闇の剣、光の魔法、時を巻き戻す女神の右目。
『全ての道はイデアに続く……』
『これほどの賑わいを見せる都市は二つとあるまい。』
手綱を握る祭司ウィザード.ユーリーの馬車が峠に差しかかつた。
馬車の窓から首を出し眼下に広がる大きな都市に視線を送る黒髪少女レンチ。
『お嬢様、余り身を乗り出しては危のうございます。』
初老のキャラバン隊員、クーリーが黒髪少女レンチの身を案じて言葉を掛けた。
町の中央には大きな凱旋門とルネサンス大聖堂が見える。
そこを起点として放射線状に石畳の街道が八方へ伸びている。
パカッパカッパカッ))))))))
峠を降りて東の街道を目指す祭司ウィザード.ユーリーの馬車の傍らを黒馬
に乗る貴公子が行き過ぎる。
馬車の中で白いローブの婦人がポッリと呟いた。
『ユーリー……』
祭司ウィザード.ユーリーは婦人の言葉に気付き行き過ぎる黒馬の貴公子に視線を移した。
祭司ウィザード.ユーリーと黒馬の貴公子の視線がぶっかる。
微かに笑う黒馬の貴公子は、そのまま街道を走り去りイデアポリスへと向かって行く。
『光、差すところ必ず、闇、現れるのです。』
白いローブの婦人が語る言葉の意味を理解出来ずにいる二人。
黒髪少女レンチと初老の男クーリーが顔を見合わせ首を傾げた。
やがて祭司ウィザード.ユーリーの操る馬車は賑わいを見せる都市イデアポリスの東の門を潜った。
両側にはテントを張った店が軒を並べている。
しばらく進んで行くと広い噴水広場へと出た。
祭司ウィザードユーリーの馬車はそこで停車した。
『お二人さん……ここで別れましょう。』
『私と婦人はルネサンス大聖堂へこれから向かいます。』
『聖別された者しか足を踏み込めない所なのです。』
黒髪少女レンチと初老の男クーリーは祭司ウィザードユーリーと婦人に礼を述べて馬車を降りた。
その後、祭司ウィザード.ユーリーの馬車は街の中央に聳えるルネサンス大聖堂へと進んで行った。
広場で宛どもなく辺りを見回し歩く黒髪少女レンチと初老の男クーリー。
誰かに追われているのか人混みを縫って一人の少年が黒髪少女レンチの前に躍り出た。
『な、何ーーー?!』
サーーーッと人混みは潮が引くように店の軒先へ身を隠した。
厳つい鎧で身を固めた血の爪騎士団が広場を埋め尽くした。
騎士団の長らしき人物が広場の中央で叫ぶ。
『ここにルネサンス大聖堂より禁断の女神の右目を盗んだ者がいる!!』
黒髪少女レンチの後ろに隠れていた少年がポケットが青く光る光る宝石を取り出した。
『これさえあれば、これ以上、奴等(血の爪団)に、この街で勝手ははさせない!!』
『そこの黒髪少女よ!!』
『我ら血の爪騎士団は手荒な真似は好まぬ!』
『後ろにいる小僧を我らへ、おとなしく差し出せ!』
すると広場の噴水の影から出てきた魔女の館の令嬢クレィデイアが黒髪少女レンチと少年の前に立った。
『この少年を奴等(血の爪団)に差し出してはなりません!!』
彼女の姿を目にした街の人々が口々に叫ぶ。
『聖女クレィデイア様だーーー!!』
『街のシンボル、フレィヤの女神像を破砕し、その右目を取り出し辱しめ奪ったのは血の爪団の方だ!!』
『そうだ!』
『そうだ!』
状況から血の爪団が人々を苦しめる存在であることを理解した黒髪少女レンチ。
『どうやら、あたいの力が役にたちそうだ!!』
『あんたらに、味方するよ!』
初老の男クーリーは人混みに隠れて震えながら様子を伺っていた。
『お嬢様がクラッシャーだと、これで皆に知れてしまう……』
少年を庇い、いっこうに差し出す仕草を見せぬ聖女クレィデイアと黒髪少女レンチ。
血の爪団長は彼女たちの態度を見て業を煮やし剣を抜いた。
『どうやら痛い目に合わなくては分からないようだな!!』
女神フレィヤ像の右目を持つ少年を前後で挟んで守る聖女クレィデイアと黒髪少女レンチ。
今まさに闇と光そして女神フレィヤの右目が一つの場所に集った。
初老の男クーリーの隣で眼鏡を掛けた小柄な少年ラジェツターが聖典シュヴァルツ.ガイヤを開き詠唱を始めた。
『闇の剣と光の魔法集いし時、女神の右目、開眼す!』
祭司ウィザード.ユーリーは、この様子を少し離れたところから見ていたが
フレィヤの女神像が大聖堂から港へと運ばれ
破砕れたとの噂を聞き事実を確かめるため港へと馬車を走らせた。
『もし、この噂が事実なら……このイデアポリスは大きな戦火に見舞われるだろう。』
『幻想 理想郷からの救済者がやがてこの街へ召喚される。』
祭司ウィザード.ユーリーが走らせる馬車の中で白いローブの婦人が詠唱を始めた。
辺りに青く光る渦が現れたかと思うと馬車は一瞬にして港の破砕されたフレィヤ女神像の前に現れ出た。
フレィヤの女神像へと足を運ぶ祭司ウィザードユーリーと白いローブの婦人。
二人はやがて引き倒され破砕されたフレィヤの女神像の所まで来た。
白いローブの婦人はフレィヤ女神像の右目へと青く光る宝石を嵌め込んだ。
するとたちまち、七色のオーラが辺りを包み込んだ。
一筋の光が天からフレィヤ女神像の足元へと降り注がれた。
やがて光は止み、その後そこには暖かな毛布で包まれた幼女が立っていた。
幼女を抱きかかえて彼女の額にキスをしてから白いローブ婦人は、その場を去った。
その時、海上から近付く一艘の船の上に立つ若い少年の叫ぶ声が聞こえてきた。
『女の子を置いて行ってはけいないよーーー!!』
白いローブの婦人は振り返り船の上の少年を暫し見詰めていた。
その後、白いローブの婦人は祭司ウィザードユーリーが待つ馬車へと乗り込んだ。
祭司ウィザードユーリーが白いローブの婦人にポッリと呟いた
『時を巻き戻され、約束の救済者、ご子息様を遂に呼ばれましたな……』