第2話 異常な光景
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「ヒャッホー!」
ある建物の影から見た光景に目を奪われた。
頭上に黒色のマークがあるNPCが、頭上に緑色のマークがあるプレーヤーに襲われていたのである。ある戦闘系NPCは、戦闘モードに遷移していないにも関わらず、複数のプレイヤーに滅多切りにされ息絶え絶えに。またある宿屋の女将のNPCは、着ている服を破られ文字通り襲われていた。
なんだ、この光景は!
本来このような行為は、このゲームのシステム上できないことになっているはずである。それが、できるということは、アップデート期間中の特殊なモードなのだろうか?
その時、俺はあるSSを思い浮かべていた。運営側の人間がプレイヤーに対して警告を出しているSSだ。そのSSにあった運営側の人間の頭上にあった緑色のマークと今、目の前で展開されている光景のプレイヤーの頭上に輝く緑色のマークが非常に似ている気がするのである。
プレイヤーの頭上に輝く緑色のマークは、明るい緑色だ。。運営側の人間の頭上にあった緑色のマークは暗い緑色でその差は歴然としている。その暗い緑色のマークが頭上にあるということは、目の前のプレイヤーは運営側の人間なのだろう。
見ているうちに嫌がる戦闘系NPCに運営プレイヤーがしばらくしがみついていると光の粒子になって消えていく。また宿屋の女将のNPCにしがみついている運営プレイヤーは、散々NPCの上身体を堪能した後、おもむろにNPCの下半身に手を伸ばした。
まるでネット上に転がっているエロビデオ動画のような光景が目の前で展開されていた。おそらく十分に堪能したか行為自体に飽きたのか。しばらくするとこのNPCも光の粒子になって消えていった。
おそらく、この行為がアップデート作業と密接な関係がある行為なのだろうが、あまりにも残虐で淫靡な光景だった。
・・・・・・・
とにかく、アップデート外のエリアに行くことを最優先にすべきである。アップデート中はSSもできないため、証拠として目の前の光景を撮影することもできない。目の前の光景に、大変疑問を感じるところがあるが、折角得た経験値を無駄にしないためにも、俺は、運営プレイヤーに気付かれないようにその場から離れた。
それから、慎重にアップデート外のエリアである、始まりの街に向かって歩いている。妖精国の街中では、何回か先ほどのような光景を見かけたため、運営プレイヤーに出くわさないために森の中を突っ切っている。
森の中を暫く歩いていくと、前方からまた女性が襲われているような悲鳴が鳴り響いてくる。隠蔽のスキルを使いながら、慎重に進んでいくと、例のイベントに登場した妖精国のアイドルが運営プレイヤーに襲われていた。
その恐怖に震えた顔を見ている内に、俺の中に沸々と怒りが沸いてくるがわかった。俺は、心の中で自答してみる。隠れたまま逃げるか、妖精国のアイドルを救けにいくか?
その妖精国のアイドルは、俺がこのゲームを始めた切っ掛けでもあり、大変好きなキャラクタの1つだ。このキャラクタに触れ合うために、ゲームを続けていると言っても過言ではないのである。
本来なら目の前の光景を見なかったものとして、逃げ続ける必要があるのだろうが、俺は自分の中からこみ上げる衝動に逆らえなかった。
どうやら運営プレイヤーは、戦闘系NPCを倒す力はあるようだが、特殊なスキルがある訳ではないようだ。念のため先の戦闘で得たスキルポイントで隠蔽のレベルをMAXにしてこうやって隠蔽を使い間近まで近づいていったが、一切気付いていない。
狂気に満ちた顔で、俺のアイドルを襲い続けている。
俺は、取得可能になっていた格闘技スキルの内、空手を有効にして、レベルをMAXにした上で、その運営プレイヤーの隙だらけの首筋に、手刀を振り下ろした。プレイヤーならばもし死んだとしても、デスペナルティを受けるだけで済むはずで、死ななくても気絶してくれればと思い、振り下ろしたのだ。
クリティカルヒットには、ならなかったせいか運営プレイヤーは死ななかったが、このスキルで得られる気絶という状態異常にさせることは、できたようだ。
「さあ、行こう!」
目の前のアイドルに対して言ってみる。もし、直前のイベントのデータが残っていれば、俺を即座に味方として認識してくれるはずだ。
「うん、ありがとう!私の勇者さま。」
運は、俺の味方だったようだ。俺は、運営プレイヤーを簀巻きにした上で近くの洞穴に放り込み。怪力スキルを取得、MAXレベルにした上で、洞穴を大きな岩で塞いだ。これで、しばらくは持つだろう。
そのままアイドルを連れて歩く、これからが大変だ。アイドルは隠蔽スキルを持たないため、既に取得済みだった気配察知スキルをMAXにした上で、周囲にできるだけ運営プレイヤーやNPCやモンスターがいないところを通ることにした。
NPCに近づかないのは、おそらく運営プレイヤーが近づいて攻撃するだろうし、モンスターに近づかないのは、戦闘中に運営プレイヤーが現れたら対処できないためだ。
流石にアイドルのことだけあって、山道は歩きなれていないのだろう。彼女は直ぐに根をあげてしまった。俺は、仕方なく彼女を抱き上げる。怪力スキルを取っておいたのが正解だったようだ。まるで抱き枕でも持ち上げているような、軽さだった。
「ごめんなさい。重たいでしょう?」
「いや、軽いよ!でも、大丈夫かい?しっかり捕まっててくれよ!」
持ち上げて揺れるのが怖いのかアイドルが俺の身体にしがみつく。よし、これで俺の隠蔽の影に隠れるに違いない。しかも、アイドルの身体が俺に密着して・・・役得だ。おもわず、にやけそうになる顔を引き締めた。
さあ、主人公は逃げ切ることができるのか?そして、妖精国のアイドルの運命はいかに?