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Essence ~エッセンス~  作者: 秋野 紅葉
ladle ~地につき広がり~
5/7

dilemma ~邂逅~

——ドサッ


時刻は22時。天井をぼーっと見つめる

「案外ふかふかしてる。もっとひどいものかと思った」


幸い、明日登校すれば週末。休日はこっちで過ごそう

バイトは……今月はもうシフト入ってなかったな……


もう少し、もう少しだけこのまま……

23時には帰ろう……わが家へ……




——。




とりあえず……だ、テーブルには豪勢な料理、目の前には興奮冷めやらぬ大道芸人、腹は減っている……いや、待つべきかな……


「いただきます」


「——で御座います。そうそうこの間なんか、ワンドの4の方が……」


聞こえてないな。なんだろうこのエビ?のようなもの……美味いけど見た目が多少引っかかる……あ、これ美味い。肉なのは確かなんだが、ゼリーみたいな触感だ。

水にもほのかに柑橘系の香りが……なんだろう、なんかもう


「宝石箱やー」


「——が凄いのです!まさかあそこから戦局をひっくり返すとは……」


ダメだこの人。とりあえず目の前の食事に集中しよう。


「——でして、あ、亜季様?口元にクリームがついておりますよ?」


そういうところは突っ込むのね。それとそういうセリフは是非、綺麗なお姉さまにお願いしたい。


というわけで、収集つかないので例のごとく


まとめまーす


アルカディアには宿泊客がおおよそ500人。その多くがナンバーズの5以下らしい

ナンバーズは4種類に区別される


知性を示す『ワンド』

力を示す『ソード』

器用さを示す『カップ』

運を示す『コイン』


簡単に言えばコインの7はコインの3より強運だ、みたいな感じでしょう。

そしてペイジ、ナイト、クイーン、キングという『アルカナ』と呼ばれるこの世に1枚しか存在しないカードを持つ者達がいる。ナンバーズの10まで上り詰めればアルカナ所持者に挑戦する権利が与えられる。

そして勝利すれば新たなアルカナが与えられるそうだ。


「まずはアルカナを手に入れて、ペイジにならないとな……」


「では食事もすんだことですし、ライブラリに登録なさいますか?」


「登録?」


「えぇ、登録なさいますとカード、スタートランクが開示、登録されて初期チップを受け取れます」

「そういえば言ってたな。というか、俺チップ用の資金なんてないよ?」


「支給品でございます故」

「換金してさようなら?」

「いえいえ、100枚を超えた分しか換金できません」

「へー、なるほどね」


「でわ、参りますか」




——。




「と、いうことは?」


「ペイジスタートでご~ざいます~」


「 」


あ、うん。目の前でぶかぶかなローブのフードを左右に大きく揺らしながら、猫耳みたいなのはやした小さな女の子は今……


なんとおっしゃいました?




レストランの正面にある蒼い電子的な扉が開かれると、見たことあるような空間の中央にカウンターが。なんだろう、テレビなんかで見たことある……株?為替?だっけ、上空にホログラムで数字の羅列のがグルグルと回っている。


「こ~っちだよ~」


カウンターには誰もいない。でもピコピコ動くものが……猫かな?だとしたら撫でるしかない!


「かぁ~ってになでちゃだ~めですよ~」


「 」


すごいアルカディアって猫も喋るのか!なんて幸せな……あれ?でかくない?


——ドッ


勢いよく何かが頭にぶつかってきた。後ろに倒れた俺は、カウンターの上にいる不思議な生き物に目を奪われた


真っ白なローブがだぼっとしていて、両手が出てきてない。身長は130くらい?随分小さいな……頭をぶつけたのだろう、フードの上からあぅあぅ呻きながら両手でさすり、尻尾が……


「尻尾!?」


そう、金色の尻尾がユラユラと……


「いたい……」


フードから顔を覗かせると耳をピコピコさせながら呟いた。涙ぐむ蒼い瞳はじっと見ていると時が止まるかのように感じた


「ごめんなさい」


謝ると彼女はカウンターに腰かけた?乗っかった?ままで話だした


「むぅ……いきなりのぞくから~こうなるの~。もういいです~。エト~?この人がそうなのですか~?」


「左様でございます、ベル様」


「なら~、はじめましょ~う。お名前は~?」


「亜季、咲良亜季です」


「アキくんね~、みぎてをだ~して~?」


「こうですか?」


差し出すと握手された。瞬間、彼女の瞳が蒼から紅に変わった


「ほう、これは……面白い……全てを平等に帰す天啓か。カードは……天秤?見たこともないカードじゃな……多少古ぼけて擦れておる……だが、面白い。少なくともこのカードがアルカナであることは間違いない。さすれば、おぬしはペイジからスタートじゃな」


そう呟くと彼女は手を放した。キャラ変わった?ねぇ、キャラ変わった?というか、なんかすごい事聞こえた気がする


「お~めでとうございます~」


あ、戻った。気づけば瞳の色も蒼だ


「アキ君の~、オーダーカードわぁ~、アルカナカードの『天秤』ですぅ~。能力わぁ~平等に~公平に~することで~す」


ということらしいです。さっきまでのペイジまでとりあえず勝ち続ける意気込み返せ




——。




天井を見上げながら思い返すと、とんでもない一日だったなー

そういえばベルの名前も略称っぽいな——


「おぉ~、素晴らしい!顕現されるものがいきなりアルカナとは!これこそ運命だと思いませんか?ヴェルダ……」

「だ~め~、その名前でよんじゃだ~め~」


——まぁ、叔父さんと姪っ子の微笑ましいやりとりのような?

さて、そろそろ帰るか


「ゲート」


目の前にカギ穴が現れ、カギを回すと扉が現れた


「まったく便利な秘密道具だな」


ゲートを抜けると、誰もいなくなった筈の部屋にはエトが


「大切なものを守るために、血生臭い戦いに身を投じるとは……やはり、アナタ達は何処までいっても親子……なのですね」


エトが見つめる先で開け放たれた窓がユラユラ揺れていた




「さぁ、今日もいきますか」


鞄を持って家を出る。そういえば服はエトに言われた通り、胸に手をかざして『ベール』と唱えたら元に戻ったな……なんて便利なのか


「亜季おはよー」


学校に着くなり背中が叩かれた


「あぁ、おはよう」

「宿題はやってきたかー?」

「それは鏡を見て自分に聞いているのかな?」

「ちげぇよ!俺はやってきたかんなー」


得意げにされても


学校ではいつも通り授業を受け、昼食に購買で買ったパンを屋上で食べ、くだらない話をしては、それなりに楽しく過ごした

そういえば夏奈を今日見てないなー


「聞いたかー?今日八都出さん休みらしいぜー、珍しいよなー」

「あ、うん。お前の風の噂の出どころの方が気になるけどな」

「幼馴染さんは心配もせずにひどいですねー」

「あの魔女はそうそうくたばらないよ?」


でも、気になるのは確かだ。アルカディアに行ってるとするならば……

また浸食が進むことも……学校終わったらすぐに行くか




「ベール」

そう唱えると黒衣が体を包む


「ゲート」

扉を開きアルカディアに到着した


さて、何処を探せば・・・そうだ


「エト」


「いかがなさいましたか?」


うん、ちょっとだけびっくりした


「後ろからくるなよ」

「でもお呼びになられましたよね?」

「普通に現れろ普通に」

「かしこまりました。しかし、よく気づきましたね、館内呼び出しの方法に」

「そんなのあるの?いや、見届けるとか言っていたから近くにいそうだなーって」

「なるほど……正解でございます」


といってニヤニヤ笑った。怖いよストーカー怖いよー


「で、館内呼び出しって?」

「ライブラリにて相手の名前を登録いたしますと、相手方の呼びかけに応えることが出来ます。会話などは出来ませんが、一方的な伝言なら可能でございます。あ、勿論勝負の最中などには使えませんが」

「カンニングと一緒だよねー」

「左様で。それで、いかがなさいましたか?」


「夏奈を探したい」


「でわ、ホールフロアに参りましょうか」




4m位ありそうな大きな扉が開かれると目の前には


「これなんてラスベガス?」


まさしくカジノでした。バニーちゃんほんとにいるよバニーちゃん


「亜季様、先日の少女でよろしいので?」


「あぁ、ホール内にはいるのか?」


「えぇ、先ほどベル様に問い合わせた結果『sin』の履歴が残っているそうなので」


「まさか、負けたのか?」


「さぁ、そこまでは」


何処だよ。街中なら目立つ見た目してるのに、こんな所では探すのが難しい

金髪のお姉さん、怖そうなお兄さん、チャラそうなお兄さん、へー、あんなおとなしそうな女の子もいるのか

わかったことがある。男は皆青い衣、女性は白い衣に身を包んでいる

正装なのだろうか……何故俺は黒なんでしょう……


——キャアッ


女の子の声?まさか——


人をかきわけて声のもとに

男が倒れた女の子に向けて叫んでいる


「てめぇだろ!何しやがった!俺の能力ならぜってー負けねぇのによぉ、てめぇがなんかやったとしか考えられねぇんだよぉお」


フードを深くかぶった女の子は震えている


「お客様ー?いかなる状況に置いても当館内における暴力行為は——」

「どけ、エト」

「へ?」


エトをどかし、少女のもとへ

「大丈夫か?怪我は?」


コクリと頷く少女


「後で話を聞かせてくれ。なぁ~に、あの悪党をぶっ飛ばした後に何か甘いものでも食わせてやるからもう泣くな。少し待ってろ」


コクコクと少女は頷いた

「エトー!」

「はい」

「この子を頼む」

「仰せのままに」


一歩、一歩ずつと男に近づく


「アンタは触れちゃいけないもんに触れたんだよ」


「は?何言ってんだおま——」

「黙れ悪党。俺の中に刻まれた理を破った……か弱い女に大の大人……男が手をあげるなんてな」


そして男の胸ぐらを掴む


「アンタは俺を怒らせた」




——。




「でわ、カードを配ります」


エトが交互にカードを投げてゆく


頭の中はいたって冷静だった。深い水の中へ沈むように




「エト!」


「は、はい」

慌てて返事するエト


「この悪党と『sin』がしたい。いいか?」


「そちらの方は?」


「あぁ、かまわねぇよ?その前にとっとと手を放せクソガキがぁっ」


手を振り払い、男は白い手袋を外した


「誰に喧嘩売ったか思い知らせてやるよ。俺の手を見な」


指が赤く染まりかけている


「ベテランの俺がここまでしか浸食されてないってことは、どういう意味かてめぇみたいなガキでも……って、なんだクソガキ勲章も付けてないってことは、その黒衣もそうだが、さっき来たばっかのビギナー様ってか……ぶっ潰して二度とこれねぇようにしてやるよぉっ!」


「御託はいい、さっさとはじめよう。エト!ゲーム内容は?」


「『sin』では挑まれた方がゲーム内容を決めれます。いかがなさいますか?お客様」


「そんなことも知らねぇとはな、『スタンドブラックジャック』で勝負だぁっ!」


「オーケー、やろう」




「さて、カードは配りましたのでルールの再確認でございます」


『スタンドブラックジャック』

ヒット【カードの追加】はなく、2枚目のカードがめくられた時点で勝負は決する

ディーラーは勝負には関与せず、ただカードを振り分ける

ゲーム数は4回、交互に掛け金を決めることが出来るが、1回のMAXBETは20枚

勝った方が場のチップを総どりできるゲームである。

運に左右されるが、1枚目のカードを見てBET額を決められる為、状況判断も必須である

ディスカードトレー【使用されたカードがおかれる場所】も使用されず、デッキが毎回シャッフルされる為カードカウンティング【使用されたカードから残りのカードを推測する手法】も不可能である。

ナチュラルブラックジャック(このゲームの場合スタンドブラックジャック)は賭けた額の2.5倍になるように相手から回収出来る


「でわ、はじめます」

目の前でカードが1枚クルクル回りだした


「亜季様、それはオーダーカードでございます。それを掴み唱えてください」


「わかった。その前に悪党、ベテランのお前が俺に勝てなかった場合あの子……」


「ユリ様ですね?」


「あぁ、ユリっていうのか。ユリに謝罪した後、二度と俺達の前に姿を見せないと誓え」


「あぁん?俺がてめぇに勝てないだと?笑わせんな」

高らかに男は笑い出す


「なら誓え。ベテランのお前がビギナーどころか、アルカディア最初の勝負をする俺に勝てないなら条件をのむと」


「馬鹿にすんのも大概にしろよクソガキがぁっ!条件でもなんでものんでやらぁ!ぶっ潰してやる!」


「エト、賭け金追加だそうだ」


エトは一瞬ピクりと表情が動いた後に清々しい笑顔で言った


「仰せのままに。でわ——」


『アセット』


——1ゲーム目

あのクソガキ……俺の能力も知らないままにネギしょってきやがった……

笑いがとまんねぇ……

俺はコインの7、俺の引きが負けるわけねぇだろ

だが、いきなり強気に出ると怪しまれるだろう……まずは

「5枚だ」


場のカードは俺が3


向こうは8……


だが——


「でわ、めくります。亜季様9、お客様は8ですね」


まず5枚か……


——2ゲーム目

「5枚」


あのクソガキでかい口叩いといて慎重だな


俺が9


向こうが1か……


ま、心配いらねぇか


「でわ……亜季様10、お客様が10。お客様の勝ちでございます」


これで10枚……次か


——3ゲーム目

男は笑った。高らかに

「20枚だっ!これでお前の息の根を止めてやるよぉ!」


これで俺の勝ちだ勝ちだ勝ちだ勝ちだぁっ!

勝った後はどんな文句つけてしぼりとってやろうかぁ


「お客様、勝負の最中はお静かに……でわ、めくります」




亜季 16

男 20




——っ

「かぁあったぁぁああっ!さぁ、変な条件つけてきたんだっ!てめぇも何かしてもらわねぇとなぁあああ——」


「黙って座れよ」


こいつは何を言っているんだ?


「俺が+30枚でMAXBETが20枚のスタンドブラックジャックでてめぇがどう勝——」


「いいから座れ悪党がっ!」


「亜季様のおっしゃる通りでございます。まだゲームは終わっておりません」


「はっ!じゃあお望み通り搾り取ってやるよっ!」


4ゲーム目

「俺は20枚。これで終わりだ」


あぁ、てめぇがなぁ……

この状況でMAXBET、やっぱりただのカモだったか

大口叩きやがって……まぁいい


俺が8

向こうは1


さっきと同じ展開じゃねぇか

ツキすら持ってねぇとは笑えるなぁ

ランク10に上がった時のアルカナジャッジより前に、支配人にディーラーやってもらえるなんて……俺はツキまくってんなぁ……


ん?


支配人が笑ってる……?いや、いつも笑顔だがちょっと違う笑い……


「——失礼。でわ、めくります。亜季様クイーン、お客様9でございます……」


——ガタッ


「ざまぁあぁあ……は?」


亜季も立ち上がる


「ナチュラルブラックジャック……あぁ、スタンドブラックジャックになるのか。俺のBETは20枚、2.5倍で50枚。場には40枚しかないから、お前が追加で10枚。つまり、お前は-30枚で±0だ」


「はぁぁああああっ!?」


「エト、コールはないのか?」


エトは小刻みに震えている。ちょっと怖いもうやだこの人


「この勝負引き分けでございまぁああすっ!」


「ありえねぇ……あそこでスタンドブラックジャック……!?

てめぇ、どんなイカサ——」


「オーダーカードはイカサマじゃぁない。そうだろ?エト」


「仰る通りで」


「だが俺は負けて——」


「だが勝てなかった。そういう条件だよな?エト」


「はい……っ」


お願いだから震えないで怖い


「まぁ、これに懲りたら……」


「くそがぁぁああっ」


——ヒュッ


殴りかかった男をエトが何処から出したのか真紅のビロードで消し去った


「ゲート?」


「さぁ?」


やっぱりこの人怖い


「あ、ユリ!」


豪勢なソファに寝転がったユリに駆け寄る


「大丈夫?もう心配はいらないよ?」


ハラっとフードがめくれながら、抱き着いてきた……って、え?


「怖かったよ~、ありがとう亜季先輩っ」


「」


「え、ちょっと待って!お前、トージ!?」


「もぅ、先輩その呼び方いいかげんやめてって言ってるじゃないですかっ!」


あれ、理解が追いつかない……とりあえず、聞いてみよう


——スゥッ


深呼吸をして問いかける。

「どうしてここにお前がいるんだ?」


彼女ははにかんだ笑顔でこう言った




「来ちゃったっ」




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