたエコだったが意識してみるとかなり気にしてしまう。

 しっかりと口をつけ、唾液が付着したそれがウトシの口に入ると思うとただでさえ熱いのに顔が熱くなる。そんな恥ずかしい思いをするのは出来れば避けたい。そう思う乙女心。

 ペットボトルの中の黒い液体を見る、炭酸で小さい泡が沸々と湧くそれを先程口に含んだ時の味が口の中によみがえり、少し吐き気がする。

 だが、飲まれたくなければ飲まなくては、飲み干さなければ、覚悟と共にエコはつばをのみこむ。

「指固め」

「いぎゃぎゃぎゃぎゃ!!!」

 そして突然の痛みにそのつばを思いっきり吐き出した。

 エコのペットボトルを持っていない方の手を取ったウトシがその中から人差し指と中指の根元を自前の握力で思いっきり握り、激痛を与えたのだ。

 鍛えられた握力は、ともすればエコの細い指をたやすく折れそうだが、そこは加減が効いていて、ちょうどよく行動不能になるくらいの痛み。

 その隙をついてウトシは足を踏み出し、エコの手に渡ったお気に入りの飲料を奪取した。

「イヤイヤ飲むもんじゃあねえよ、ってか飲みすぎだろ、俺の分が無くなっちまうじゃあねえか、まあいいけどよ」

 半分以上がなくなったボトルの中身を見て、ウトシはため息を一つ吐いて、ボトルに口をつけた。

「うぇっ! ちょっ!」

 エコの制止を聞かず、一気に残りを飲み干した。

 清涼感、そして次に来るコーヒーの酸味といい香りに砂糖の甘さの混じった独特なフレーバー。

 正直言えばウトシも最初にこれを飲んだ時はその独特な味から、まずい、と思ったが噴き出すほどではなかった。

 クセになるその味は、エコの手に渡った時に外気と混じったのか、温くなっているがそれでもクセになる味が舌を踊る。

 と、ここでウトシも気付いた。

 エコの手に渡った時点で普通に気付くべきだった間接キスに。

 普段は自分の妹に飲み物を分ける事があるのでさっぱり意識していなかったが、相手はエコだ。

 だからと言って吐き出すわけにもいかないので飲み込む。

 その中にエコの口づけが混ざっていると意識するとウトシの心臓が普段より少し早めの鼓動を刻む。

 飲み終わったペットボトルを置き、ウトシがエコをちらりと見るとエコは顔を赤くして呆然としていた。

「えっと、すまん、エコが……そういうのを気にするとは思ってなかった」

「は、はは、逆にウトシが気にしてない事にちょこっとショックっすよ、はははは」

「いや、気にしてないワケじゃあない! 現に今すげえ、なんか、ドキドキしてる!」

「それもそれでなんかあれっす!!」

 恥ずかしいやら照れからエコはウトシの背中で不揃いなビートを刻み、ウトシはそれを甘んじて受けた。

 その後昼休みが終わる五分前の予鈴がなり、二人共に次の授業に遅れかけて焦るまで、まともに目を合わせる事は出来ず、相変わらずの日の照りで汗ばかりをかいてシャツを濡らすのみ。

 その日、屋上で昼飯を食べるのはやめよう、と二人の中で暗黙のルールが出来た。

 立ち入り禁止の場所には、立ち入り禁止になるだけの理由がある、しかし、禁止にされているとつい入りたくなる魔力があるのもまた事実。

 二人はその魔力に魅入られ、魔が差してしまったのだ。

 ちなみにその日の放課後にウトシは罰としてファッキンでスイーツを奢らされるのだがそれは別の話。

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