幻想と現実の世界を行き交う魔女と聖女。
河辺の恐怖王セベクを倒した勇者アレス。
闇市の岸で歓声を上げる人々に手を挙げて応える。
目的を果たした彼は巨大鰐の背から河へ飛び込んだ。
ドボーーーーン))))
泳ぐ彼の眼に広がる岸辺の景色が次第に変化して行く。
岸へ近付くに連れて歓声を上げている人々の姿は幻のように消えていった。
やがて岸にたどり着いたスパナー少年は黒髪少女レンチと大柄な太った少年ハンマーを見付けて走り寄った。
彼は鼻の下を擦りながらにレンチとハンマーに語りかけた。
『あの巨大鰐を仕留めたのは、みんなの力が合わさったおかげだ!』
ハンマーは落ち着かない様子で辺りを見回してスパナーに呟いた。
『血の爪団の奴等が聖女クレィデイアさんを遠巻きに囲んでいるよ。』
『きっと闇市を出たところで捕まえる気でいるんだ。』
レンチも遠くに視線を送り、あちらこちらとルチアの姿を探していた。
スパナーはルチアがいないことに気が付きレンチに訊ねた。
『ルチアの姿が見えないようだけど、どこへ行ったの?』
隣でその話を聞いていた小柄の眼鏡少年ラジェツターが口を挟んだ。
『彼女は黒馬の貴公子と、いっしよに闇市を出て行ったよ。』
『気球の上から双眼鏡で黒馬に乗り門を出て行く二人を見たよ。』
『念のためにと思い僕の頼れる相棒、疾風のスマイルに後を追わせているよ。』
スパナーは後ろを振り返り、先ほど倒した河辺の恐怖王セベクがいた辺りに視線を移した。
『?……………………』
そこには何事も無かったかのように商船が幾艘も航行していた。
『俺が倒した巨大鰐、あれは……夢だったのか?』
聖女クレィデイアが血の爪団の執拗な尾行を避けながら鉄屑傭兵団のところへ歩いて来た。
『お願いがあります。』
『私を街の中央にある自宅、ウィツチ館まで護衛して頂けませんか。』
『お礼はその時に50000イデオン、お支払いします。』
お金に目がない鉄屑傭兵団長のレンチは二つ返事で答えた。
『よっしや、あたいらに任せときな!』
スパナーとハンマーは顔を見合わせてレンチに訊ねた。
『あたいらて……俺たちも行くのか?』
レンチは即答で答えた。
『当たり前じゃないか!』
『あんたらも、鉄屑傭兵団なんだから!』
クエスト発生〓【聖女クレィデイアをウィツチ館まで護衛せよ!!】
四人は聖女クレィデイアを真ん中にして
気球に乗り込んだ。
『頼んだよ、眼鏡坊や!』
バナーが点火され気球が徐々に空に昇って行く。
血の爪団総統ザクセン.ハイマーが唇を噛んで、それを睨んでいた。
『見失ってはならん!』
『後を追え!』
気球が流れる方へと走り出す血の爪団。
しかし気球は風に運ばれているため速いスピードで倒壊した家屋の影へと姿を消していった。
峠の嶺まで来ていた黒馬の貴公子ホスピタルマスターが前に座らせているルチアに語りかけた。
『お嬢ちゃん……あそこの空を飛んでいる気球は何処へ向かっているのか、私に教えてくれないか……』
青いキャンディ.バーを1つ渡してルチアの頭を優しく撫でる貴公子。
『魔女の館だよ。』
その答えに確信を得たように薄笑いを浮かべる闇の支配者ホスピタル.マスター。
『幻想と現実の世界を行き交う魔女にして聖女、ウィツチクレィデイア…』