青年クワィアットの婚約者は森ガールウィニーの姉、魔女スカーレット
上着の肘やズボンの膝が擦り切れて、いたるところに小さな、かすり傷を作っている青年クワィアット。
彼の、その様子を見て森ガール、ウィニーはポッケから治療薬とハンカチを取り出して手当てをした。
『ありがとう……助かるよ。』
クワィアットは、機甲兵団の追跡を何とか交わして、その場にヘタッと座り込んだ。
『クワィアットお兄ちゃん?!』
『何で、あんな奴らに追われてるわけ?』
ウィニーの質問にクワィアットは、今までの経緯を話して聞かせた。
あらかた、クワィアットの話を聞き終えたウィニーは頷いて応えた。
『鉄屑傭兵団と血の爪団の戦いの最中、荷馬車隊列から逃げ出して来たというわけね……』
クワィアットはウィニーの傍らで淋しそうにしている二頭の狼犬に視線を移した。
『この仔たちも……主人の少年スマイルを失って、さ迷っていたんだな。』
ウィニーは、優しく二頭の狼犬の頭を撫でてあげた。
シッポを頻りに振り喜ぶ二頭の狼犬。
『これからは、あたしが君たちの面倒を見てあげる!』
グルグルとウィニーの周りを喜び、はしやぎながら走る狼犬。
しばらくすると、ピタリと二頭の狼犬の動きが止まる。
壁の向こう側に視線を送り、何やら様子を伺っている。
『もう!!』
『何よ!何よ!』
『失礼しちゃうわねー!』
お決まりの魔女の出で立ち。
つばの広い黒い尖り帽子に長いマントにブーツ姿。
『スカーレットおねーちゃん!!』
彼女の姿に思わず口を開く妹のウィニー。
スカーレットは婚約者のクワィアットと妹のウィニーに語りかけた。
『あんまり、あなたたちの来るのが遅いから見にきてあげたのよ!』
『どうでも、いいけど、わたし、犬嫌いなの知ってるわよね!!』
『ポリー!』
『メリー!』
『こちらへいらっしゃい!』
クゥンクゥン)))))
小走りにウィニーの後ろへ回り込む二頭の狼犬。
『ウィニー……よく、こいつらの名前、知ってたな?』
クワィアットが不思議そうにウィニーに訊ねた。
ウィニーは鼻の下を擦りながら答えた。
『ウフフ……あたしが今つけたのーーー!!』
クワィアットは、鼻を擦るウィニーの仕草と、前の狼犬の主、スマイル少年を重ねていた。
『なるほどね……』
ウィニーは首を傾げてクワィアットに訊ねた。
『何がなるほどなの~?』
ツカツカとブーツの音を響かせて近付くスカーレット。
『クワィアットさん!』
『どうして、遅れたの?』
『納得の行くように、説明してちょうだい!!』
スカーレットの勢いに、口ごもるクワィアット。
『あ、あの
……その
……つまり……なんだ……』
らちの開かない会話にウィニーが、割って入り事のなりゆきを話した。
一通りの話を聞いたスカーレットは、落ち着いた様子で答えた。
『そうだったのね……』
『お兄さんの、ブルースさんとは分かれ離れになってしまったのね。』
『それで、荷馬車隊のお仕事も、お給料貰えず仕舞いてことね。』
『私たちの結婚式も、少し先伸ばしになりそうね……』
淋しそうな表情の彼女に、二頭の狼犬が足下に擦りよって
来た。
『キャーーーッ!!』
『ウィニー!』
『この子たちを何とかしなさーい!』
ウィニーは二頭に首輪をかけて荷車につないだ。
『やれやれ……お姉ちゃんの犬嫌いも相当なものだよ。』
クワィアットはウィニーの飼い猫、ボァについて訊ねた。
『黒い仔猫は……どこへ行ったのかな?』
ウィニーは姉スカーレットの方を見て答えた。
『黒猫ボァは、お姉ちゃんとスゴく仲が悪いので姿を見せないのよ。』
『あの子は鼻が効くので、またヒョツコリ顔を出すわよ。』
ドドドドドドドドーーーーーーン)))))
地響きを伴った大きな衝撃音。
『ここは危ないから、闇市ボッタを抜けて癒しの森へ戻りましょう。』
スカーレットの言葉に三人は狼犬の引く荷馬車に乗り走り出した。




