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Essence ~エッセンス~  作者: 秋野 紅葉
drip ~手の中から零れ落ちて~
3/7

monochrome ~音色さえも消えて~

「——亜季?」


「あぁ、ごめん。こうやって話すの久しぶりだなーって思って」


そう、本当の事だ。あんなことさえなければこうやって、この街を一望出来る高台で、昔よく二人で話したベンチで、話すこともなかったかもしれないのだから。


——。


「どういうことだよ、夏奈は、夏奈は大丈夫なのか!?」


「えぇ、今のままでは。あるいは、これからも……」


男は笑顔を絶やさない


「説明……してくれないか?」


男は何かを探す『仕草』をする。わざとらしく指先で回していたカギを見て驚き、差し出してきた


「こちらを差し上げます。時が来れば、アナタにも権利が与えられるでしょう」


だんだんこいつの笑顔が嫌いになってきた。


「——?でわ、私はこれで」

「おい!待てよ!それだ——」

「エト。それが私の名前です、以後お見知りおきを」

「おい!」


そう言うと、エトは景色に開いた黒い穴の中に消えていった


「亜季?」

その声で我にかえる


「こんなところで会うなんてね、また意味の解らないガタガタ煩い音楽でも探しに来たの?」

「なぁ、夏奈」

「ん?」


「今、時間あるか?」


——。


「それで、どうしたの?何かあったの?」

「いや、最近あまり話してなかったから……さ、元気だったかなーとか思って」

「そんな気を使ってくれたことあったかしら?」

「うるさいなー。そんな日もあるんだよ」


そう言って笑う夏奈は、夕日と重なって凄く綺麗に見えた。

とても……とても……


——でも、見えるんだ。俺には。

夏奈の手が手首まで真っ赤に染まって


異常。そう言ったら全てこの状況が片づけられるのだろうか。街が一望出来る高台で、見た目は悪くない少女が、夕焼けを背景に微笑んでいる。

漫画なんかで狂気の笑いを浮かべる殺人犯の少女がいても、こんな幻想的な絵にはならないだろう。こんな状況が、視界に移る光景こそが


「俺にはよっぽど正常に見える」


「ん?何のことかしら」

「いや、何でもないんだ」


エトの話なんかしても、普通に考えれば信じてもらえないだろうな


「なぁ、最近変わったことはない?」

「幼馴染がいきなり元気か聞いてきた」

「え」

「私に普段は話しかけてすらこないくせに」

「は?」

「この状況が変わったこと以外のなんなのかしら」

「おい、まて」


「冗談よ」


そう言って彼女は髪をなびかせ立ち上がる


「特に用もないならそろそろ行くわ」

「なら、送るよ」


夏奈は不機嫌そうな顔でこっちを見た


「亜季?病院なら私の家とは逆方向よ?」

「はいはい、わかりました。お気をつけて」


ごめんなさい、この捻くれた悪魔を女性として扱った俺がバカでした


夕日をガラスが反射する。13階建てのマンションの8階。ここが俺の家である。

親が裕福とかではなく、叔父が扱っている物件の一つを安く貸してもらっているらしい。なんでも都会の一人暮らしは物騒だからとか。


「都心から電車で30分もかかればそんなに心配ないと思うけどな」


そう呟きながらドアを開ける。

「ただいま」


一人なのはわかっている。それでも「いってきます」「ただいま」「いただきます」「ごちそうさま」等は、幼い頃からの習慣が今でも続いている。

だが、今日は違った。


「おかえりなさいませ」


もう驚いてやらない。あ、でも実際は走って部屋から逃げたくはなった


「なんでいるんだよ」

「いやぁ、誰かが待っていてくれるというものは、中々いいものではございませんか?」

「あ、うん。わかった、もういいや」

「あれ?驚かないのですね?」

「どうせあの穴みたいなの使ったんだろ?」

「ゲートですね。左様でございます」

「浮いてるし、それぐらい簡単なんだろ?」

「おっしゃる通りで。あ、私一応人間の部類には入っておりますよ?」

「あ、そうね。でも警察呼んだりも意味ないんだろうね」

「まったくもってアナタは賢い方ですね」

「普通。でも——」


パシッ


「いとも簡単に捕まると流石にへこむな」

「いきなり殴りかかられても……ねぇ?」

「いや、物理で殴ればいけるかと」

「はて、何のことやら」


——。


「さて、お茶をいれましたのでどうぞ」

「ここ俺の家なんだけど、いただきます」

「あらあら礼儀正しい。さぞご両親はしっかりされた方なのでしょう」

「そこは同意」


さて、何処から尋ねようか……


「さて何処から尋ねようか」

「心を読むな」

「流石に私でもそこまでは」

「ですよねー。タイミング的にもそんな空気だったしね」


ここからは、エトがからかい、俺がかわし、カウンターをエトがあっさり受け入れるつまらない流れなのでまとめてみる。


世界には『表』と『裏』があるらしい。社会の闇なんて比喩ではなく、まったく同じ世界がもう一つあるというのだ。表でビルが建てば裏にもビルが建ち、表で店が移転すれば裏も移転する。だが、裏側では街として扱われているものは一つしかなく、オブジェのように世界は扱われている。

そのオブジェの世界の空中を漂っている空中都市が、悠久の歓楽街『HOTELアルカディア』の支配人を務めているのが、目の前の男エトである。

本当に存在するなら、こんな男が働く異様な街なんて呪文呟いて落としてやりたいとか思うぐらい、エトが面倒になってきた。


「で、そのアルカディアと穢れになんの関係が?」

「気になりますよね?勿論お話いたしますとも。あ、その前にお茶のおかわりはいかがですか?ケーキも御座います」

と、エトは鼻歌交じりに笑う

「その前に話終わらせろよ。まず晩御飯すら食べてないのにケーキとか……いただきます」


はい、まとめまーす

アルカディアは5つの階層と周りを囲む庭園で成り立っている。庭園には滝や湖、森や山まで……

「山?」

「えぇ、山でございます」

「それもはや島じゃ……」

「庭園です」


そして、1階層はカジノホールになっており、日々宿泊客は陶酔しているのだとか

「違法?」

「いえ、表の世界の法など通用しません。アルカディアではモラルとマナー、そしてルールにのみ縛られております」

「幻想的な割には単純だね」


2階層は宿泊施設。ラウンジやバー等もあるらしい

「あれですね、横浜のかの有名なホテルのVIPなど想像していただければ」

「行ったことも見たこともないよ」


3階層はレジャー施設。プールやバスケットコート等があるらしい

「あのお台場の……」

「黙れ」


4階層は支配人の執務室やオーナーと呼ばれる『監理者』の部屋があるという

「どんだけ広い部屋なんだよ」

「他の従業員の部屋もありますよ?ディーラーだったり、メイドだったり」

「メイド?メイドってあの……」

「あら、そのようなご趣味が」

「いや、違うから。本気で否定するから」


5階層はエトも行ったことがないらしい

「支配人でも?」

「えぇ、入り口が見当たらないのですよね。外観からは円錐形のステンドグラスで出来た空間だと……」

「テラス……とかだろうか」

「さぁ、どうでしょうか」


「で、どんな関係が?」

「そろそろ本題に入りますか。その前にお茶のおかわりと、リラックス出来るアロマが」

「お茶だけでいいよ、お気遣いなく」


俺の家なのに……


「さて、カジノホールでは『sin』というゲームが行われております」

「バカラとかBJ、ポーカーみたいなゲーム?」

「いえ、総称して『sin』でございます。ゲーム内容はクロスポーカーや7days、カーラードシャッフルといったアルカディア発祥のゲームも御座います。」

「へぇ、面白そうではある」

「チップは一枚でかの御人がお一人分と同価値で御座います」

「表現がいやらしいな」

「勿論稼いだ金額は表に持ち込むことが出来ます。但し、スタートは100枚、追加投資は出来ません……が、アルカディア銀行から労働を担保に借り受けることは可能でございます」

「一回きりの投資……ねぇ。で、労働を担保っていうのは?」

「飲食店で食事をしたが、持ち合わせがなく皿洗い……のようなものですかね」

「なるほど、額からして時間がすごくかかりそうだが」

「えぇ、おすすめはしません」


そう言うと満面の笑みを見せつけてきた


「それでですね、『sin』を行うに当たって恩恵が一つ与えられます」

「恩恵?」

「はい、一人一人に『オーダーカード』と呼ばれる天啓の力が与えられます」

「念力だったり」

「そういうものもあるかもしれません」

「しれない?」

「ライブラリという記録管理システムに登録されるのですが、ゲームの参加資格をお持ちの方しか閲覧できませんので」

「エトは?」

「私は支配人ですので、閲覧はできません」

「なるほどね……それで?」

「能力を駆使すれば、代償として手が血で染まっていきます。それが『穢れ』です。だんだん浸食していき、胸まで到達すると……」

「すると?」


——カタンっ


エトがトランクケースを開いてトランプを取り出した


「そうですね……ここまで説明を無償でさせていただきましたので、ここから先は……」




「ゲームをしましょう」

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