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黒髪少女レンチと魔導師ウィザードユーリーの奇異な出会い。

長いキャラバンの隊列が荒れ地を進む。


交易品を積んだ幾つもの荷馬車が長旅のせいかガタガタと車輪を(きし)ませ外れた。


『おとーちゃん!』


『車輪、外れたで!』


ラクダの背に乗った黒髪の少女レンチが隊列の先頭を行く父親のボッタに叫んだ。


その声にラクダの(きびす)を返して隊列の中程まで走り寄る白髭の中年男。


隊の長であるボッタの指示で数名の隊員たちが深い(わだち)の溝に()まった荷車から交易品を下ろした。


『荷は下ろしたものの……他の荷車も満載でどうしたものか……』


壊れた荷車の車軸を見て首を振る隊員たちと隊長のボッタ。


彼の娘レンチが近くの岩壁に洞窟があるのを見付けた。


『おとーちゃん、この洞窟にしばらく荷物をしまっておいたらえーやん』


ポッカリ開いた洞窟の入り口で父親のボッタに手招きする娘レンチ。


洞窟の方へと歩み寄る隊長ボッタと数名の隊員たち。


『そうだな……(しばら)く、ここへ荷物を置いておこう。』


『イデアポリスの都も、次の峠を過ぎたら辺りだから、新しい荷車を調達して来る。』


ラクダの背に乗ったボッタに手を伸ばす娘のレンチ。


『おとーちゃん、うちも連れてってなぁ!』


父親のボッタは優しく娘のレンチに答えた。


『お前は、他のみんなと、ここで待っといてな……』


『ワシは新しい荷車を見付け次第、直ぐ戻ってくるさかいな』


ラクダに乗り峠の方へと走り出す父親ボッタの背中に声を掛ける娘のレンチ。


『おとーちゃん、心細いさかい早よう戻って来てなー!』


軽く手を上げて応える父親ボッタの姿が峠の向こうへと消えて行った。


荷下ろしで汗をかき喉が乾いたレンチはラクダを走らせ近くに水場がないか探し回った。


隊員の一人、気の穏やかな初老のクーリーが黒髪少女レンチに声を掛けた。


『レンチお嬢様、余り遠くへは行かれませんように。』


『ここは盗賊の輩がたまに出没いたしますゆえ』


レンチはクーリーの方を向いて返事を返した。


『分かったよ、クーリー』


『盗賊が出てきたら、うちのクラッシャーレンチお見舞いしてやる!』


暫く辺りを散策していると小さな湖水が彼女の目に入った。


『あった、あった!』


湖水の方へとラクダを走らせるレンチ。


ふと傍らを見るとアンサタ十字の杖を持った祭司と白いローブの婦人が湖水の石段の上で腰を下ろし休んでいた。


湖水で水を両手ですくい飲んだ彼女に祭司が声を掛けて来た。


『お嬢さん……しばらく、ここにいなさい。』


『あなたの身の安全のためです。』


不思議に思い、その祭司に黒髪少女レンチは訳を訊ねた。


『祭司様……あたいの身が危ないとは何のことやろか?』


湖水の周りを青いオーラが包み込んでいるのに気付いたレンチ。


そこは外界と遮断されたかのような妙な違和感を感じさせる場所だった。


先程まで肌で感じていた風や草木の揺れも、いっさい音を失っていた。


湖水に小石を投じても波紋も音もしない異空間。


祭司がアンサタ十字を掲げ何やら詠唱し始めると青いオーラは霧が晴れるように消えていった。


『お嬢さん……この馬車に私たち一緒にお乗りなさい。』


『あなたの帰る場所は失われました。』


祭司の言葉にキョトンとする黒髪少女レンチ。


『うちは喉が乾いたので、ここに来ただけやさかい失礼します。』


ラクダの背に乗り、もといた洞窟へと走り出すレンチ。


(しばら)く進んだ所で初老の隊員クーリーが慌てた様子でレンチの元へ走り寄って来た。


服はいたるところ破れ青ざめた顔で息は弾んでいた。


『と、と、盗賊がキャラバンを襲いました!』


『レンチお嬢様、今は早くこの場からお逃げください!』


耳を澄ますと叫び声や剣のぶつかり合う音が聞こえてきた。


クーリーがレンチの背中越し、後ろに視線を送った。


不審に思い振り返るレンチの後ろには先程の祭司が婦人を馬車に乗せ立ち止まっていた。


クーリーが祭司の元へ駆け寄り嘆願した。


『祭司様!』


『私どもをお助け下さいませ!』


『交易品目当ての盗賊に襲われ命がらがら逃げて参りました!』


祭司は二人を馬車へと招き入れた。


黒髪少女レンチと初老の隊員クーリーが馬車に乗り込むと祭司は杖を振った。


再び青いオーラが辺りを包み込んで行く。


クーリーを追って来たのか数頭の馬に乗る盗賊が湖水の近くまで走り寄って来たが驚いた様子で(きびす)を返して逃げ去った。


危機を脱した事に感謝してクーリーが祭司に何度も礼を述べた。


祭司の首に下がっている月と星をあしらった大きなペンダントに目を止めたクーリー。


『あなた様は……もしかしたら、あの高名な大祭司ウィザードユーリー様では。』


祭司はクーリーの質問には答えず馬車を走らせた。


『あなた方を安全な都イデアポリスまで乗せて行って差し上げましょう。』


『私とあなた方の成すべき使命は彼の地にあります。』


黒髪少女レンチは、一足先にイデアポリスへ行った父親のボッタと仲間のキャラバン隊に思いを馳せていた。


『どうか……みんな無事でありますように』


荒野を走り去る祭司の馬車を小高い丘の上から見下ろす盗賊の頭目。


『魔導師ウィザードユーリー……やはり来ておったか。』


黒馬に股がる姿は盗賊とは思えぬ気品のある貴公子だった。












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