10/53
見えざる幻想皇帝は虚空に降り立った識天使。
『私の息子は襲って来た血の爪団に拐われました!』
『俺の娘も黒馬の騎士に連れて行かれたんだ!』
『祭司様、なぜ幼子ばかりが拐われたり連れて行かれたりするのですか!!』
『約束の救済者は、本当に来るのですか!!』
アンサタ十字を掲げる祭司ウィザード.ユーリーの周りに集まる人々が口々に訴える。
『信じて待つのだ……幻想理想郷よりの救済者は必ず来る。』
ウィザード.ユーリーの傍らに佇む白いローブの婦人が
器に盛られた白い粉を人々に分け与えた。
『天より糧を食するのです。』
『あなた方の救済者は、ただ御一人。』
『それは幻想皇帝、識天使なのです。』
『惑わされてはなりません……この虚無の空間で蠢く土の器などではかりません。』
白いローブの婦人の言葉を確かめるように一人の男が訊ねた。
『その土の器とは、鉄屑傭兵団たちのことを言っているのですか……』
祭司ウィザード.ユーリーは白いローブの婦人を馬車に乗せ軽く馬の背に鞭打った。
『いずれ全てが明かされる時が来るであろう……』
その言葉を残して白いローブの婦人を乗せた祭司ウィザード.ユーリーの馬車は闇市を出て行った。