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Essence ~エッセンス~  作者: 秋野 紅葉
drip ~手の中から零れ落ちて~
4/7

monochrome~世界は赤く染められた~

「ゲームをしましょう」

「ゲーム?」

「はい、中でも一番簡単で、皆さんがじゃんけん代わりにアルカディアで使われている『カーラードシャッフル』などいかがでしょう?」

「ルールは?」

「切られたカードの一番上が赤か黒かBETするだけのゲームです」

「簡単だけど侮れないな……」

「ほう、それはどのような?」

「赤と黒の2分の1の確立に見えて、コイントスの裏表とは違う大要素を含む確率論であり、収束する確率もディーラー次第ということだよね?」

「やはりアナタは賢い方だ」

「普通だよ」


「では、ここにチップを……といっても賭けたりはしませんので、ご安心ください。ディーラーは私がやりますので、5枚のチップを減らさなければアナタの勝ちです。」


おっと、口元が笑いそうになった

こういうのは駆け引きが肝心だからな


「いいよ、やろう。ゲーム数は?」

「3ゲームでいかがでしょう?」

「じゃあ、はじめよう」


「では、アセット」


——?


「これは失礼。『sin』では開始時にオーダーカードをかかげ、『アセット』と唱えます。なんでも何かを課す為に唱えるとか」

「なるほどね、習慣だね。すごいわかる。うん」


「では、はじめましょうか」


——っ


目の前でお手玉をするかのようにエトがカードをきる

見た目もそうだけど、大道芸人みたいだと感心していると、空中に羽ばたいたカードがエトの右手に舞い戻ってきた。


「BETを」


「黒にチップを一枚」


「では——」


めくられると、ダイヤの7——


「残念」

「うるさい」


「次はいかがなさいますか?」

「黒にチップ一枚」


「では——」


次は、クローバーのQ——


「おやおや」

「一々うるさい」


「最後はいかがなさいますか?」

「黒に2枚で終わりかな」

いけない、少し地が出てしまった


「はて?」

「気にしないでくれ」


「……でわ、今の言葉と何故、最後のゲームで2枚しか賭けないのかは忘れましょう」


そう言いながらエトはカードをめくる


——スペードのA


「おや……これでは——」

「減らさなければいいんだろ?キッチリ5枚だ」

「解せぬ」

「は?」

「いえ、言いたかっただけです。これはいかような手品で?」

「手品も何もないよ、ただこうなる気はしてた。半信半疑だったけど」

「一種の賭けであったと?」

「そうだ。俺は二年ほど前から『±が0になる』っていう不幸な体質に見舞われていてね、このゲームにも適用されるかなと考えていたらその通りだった」


「なるほど……すでに能力は顕現していると」

「ん?」

「いえ、何も……しかし実に面白い!やはり運命には抗えないのですね!」


エトは空へと手を伸ばした。まぁ、その先は我が家の天井ですが


「で、どうしたの?」

「失礼、取り乱しました。アナタは既に権利を得ていたのです。まずはアルカディアへ参りましょう」

「は?」

「あぁ、お洋服ですね。これでいかがでしょう?」


パチンっ——という音とともに俺の服が黒衣に姿を変えた。

貴族のような道化師のような


「え、エトさん……?これは?」

「よく似合っておいでですよ?さぁ、参りましょう。お食事もあちらでご用意しましょう」


仕方ない、なるようになるか

そう自分に言い聞かせながら立ち上がる


「でわ、カギを目の前に差出し、『ゲート』と唱えてください」


「ゲート」


すると目の前からいきなりカギ穴が現れた


「差し込めばいいのか?」

「えぇ、そのように」


差し込み、カギを回すと目の前のカギ穴が扉になった


——?


「エトのゲートと違うよね?」

「私は部屋に通じておりませぬ故、開けていただければわかりますよ」


「わかった、いくぞ——」




——。




「は?」


ただの部屋だ。言うなればRPGのゲームで見るような宿屋?

古い木で出来た箪笥、木製のベッド、円形のテーブル。

開かれた窓からはほのかに香る森の匂い。

窓に近寄り外を見る


「ハハッ、凄いよ。本当に俺は来てしまったんだね」


世界の裏側に——


草原に湖、更に奥には見慣れた街並みを遥か上空から見下ろし、上を見上げると空を突き抜けるような星空。どんな言葉を並べれば等しい価値を表現出来るか俺はまだ知らない。


ふと、手の中にあるカギを見ると古い皮に金属のプレート、304と刻まれている


それを見ていたエトが


「はて、3層……?それほどのオーダーカードには見受けられませんが……」

「どういうこと?」

「いえ、こちらの話です。景色を堪能なさいましたのならいきましょうか」

「あぁ」


ドアを開けると内側が部屋、外側はガラス張りの廊下が曲線を描き奥へと続いていた。豪華な赤い絨毯を進んでいくと、豪華なエレベーターがあった。

乗り込むとエトが1のボタンを押した。行き先は1階か……

あれ?ここは3階?客室って2階じゃなかったっけ?


まぁ、いいか


エレベーターのドアが開くと

「まぁ、お洒落なホテル」とつい言いたくなるようなだだっ広いエントランス、でかい両開きの扉が奥に見えた。


「こちらです」

右手にあるフロントの横の白く、お洒落で可愛らしい扉を目指し歩く。

扉を開くとつい

「冒険者酒場かよ」

つっこんでしまった。こんな可愛い扉開いて、こんな酒場あると思わないよね。

レストランじゃないの?ねぇ、お店間違えたって言ってエト


「でわ、奥へ参りましょう」

あってたよ、大正解だよこんちくしょう


「あぁ、このレストランはオーナーが気分でコンセプトを変えております。今回は湖の近くの森の家がどうのこうの」

「そのオーナー、ネットゲームしてるだろ」

「よく存じませんが、仮想空間が——」

「やめなさい」


席に座るとエトがメニューを開き、注文をしていた。

まぁ、よくわからないし任せよう


「さて、まずはおめでとうございます。そして、ようこそアルカディアへ」

「あぁ、ありがとう」

「では、『穢れ』についてなんですが、あれは呪いのようなものです。胸まで到達した血は本人の存在を周りから消してしまいます。穢れきった魂は浄化され、新たな人生を歩むといったところでしょうか。勿論、リセットされた後に出会い、再び思い出を作ることも可能でしょうが、本人は記憶を書き換えられ、周りもその上で出会って、本当にその方が今までと同一人物かと問われると定かではありませんが」


「え、あの、ちょ」


「はい」

と言って満面の笑顔のエト


「いきなりだし、話重いし、そんなに流暢に話すキャラだと思ってなかったし、ごめん、ちょっと待って」


「えぇ、いくらでも。なにせ此処は悠久でございますので」


話を整理しよう。オーダーカードを駆使すれば代償として指先から赤く染まってゆく。それが胸まで到達すると自分が自分でなくなり、今まで生きた人生が嘘になる。事実上生きてはいるが、それは死ぬのと一緒ではないか?


じゃあ……夏奈は?


「穢れを消すには!?」


「それはまだお教えできません」


「アルカディアにはランクがあります。1~10のナンバーズ、ペイジ、ナイト、クイーン、キングと。つまり階級ですね。それぞれのランクに応じた情報しか開示出来ませんので」


「ならどうすればいいんだよ!」


「そこでどうしても教えろと言わないアナタはやはり聡明です。浸食を止める方法なら教えて差し上げますよ?」


「まぁエトがルールを重んじているのはアルカディアの法について聞いているからな。で、方法は?」


「負けなければいいのです」


「負けない?」


「左様でございます。負けなければ浸食は進みませんので。結果、先ほどゲームに能力を行使されたアナタも浸食されておりませんよね」

「確かに」


「じゃあ、もう一つ」

「いくらでもどうぞ?」

「穢れを消すことは出来るのか?出来ないのか?」

「出来ます」


——ふぅっと1回深呼吸


「ありがとう、それだけで充分だ。キング位までいけば方法もわかるだろ」


——ガタッ


エトが小刻みに震え、机に当たったようだ


「アナタはどこまでもおもしろい……いいでしょう、このアルカディアが支配人エトワール・トワイライトが悠久の彼方まで見届けましょう!」


「おおげさだ」


こうして彼は世界の裏側で

赤く赤く染められた世界を

悠久の中を歩き出す




血の香りにあてられて——








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