第3話
「親父、相談があるんだけど」
親父はいつも家にいる。
平日だろうと祝日だろうと
休日だろうと。
なぜかって?
理由は単純。
親父の勤めていた会社が倒産したからだ。
お父さんの会社が倒産‼︎
なんて笑えないギャグが本当に笑えないものと
化してしまったのが今の我が家だ。
「どうした。息子よ。
こんなダメ親父になにかようか?
お前の相談に乗っている暇があるのなら
俺は仕事を探したいところだが、
今日はお前の相談に乗ってやろう。
仕事するのめんどくさいし」
人は慣れる生き物だ。
仕事をしていないと
していないことになれる。
なにもせずにグータラしているだけで
食う飯のうまさを知ってしまった親父は
ただの消費ブタと化していた。
「えっとさ。嫌いな奴を貶める
いい方法しらないか?」
「なんだ。息子よ。嫌いな奴がいるのか?
えっと。それって俺じゃないよね?」
父親として尊敬している部分は
皆無だが、別に嫌いではないから
安心しろ。
「違う違う。嫌いとは思ってないから。
で、なにかいい方法知ってる?」
「そうだな。嫌いな奴を貶める方法か。
すまんが思いつかないな。俺は人を嫌いに
なるよりもどちらかというと嫌われるタイプ
だったから人を嫌う余裕なんてなかったな。
毎日をいかに安全に波風立てずに
過ごせるか考えて震えながら生きていたよ」
ほんと、尊敬できる部分皆無だな。
この人。
「俺はな。息子よ。昔少しやらかしてな。
周囲から浮いた存在になってしまったんだ」
今も空気のようにふわふわ浮いてる
存在だけどな。働け。
「なにをやらかしたんだ?」
「実はな。学校でう⚪︎こ漏らしてしまったんだ。それから俺のあだ名は
う⚪︎こマンとなった」
「まじかよ。でもありがちだな。
小学校とかでそれあったら
そのあだ名の定着は必然としか
言いようがない」
「おい。だれが小学校と言った?
今のお前の同じ高2の時の話だぞ」
「漏らした親父も親父だが、
う⚪︎こマンというあだ名をつけた同級生の
幼稚性にむしろ驚きを隠しきれないな」
「あの時は若かった。クラスでどれだけ
便意を我慢できるかというゲームが
流行っていたんだよ」
どんなゲームだ。
少なくとも高2でやる遊びではないな。
「俺はいつも誰よりもギリギリまで
我慢できていたんだ。自分の肛門括約筋は
最強という自負があった」
最強の肛門括約筋なんてだれが
必要とするのだろうか。
「しかしその日の便意はかつての便意とは
比べ物にならないほどの便意だった。
だが、俺の肛門括約筋は最強。
この便意も耐えられる。そう信じていた」
もう、肛門括約筋いいから。
この話いつまで続くの?
「本当にものすごい便意だった。
めまいもした。一瞬意識を失いかけもした。
だが、俺は負けなかった。
食いしばった」
食いしばったらだめだろ。
でるだろ。具が。
「この時点で気づくべきだったのだろう。
俺の肛門括約筋が限界に達していたことに、
いや、限界などとうに超えていたことに」
いくらかっこよく言っても
これは肛門括約筋の話である。
「限界を超えた俺の肛門括約筋。
知っていると思うが肛門括約筋には
2種類存在する。
俺の肛門括約筋はどちらも
限界を超えていたんだ」
その限界を超えた好きだな。
気に入ったのか?
何度も言うが
どんなにかっこよく言っても
肛門括約筋の話である。
「まずは内臓の筋肉の一部である
内肛門括約筋。
こいつは不随意筋だから尻を締めようと
意識しなくても、
自律神経のはたらきで尻を締めてくれる。
だがな。
不随意筋にも限界はあったようで
まずこいつが開いちまった。
決壊したダムのようにな」
どこまで便意を我慢したら
決壊したダムのようになるのだろう。
少しばかり気になってきたな。
気になってきたが、
所詮、汚物を撒き散らすだけの話だな。
「そして次に外肛門括約筋だ。
こいつは手や足の骨格筋と一緒で、
自分で締めることができる。
内肛門括約筋はいつもは
肛門を閉じてるが、
肛門の近くまで便が降りてくると
どうしても緩んじまう。
だが、その瞬間に便意を感じるから
便が漏れないよう、そと肛門括約筋を
締め、便を漏れないようにするんだ。
だが、こいつもあまりの便意で
いかれちまった。そう、
結果は見えているだろう。
やっちまったんだよ。俺は。
最強の肛門括約筋が負けたのさ。
圧倒的なまでの便意にな。
決壊したダムのように溢れてきたよ」
「そうか。そんなことが過去に」
「あぁ。だから俺はお前の力になれない。
俺はそれから嫌われる側の人間になっちまった。お前も気をつけろよ。
学校で漏らすとう⚪︎こマンになるぞ」
「俺は極限まで便意を
我慢するつもりはないから心配するな。
それから親父が同窓会に顔を出さない理由
わかったよ」
「同窓会なんてただの公開処刑だ。息子よ」
汚らしい下品な会話しかしていなかったが
一つだけ共感できたことがある。
俺も同窓会には行かないだろう。