第7話 最低最悪のエンディング
お読み頂きましてありがとうございます。
ようやく、妖精国と始まりの街の境に近づいてきた。
しかし、そこでアイドルの彼女が、これ以上行けないと言い出してきたのだ。あともう少しで始まりの街だというのに・・・。
何度説得しようとしても彼女は、首を振るばかりなのだ。
そうこうしているうちに、ゼロ書きのモザイクが後方200メートルほどのところをゆっくりと進んでくる。
なぜだ・・・。どうしてなのだ・・・。
その答えは、意外な方向から回答があった。
「あら、まだこんなところに居たのね。プレイヤーの貴方は、この闇に取り込まれるとアカウント削除されるわよ。そんな子は、私に渡して逃げなさい。」
雪絵さんは、ゼロ書きのモザイク側から現れたのだ。どうやら、運営プレイヤーはこのツールの対象外に設定されているのだろう。俺が不思議そうな顔をしていたのか、説明をしてくれる。
「ご想像通り、別のレイヤーに私は、存在しているのよ。だから、この闇には干渉されないというわけ。わかった?」
どうやら雪絵さんは、ここに存在しているように見えるだけで、ゼロ書きのモザイクとは別次元(別メモリー)に存在しているらしい。
こうして喋っている間にも、ゼロ書きのモザイクは、目の前に迫ってきている。もう、アイドルの彼女の直ぐ後ろだ。俺は、精一杯彼女を引っ張っているのだが、なぜかその軽い身体を引き寄せられないのだ。
「もうやめなさい。ほら、こっちにおいで!」
雪絵さんが俺の後ろに回り込み、凄い力で引っ張ってくる。
ドン・・・。
「ゴメンね。そして、ありがとう勇者様。」
どこにそんな力があったのか、それとも雪絵さんと偶々引っ張る力と押す力のタイミングが合ったのか。雪絵さん共々、後方の始まりの街に吹っ飛ばされた。
そして、目の前で彼女がゼロ書きのモザイクに飲み込まれてしまったのだ。
「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁ。」
さらに手を伸ばそうとする俺を雪絵さんがさらに後方にひっぱり続ける。もう殆ど力が入らない状態だったため、雪絵さんに引き摺られるように後方に下がった。
そして、ゼロ書きのモザイクもその役目を終えたようで、目の前に闇を残して消えてしまった。
「なに泣いているのよ。ほら、彼女はアップデート後の街で新しく生まれ変わったわよ。」
「ど・う・し・て・な・ん・だ・よ!」
俺は、雪絵さんに向かって問いただす。
「忘れたの彼女のこと・・・。アレは・・・あの子は、イベントキャラなのよ。わかってるの?」
「それがどうしたって・・・・・・・・・ぅ・・・・・ぁ・・・・・・。・・・・。・・・。・・・そうか・・・。」
「わかったようね。そう彼女は、イベントキャラ。ということは、妖精国を出られないのよ。」
そうなのだ。NPCには、2通りあって実装されている国を跨いで移動できるNPCとその国特有のイベントに配置されていて、他国には行けないNPCがいるのだ。
彼女は、他国に行けないNPCの1人なのだ。それも、このゲームで始めて配置されたイベントキャラという立場でもあり、その存在は、超有名・・・。実際にこのイベント終了後、他国へ連れ出そうとしたプレイヤーが居たらしいのだが、先ほどの彼女のように、拒否されたあげく、ありえない力で振りほどかれてしまうのだ。
その動画が公式サイトに、掲載されているくらい有名なのだ。
思わず思考が止まり、恥ずかしさに身が悶えてしまった。
「な・・なにをしているんだよ。」
ようやく、思考が再開したのだが、雪絵さんがすっぽりと俺の身体を包み込むように抱きしめてきたのだ。
「もちろん、罰よ。」
「えっ。」
「罰として貴方の身体を堪能させてもらうわ。」
罰と言われれば仕方が無い。どう思い出しても、やらかした感しか思い浮かばないのだが、一応確認してみる。
「何の罰だ?」
「そうねぇ。ここでは、なんだから宿屋に向かいましょう。」
宿屋か・・・なんか余計怖いことになりそうだったが、完全に捕まった状態でアカウント削除くらいはされる自覚があるので素直に雪絵さんについていく。
・・・・・・・
始まりの街に到着すると、雪絵さんは、一番大きな宿に向かい、宿の女将にこう言った。
「特別室を使うわよ。」
特別室?そんな部屋は聞いたことが無い。ここで一番高い部屋でも、5人が雑魚寝するような部屋だったはずだ。運営専用スペースでもあるのだろうか。これも、雪絵さんがすぐに回答をくれる。
「チーフSEである私専用スペースなのよ。気にしないで入ってきて。」
気にしないでと雪絵さんは言ったが、気になるものが目の前の壁に張り出されていた。NPCキャラのSSだ。それも少年体型ばかり沢山。しかも、1枚だけどこで取ったのか俺のSSまで張り出されていた。
「ああ、貴方以外は、私がキャラメイクを担当した子供達ばかりよ。この部屋の設計も私がしたのよ。使うのは私1人だけどね。」
そういって、雪絵さんは微笑む。いつも通りの優しい笑顔だ。
この部屋には、天蓋のベッドにシャワールーム、シャワールームとは別に大きめのお風呂、家具は若干少女趣味だったが流石に自分で設計したのだから、全てが雪絵さんにとって使いやすいものになっているようだ。
あとは、エピローグという名の雪絵さんからの種あかしです。