dilemma ~開花~
朝目が覚めるとすぐ
「夏奈、11時にエントランスのレストラン前で待ってる」
伝言を送った
はぁ、あいつと正面切って話すの苦手なんだよな……
人見知りだからトージも連れて行けないし……
エト!いや、あいつはまずい
いろんな意味で
——。
待ち合わせ20分前!
これだけ早く行けば……
もういるし
相変わらず律儀だよな……
「早いね」
「たまたま用が早く終わったからよ?」
この涼しげな顔……昔は綺麗に思えたのに
ただの悪魔にしか見えない
レストランに入りいつもの奥の席に座る
「で、なんの用なのかしら?」
「話す前にお茶でもいかがですか?」
「普通に喋ってもらってもいいかしら?」
「はい、そうします。何か飲みなよ」
「そうね、そうするわ」
「で、話なんだが……」
夏奈はティーカップを口元に運び頷く
黙って聞くスタンスね……
「1つ、何故アルカディアに?2つ、『sin』に参加する目的は?3つ、これは1、2の答えを聞いてからにしよう」
夏奈は静かにカップを置くと軽く咳払いをした
「そうね……1つ、観光。2つ興味本位。ではダメかしら?」
「1つ言い忘れていた、返答次第では本気で怒る」
「冗談よ」
そう言って笑顔が夏奈から消えた
「1つ、私は気づけばここにいた。エトから話を聞いて合意の上で滞在しているわ。質問は?」
「特に」
「そ、じゃあ2つ、アルカディアで恩を返したい人に協力するため。以上よ?」
「じゃあ3つ、俺は力になれないか?」
夏奈は紅茶を一口飲み
「無理ね」
「何故?」
「理由がないから。私の身を案じてくれるのは素直に嬉しいわ。でも、それは理由であってはならないもの」
「強情、意地っ張り、見栄っ張り」
「なんとでも言いなさい」
「貧乳」
「スレンダーと言ってちょうだい」
「ほんと捻くれたよね」
「あら、お互い様よ?でわ、私からも質問いいかしら?」
嫌な予感……
「1つ、何故ここに?2つ、昨夜の可愛らしい女性は?3つ、何故そんなに捻くれたの?4つ、いい加減その卑屈な性格……いいえ、根暗な性格どうにかしたら?5つ——」
「ちょっと待て、誹謗中傷に変わってる」
「あらぁ、つい。でわ、5つ、何故亜季がペイジの勲章をつけているのかしら?」
当たってしまった……嫌な予感
——スゥッ
「1つ、エトからお前の穢れの話を聞いて助ける為に。2つ、俺達の学校の後輩、冬至百合だ。3、4は飛ばす。5つ、俺がアルカナ所持者だからだ。これで満足?」
「あら?珍しく素直ね」
あぁ、そうしないとかわされるからな
そして、あと1手……
「亜季がアルカナねぇ……確かにアルカナ所持者はペイジスタート、黒衣を纏っているのも納得が出来るわ。ならカードを見せて?」
「それは無理だ」
「何故?」
「俺は夏奈を信頼している。だが、夏奈が今危ない橋を歩いているなら、誰かに操られている線も考えられる。それともう1つ、アルカナに他人のアルカナを盗める、あるいはコピー出来る能力があるとするなら厄介だ。確認したいなら、ライブラリで頼む」
……
「そうね、亜季の言う通りね。そうするわ。本当に、そう……本当に亜季は昔から頭だけはいいわね」
「お前に言われたくない」
「もう少し物分かりが悪ければよかったのに……」
「何か言った?」
「いいえ?何も」
「なら話は早いだろ?俺がアルカナ所持者なら実力的にも力になれると思うけど」
「えぇ、確かにそうね。考えておくわ」
よし、釣れた
「あと、頼みがある」
「何かしら?」
「『sin』に参加しないで欲しい。お前にこれ以上負けるようなことがあったら——」
「わかったわ」
「でもっ!……え?」
「わかったと言ったのよ」
「あ、あぁ、ありがとう」
何か引っかかる
「フフッ、亜季の間の抜けた顔を見ると安心するわ」
珍しい……普通に笑ってる
そうやっていつも笑っていれば可愛く見えるのに……
「ほんと可愛くない」
「あら、失礼ね。これでも結構モテるのよ?」
「そうですか」
「そろそろ行くわ。理由もそうだけど、裏側にも亜季がいるのは嬉しいわ。本当にありがとう」
「あぁ、いつでも頼ればいい」
違和感を抑えながらライブラリへ走った
「ベル!頼みがある!」
「は、はぁ~い?」
「八都出夏奈の戦績とアルカナが知りたい」
夏奈も赤の衣を着ていたからアルカナ保持者の筈だっ——
え……?
「ベル、この戦績本当か?」
「はい~そうですよ~」
0勝0敗0分 0戦 『節制』
じゃあ、なんで夏奈は穢れに浸食されているんだ!?
いや、それより
「ベル、前にエトから夏奈の居場所調べるように言われた時、履歴があるって言ってなかったか?」
「はい~、オーダーカードの使用履歴があったのでぇ~」
なるほど……これで半分か
——ッタァーン
「ひゃうぅ!」
「もう、ひどいですよー先輩!ベルちゃんと遊ぶならアタシも誘ってよー!」
ベルが震えてる……おー、よしよし
あ、耳ふかふかして気持ちいいな
「こらこら、あんまりベルをいじめるな?」
「可愛がってるのー!」
「みぃ~っ」
あーあー、ガタガタしてる
仕方ない
——よっ
カウンターに乗り、膝の上にベルを乗せた
「おーよしよし、今は俺のターンだから何もするなよ?」
「えっ……」
うわぁ……あからさまにショック受けてる……
すまない、これもお前を犯罪者にしない為だ
「アキ君~ありぃがとぉ~」
わー、なんかもふもふして気持ちいい
和むなー
「先輩……?ロリコンですか?」
「違う」
「あ、ベル。ついでにトージの戦績も見たい」
「わかりましたぁ~」
え?あの、ちょ
8勝0敗0分 8戦 『皇帝』
「あのー、トージさん?これは?」
「あー、ばれちゃった……うーんと、稼いできた!」
「」
そんな意気揚々とVサインされても
俺、もしかしていらない子?
「よくこんな短時間で稼いだね」
「あー、それはカードのおかげで……えへっ」
「えへっ」
「」
出たよ、このタイミングでこの変態
「これはこれは亜季様。いやぁ、素晴らしかったですよ?百合様は。あのような勝ち方は久しぶりに見ました。まるで、ヘラク——」
「エト……?」
「は、はい。コホンッ、お喋りが過ぎましたね。失礼いたしました」
ねぇ、もしかして飼いならしてる?ねぇ、そうなの?
「ふむ。トージがそんなに強いとはな。なぁ、勝負しないか?」
「え?」
「アルカナジャッジでございますか?」
「ん?何それ」
「お互いのアルカナを賭けて勝負するゲームでございます。多くは、ランク10に昇格した方がアルカナ所持者に全チップを賭けて行うゲームでございます。」
「へぇ、そんなのあるんだ。普通に勝負したいだけだよ」
「じゃあ先輩、勝負してもいいけど報酬追加……いいかな?」
「内容は?」
「勝った方の言うことを一つ聞く!」
「へぇー、面白い!やろうか!」
「じゃあ、エト!ディーラーお願い!」
「かしこまりました。ゲームはどちらになさいますか?」
「んー、カーラドシャッフル!2回勝負!」
そうか……トージは俺の能力知らないのか
勝ったな……
「オーケー、やろう」
『アセット』
カードが宙を舞う。華麗にきりながらもエトは話だす
「どちらが先にBETなさいますか?」
「アタシアタシー!」
「それでよろしいので?」
「あぁ、かまわない」
カードがエトの左手に返ってくる
「でわ、BETを」
「MAXBET10枚だったよね?じゃあー、黒に10枚!」
「じゃあ赤に10枚か」
「でわ……」
カードがめくられる
スペードの6
ここまではシナリオ通り
「やったー!これで+10枚ー!」
『sin』ではプレイヤーがディーラーを務めない場合、精算は場の中だけで行われる。今回もそうだ
「次は亜季様ですね」
「赤に10枚。これで終わ——」
「終わらないよーっ!ごめんね?先輩」
トージの瞳が紅く染まる
「え?」
「フフッ、でわめくります」
クローバーの7
は?何が起きた!?能力がある限り、この手のゲームで負けはない筈
「百合様の勝ちでございます。おめでとうございます」
「やったぁーっ!先輩にお願い聞いてもらえるー!じゃあ、これは返してあげるね?」
チップが返された
「百合様、いいのですか?」
「うんっ!先輩からもらうわけにはいかないもーんっ」
「でわ、そのように」
「なぁ、エト……アルカナの強さで相手のアルカナが制限されるってことはあるのか?」
「いいえ、ございませんが」
そうなると、トージの能力は……
「はめられた」
「先輩のマネだよー?コールド……なんだっけ?」
「コールドリーディング。まぁ、今回は俺が勝手に突っ走ったミスだけどね。そんなでたらめの能力があるとはな」
「へっへーんっ!褒めてー」
「誰が負かされて褒めますか」
「だよねー」
負けはしたが、トージが味方でいてくれる以上強力なカードではあるな
いい収穫だ
「で、お願いは?」
「んーっとねー、先輩……デートしよ?」