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サバゲーテイル・トラジック  作者: 一条由吏
ソロプレイ編
6/13

第5話 黄昏の強奪者ギルド

お読み頂きましてありがとうございます。

 とにかくアイドルの彼女を連れその場から、逃走した。雪絵さんはその言葉通り、追ってこないようだ。下半身がブリーフだけというのは、あまりにも恥ずかしい。アイテムボックスから、着替えのズボンを取り出して穿いた。


 だが、雪絵さんが敵側なのは痛い。彼女の言い様からして、アカウント削除は無いようだが、フレンド登録からおよその位置を探ることができる。


 しかし、最後の彼女のセリフを信じてフレンド登録は、削除しないでおく。どうせ、俺のアカウントを知っている彼女なのだから、運営用スキルを使えば追跡などわけもないだろう。俺は、彼女の好意に縋るしかないようだ。


 実際に運営用スキルを使ったルール違反行為をしたプレイヤーに対する追跡・処罰方法も公式サイトで公開されていたりするのだ。トッププレイヤーであろうとも、複数の運営プレイヤーを振り切ることなどできないだろう。運営者側の責任者までまだ、情報が伝わらないうちに、妖精国を出るべきだろう。


・・・・・・・


 沢山の運営プレイヤーが活動している王都では、あいかわらず狂気に満ちた光景が繰り広げられていたが、たまに真面目に作業を行っているだけの運営プレイヤーも居るようだ。


 物陰から隠蔽スキルを使いながら、歩いていく途中で観察しただけなのだが、黙々と真面目な顔で男性NPCも女性NPCもお尻のあたりを触ったとたん光の粒子になって消えていく。


 どんな理由でそういうことをしているのか。アップデート後に雪絵さんに聞きだすことを心に誓い。他の運営プレイヤーの行っていることは、見て見ぬ振りをして、さらに先に進む。とてもじゃないが、他のNPCを救ける余裕なんてないのだ。


 ようやく、王都から抜け出した。暫く街道を使って走っていく。後ろを振り向き、モザイクのある位置を確認した。王都での雪絵さんとの戦闘で時間が喰われたのが響いているのか、やはり若干その差を詰められているようだ。


 気配察知スキルによるとこれ以降、始まりの街まで運営プレイヤーは少ないようだ。ただあのゼロ書きツールのモザイクが進むにしたがって、こちらにやってくることは、確かだろう。


「勇者様。」


「なんだ?」


「あのぅ・・・。」


 その時、アイドルのお腹が鳴り、アイドルの顔が真っ赤になった。そうか、逃亡から数時間が経ち、お腹が空いてきたのだな。最悪、アップデート中はログアウトできないことも想定して、NPC売りの冒険者用携帯食も用意はしてきてあるのだが・・・。それでは、アイドルの口に合わないだろう。


 俺は、料理スキルも持ち合わせており、料理道具もアイテムボックスに入っている。街道からはずれた川べりで料理をすることにした。


 といっても、簡単にチーズオムレツにパンという組み合わせだ。料理の材料は、イベントの最中に倒した妖精国特産のフェアリー赤鳥の卵とNPC売りのチーズにコショウを振りかけたシンプルなものだ。塩分は十分にチーズに含まれているため、省略した。パンは、NPC売りのものだ。


「おいしい。勇者はなんでもできるのね。私は、歌を歌うことしかできないのに。」


「この国から出られたら、俺のために歌っておくれ。」


「はい!」


 さきほどから、アイドルの名前呼びをしていないのには、訳がある。イベントでは、グレードラゴンを倒したあと、アイドルが俺のために歌を歌うシーンがあり、その後、俺に対して彼女の本当の名前を告げるというシーンがあるはずだったのだが、アップデート時刻に中断してしまったため、そういったイベントが進んでいないのである。


 しかも、プレイヤー毎にその名前もランダムに決るので、まだ彼女の本当の名前を知らないのだ。


 この国を出られさえすれば、イベントが進む可能性が出てきたので気持ちを切り替えて、慎重にかつ、早急に出られるようにするために全力を尽くすことを秘かに誓った。


・・・・・・・


 さあ、難関の場所にやってきた。ここには、関所がありトッププレイヤー以上の実力を持つNPCの門番が待ち構えている。近くに運営プレイヤーはいないようなので、すぐに通り過ぎる必要がある。


 この関所を通る方法以外にも、隣の山にあるゴブリンの巣穴を通れば、始まりの街に到達することができるのだが、戦闘のできないアイドルの彼女を連れていくなんて自殺行為のほかなにものでもない。


 まずは、1人で関所を通ろうとしたのだが、やはり『アップデート中につき、関所を通ることはできません。』と立て札が立てられていた。


 しばらく、どうやって通り抜けようかと近くの村で悩んでいると、意外な救援があった。


 トッププレイヤーばかりで構成されたギルド『黄昏の騎士団』のメンバー達だ。村人が「関所破りだー!」と叫んでいるので関所を物陰から見ているとこのメンバー達が十数名、あの強力な門番の居る関所を抜けてきたのだ。


 これは、チャンスだ。いったいどういう理由かは、わからないがアップデート中の妖精国でなにかを稼ぐ手段があるのだろう。それは、すぐに解かった。


 ギルドメンバー達が近くの村を襲い、村人を殺戮、金品の略奪を繰り広げたからだ。通常このようなことをすれば、すぐさま指名手配されてしまうのだが・・・。どうやら、アップデート中は、各NPCは動いているが、国としての機能を失っているのでは、ないだろうか。


 おそらくこのギルドのギルドマスターは、アップデート中の仕組みを知り尽くしているのだろう。この機に乗じて、略奪した物資でトッププレイヤーが多く居るギルドを維持しているのかもしれない。


 そのやり方には、怒りを覚えるがギルドマスターを経験したことが無い俺では、バグ技だと言い切られてしまえば、何も言い返せない。


 特に今の俺は、アップデート時のバグ技で多大な経験値とスキルポイントを得てしまっているのだ。同類と言われるだけなのかもしれない。


 アイドルの彼女が悲鳴を挙げそうになるのを無理矢理、口を手で塞ぐ。今この場で見つかってしまえば彼女が襲われることは、必定なのだ。


 とにかく、だれもいなくなった関所を隠蔽を使い潜り抜ける。あとはいくつかの村があり、その先に始まりの街に続く街道がある。ただ、ギルドメンバーの様子からすると、既にこの村々の村人は殺され、略奪済みでなにも無い可能性が大きい。それはそれで通り抜けるのに好都合と無理矢理納得させることにした。


 次の村には、案の定、略奪の痕跡が生々しく残っていた。村人達は全員殺されたのだろう。このときほど、光の粒子となって消えるシステムで本当に良かったと思うことは、無かった。これで、殺戮の痕跡が残っていたらと思うと心底、心が冷え切ってしまった。


 あのギルドメンバーとは、時折PTを組むメンバーも居り、わりと和気藹々とした間柄だったのだ。これから、どんな顔をしてあのメンバー達と相対すればいいのだろうか。割り切れればいいのだが、詰め寄ってしまう未来しか思い浮かばない。


これもバグ技の一種なのか・・・?

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