第2話
恵美は、一瞬、胸を突かれた。
そして、動揺していることを隠すために、あわてて、顔をそらした。
「ちょっとした偶然なんだけど、残業で帰る時間がいっしょになったの」
亜子の声がはずんでいた。
「そう、そうなの」と恵美は言った。
「前から、雄太さんに憧れていたの。だから私から誘ったの」
「そう、知らなかった」
「やっと、きっかけがつかめて良かった」
亜子が雄太さんを好いている。
恵美の心はしめつけられた。
「それでね。恵美に頼みたいことがあるの」と亜子が言った。
「なにが・・」
「彼へのメール文、考えてもらえないかな。私の気持ちが伝わるような」と亜子が言った。
「なぜ、私が・・そんなことできない」
「お願い。あなた文章すごくうまいじゃない。才能あるわよ」
恵美のランチボックスを持つ手が、微かに震えた。
「いやよ・・」と恵美が力なく言った。
「なんで、そんなにつれないの。私を応援してほしいのよ」
亜子の声が急に冷たくなった。
恵美は亜子と険悪になりたくなかった。
彼女とトラブルになると、職場でやりにくくなる。
二人は気まずく、黙りこんでいた。
「わかったわ・・」と恵美が言った。
「えっ、引き受けてくれる」と亜子が元気に声を上げた。
「あなたの頼みだもの」と恵美が言った。
「ありがとう。恵美は最高の同僚ね」と亜子が嬉しそうに言った。
アパートに帰ると、恵美はランチボックスを投げ出した。
部屋のベットに座ると、涙が溢れた。そして、そのまま泣き崩れた。
おばかさん、どこまで滑稽なのか。
亜子には、携帯でメール文を送ることになった。それをまた、亜子が雄太に送るのだ。
恵美は思った。雄太には、自分からメールを送るなんてできないことだった。
それなら、亜子から送れればそれでいい。
それが、せめてもの恋の形見。