dilemma ~策略~
「来ちゃった、てへぺろ」
「じゃねーよっ!どうやって!?選ばれないと来れないでしょ、アルカディア!此処がどんな所か——」
「久しぶりだねっ、GW以来ー?」
「あ、お久しぶりです。その節は……じゃなくてー!!」
「んーとねー、先輩駅前のレンタル屋さんの中でー、面白そうなことしてたから後をつけて……エトに頼んだー!」
と言いながらトージが万歳する。俺はエトを睨みつける
「てへぺろっ」
「」
「エト、さっきの布貸して。闘牛士が持ってそうなやつ。お前も今から消してやる」
「悪気はございませんでしたよ?百合様があまりに亜季様の事を心配なさっていたので……」
おーい、エトさーん、泣いてるフリしてもアナタすっごい笑顔
彼女は冬至 百合
1つ下の後輩で、中学の時にひょんなことから知り合ってそれ以来の中。
元気でスポーツ万能な上に強気な性格から、皆から名字の冬至をトージって形で呼ばれている。トージって男っぽい名前だしね。
俺は素直で可愛い後輩だと思ってるけど。
「笑顔の可愛いショートカットの女性は健康的で可愛いですものね」
「は?」
「いえいえ、お気になさらず」
「んー?どうしたの?」
「代弁者とは常に自分の気持ちを押し殺して大変。というお話です」
「ちょっとアタシにはわかんないや」
「エトー、余り調子に乗ってると処すよ?」
「え、え、何にでございますか!?」
案外この組み合わせも悪くないかも
とか思っていると、トージに服を引っ張られる
「甘いもの……」
「あ、あぁ。じゃあ行こうか」
三人でレストランに向かって歩き出す(一人浮いているが気にしない)
——ん?
「どうかなさいましたか?亜季様」
「いや、何でもない」
あんな小さな子が出入りして大丈夫なのかな?
それにしても……あれがペロペロキャンディーというやつか
あんなでかい飴初めて見たぞ
中へ入り、奥の席に座る
「そういえばエトって支配人だろ?よく俺と一緒にいるけど平気なの?仕事とか」
「私の仕事は楽しいことを、面白くしてもっと楽しくすることですので。心配はございません」
「もう何も言うまい」
「それでもたまにですが、皆様の前からいなくなっておりますよ?呼び出しが来ましたら行かねばなりませんので」
確かに。たまーに視界から消える時あるよねこの人
「エトー!どれが甘いものかわかんなーい」
「でわ、こちらでお選びいたしましょう。亜季様のおごりですし」
「うんっ!お願いっ!」
「さっきまでと態度コロッと変えて」
「えっへへー、先輩と一緒にいるの久しぶりで楽しくて」
こういうところいいよね。うん
「えっへへ——」
「エト……?」
「申し訳ございませんでした」
「どうしたのー?エト機嫌いいねっ」
——ピクッ
やばいこれはやばい、あぁもうトージは余計なことを
ほら震えだしたよ……注文終わってるよな?
ならよし、勝手に喋ってろ
「先程の亜季様の戦いぶり!全てを見通した上での采配!前以て勝利条件をご自身のオーダーカードに合わせ、過度な挑発でのせ、最後に完膚なきまでに叩きのめす。先の先まで見通す千里眼に、聡明な頭脳、アナタ様をの勝利を見て興奮せずにいられるとでも!?私にはそんな真似は出来ません!それに——」
トージが顔を近づけてくる
「先輩……?エト、どうしたんですか~?」
「気にしないで、ただの変態だから。食べ終わる頃には終わってる」
「ふ~ん、変なのー」
隣に座っているトージが姿勢を戻す時、ほのかに甘い香りがした
女の子っていい匂いしますよね
「その意見には同意でございます。しかし——」
「ごめんなさい、話を戻してください。俺を称えてくださればそれだけで幸せです」
「んー?なんの話ー?」
「気にしないで、ほら沢山食べて」
「——でございます」
「終わった?」
「はい、ご清聴ありがとうございました」
聞いてないし。はい、そこ!トージさん拍手しない!つけ上がるから
「それで、先輩はなんでここに来たの?」
「トージは夏奈の事知ってる?」
「勿論!すっごく綺麗だよねー!儚い感じが人気で、二年生の中にはファンクラブがあるって噂もあるよ!」
あぁ、既に我らが学び舎はあの魔女の手中に堕ちていたか……
「それで、八都出先輩がどうかしたのー?」
トージに全てを説明した。俺の知っていること全てを
するとトージの表情が悲しそう?に見えた
「アタシも参加しますっ!」
あぁ、嫌な予感はしたんだ。すぐに首を突っ込んでくる
「お前なぁ、負けたら俺がトージの事忘れるんだぞ?自分が自分じゃ無くなるんだぞ?」
「それは嫌!でも、先輩が危ない目にあっているのに見過ごすなんてもっと嫌!」
こんなに心配してくれるなんて……夏奈、お前は後輩に愛されているな
「でもな……」
すると、トージが何か思いついたみたいでエトに耳打ちをした
「では、アタシがどうするかを先輩のお部屋でお話しよっ!」
「は?」
「いいからっ!後で部屋に行くねっ!あ、あとエト借りるねっ!」
颯爽といなくなった……
仕方ない。部屋で待つか
——。
「おっまたせーっ!」
勢いよくトージがエトの襟元掴んで入ってきた
あれ?赤い衣?初めて見るな
って待って、エト?ちょっとぐったりしてない?
「ダメだよ?トージ、いくら面倒でもエトを殺すなんて……」
「え?疲れてたみたいだから引っ張ってきたー!浮いてるから軽いんだよ?」
そういう問題でもないが……エト……お悔み申し上げます
「ねぇねぇ、先輩?」
「ん?どうした?」
「先輩のオーダーカード見せて?」
どうやって出すんだろう……
「亜季……様、手を……前に伸ば……し、『オーダー』と……唱え……て……くだ……さい」
あ、うん。ごめんね、疲弊してるのに
右手を前に差し伸べた
「オーダー」
スゥッと掌に浮かび上がりクルクルと回っている
「へー、先輩のカード茶色なんだ。ならアタシでも役に立てるねっ!」
え
「オーダーっ!」
トージの掌の上で真っ黒なカードがクルクルと回っている
「あの、トージさん?」
「普通はね、茶色なんだって!アタシはアルカナカードって言って、一枚しかないんだよーっ?しかもペイジスタートなんだって!えっへんっ!褒めてー」
「」
「じゃなくて……なんでカード持ってんだよ!」
「登録したのー。てへっ」
「」
「てへ……」
「無理しないでいいよ、エト」
「はぁ、もう諦める」
疲れもあってうなだれた
「心配しないで!先輩よりもいいカードなんだからっ!しかもね、いいでしょー」
トージはクルっと回って見せた
「赤い衣はアルカナ所持者専用なんだって!それに、この勲章も可愛いよねー。杯の形とか珍しいよねー」
「あ、勲章!」
貰うの忘れていた!取りに行こう!
「ちょっと勲章もらってくる!好きに使っていいからちょっと待ってて!」
「え、先輩?」
「部屋を?エトを?」
その時ビクっとエトが体を動かした
「ただいま」
「おかえりなさーいっ!」
って、え?なにこれ。部屋の中が
「超ファンシー」
「でしょー?」
なんかお姫様の部屋みたいになってる。基調は相変わらず茶色ですが
オブジェやぬいぐるみがすごい
「ここで過ごせと?」
「だって好きにしていいって」
「斜め上だったよ」
——はぁ、っと一息つき
「お前ベルに何したの?名前だしたらすっごい怯えてたけど」
「あーっ!ベルちゃん!?可愛いよねー!何かしたかな……?ギューってしたり、頭なでたり、尻尾触ったり、とかぐらいしか……」
あ、うん。過度に可愛がり過ぎたのね
「それだけではございません」
おぉ、エト生きてたか
「百合様、カギを亜季様にお見せいただけますか?」
「いいよーっ!はい」
303と刻まれている
「百合様がベル様に部屋番号を変えるよう進言いたしまして、最初は抵抗していたのですが……」
「」
「トージ、あんまりワガママ言うんじゃないよ?」
「ごめんなさい……でも、心細いから先輩の隣の部屋がよくて……」
そうやって、しゅんとしながら上目使いで言われると……なぁ?
「わかってればいいよ。それとあんまり無理はしないでね」
「うんっ!ありがとー!……えへへっ」
現金なやつめ
それから暫く他愛のない話に明け暮れて
気が付けば23時
「もう帰れよ」
「やだー。まだお話しするー」
途端に身構える
「でわ、私はそろそろ」
予想外。この人もまともな所があるのね
「入浴の時間ですので、亜季様もご一緒にいかがですか?」
そうきたかっ!
「いくぅー!」
「でわ、皆様で参りましょう」
この流れは仕方ないか。それに……
異世界のお風呂気になってた
「で、着いたのはいいんだけど。トージは何を抱えているのかな?」
ジタバタと動く布に包まれた塊が見える
「ベルちゃん」
エトと顔を見合わせた
やはりか……
浴場は豪勢なものでした。ライオンだったり、神殿の支柱みたいなものだったり、絵にかいたようなものでした。
エトが面倒なのはここでも……あれ?
「この度は勝手なことを……申し訳ございません」
何?いきなり真面目?
「何が?」
「百合様の事でございます」
「あぁ、気にしないで。出会った頃からだから、彼女」
「左様でございますか。私としては、亜季様がアルカディアで目的を果たすには強固な絆で結ばれた仲間が必要かと思いまして」
「まぁ、正論ではある」
「なにせ、亜季様が進もうとなされている道は、とても、とても……険しいものですから……」
わかっている。でも、夏奈のこと放っておける……
「あぁっ!」
「へ、はい?」
「夏奈の事探すの忘れてた!」
「えー」
急いで浴場を出ると
——ドンッ
「ご、ごめんなさい、急いでいて……」
視線を下から上に上げていくと
スラッと長い足、浴衣を直す華奢な腕、物凄く長い艶やかな黒髪、端正な顔立ちの悪魔が冷たい視線をこちらに……
「夏奈っ!」
夏奈は耳を塞ぐ
「聞こえているからあまり大きな声を出さないで。それより亜季はどうしてここに?異世界観光にでも来たのかしら?」
と、涼しげに笑う
「観光なわけないだろっ!」
「あら、それなら先日の亜季の言葉から考えて、私が心配で追いかけて来てくれたのかしら?」
珍しくご機嫌な笑顔だ
「当たり前だろっ!そうでもなければ——」
「あ、先輩ー!ベルちゃんがね——」
「は~な~す~の~で~す~」
途端夏奈の笑顔が凍り付く
「……やっぱり観光のようね。邪魔してごめんなさい」
「おいっ!夏奈」
「亜季のこと登録しておくから、用があるなら呼び出して」
そう言うと夏奈は去っていった
「あのー、先輩?何かまずかった……?」
「いや、大丈夫。ごめん、今日はもう部屋に戻るよ」
「うん……おやすみなさい」
「あぁ、おやすみ」
——。
明日、夏奈と話そう
どうせはぐらかされるだろうけど
もう目を背けない
夏奈がどれだけ逃げようとしても……
捕まえてやる
——。
「アキ君と~ユリちゃんと~カナちゃんお知り合いだったのですね~。エトわぁ~アルカディアで戦争でもしたいのでぇすか~?」
「まさか、皆様は出会うべくして出会ったのでございます」
「ふ~ん、てぇっきり~オーダーカード使ったのかと~。オーナーが知ったらぁ~なんて言うでしょうねぇ~」
「ヴェルダンディ様?変に誤解を生むような発言は控えていただけますか?」
「わか~ったよぉ~。エトもその名前で呼ぶのや~めよぉ~ね?」
「これはこれは……失礼いたしました」
悠久の夜は幾つもの思惑と
不安を抱きながらも
短い休息に憂う……