北方宗一の銃器語り #21 拳銃沼へようこそ その5 警察向け拳銃の世界 アメリカ編
S&Wとコルト
警察向け拳銃の多くはアメリカですら1990年代最初期までリボルバーでした。
そのような中勢力を二分していたのはアメリカの二大銃器メーカー、スミス&ウェッソンとコルトでした。
双方ともフレームを規格化し、バリエーションを作っていくという手法で開発を進めていきました。
それぞれのリボルバーを比較していきましょう。
ライフリングとシリンダー
S&W:右回りライフリングに反時計回りシリンダー
コルト:左回りライフリングに時計回りシリンダー
シリンダーの開放方法
S&W:豆のような形のサムピースを前の方向に押す
コルト:ラッパのような形のラッチを後ろの方向に引く
シリンダーを支えるアームの名前
S&W:ヨーク
コルト:クレーン
分解法
S&W:フレーム右側のネジを外す
コルト:フレーム左側のネジを外す
製品名
S&W:Mから始まる型番
コルト:職種や蛇の名前
製品の得意分野
S&W:トリガーのメカニズム 大威力の弾丸への対応
コルト:バレルの精度 美しい仕上げ
S&Wとコルトはこのようにそりが合わないとされていますが、コルト パイソンのパレルにS&Wのメカニズムを無理やり掛け合わせたスマイソンというモデルが存在します。
S&W M10
Kフレーム(中型小)を採用したモデル。通称ミリタリー&ポリス
1899年に開発され、アメリカ陸海軍に採用されて以来、FBIで長らく制式化されるなど世界中の軍、警察組織が愛用してきました。
日本も例外ではなく戦後の警察再編の際制服警官向けに配備され、一部はまだ現役だとされています。
S&W M15
Kフレームを採用したモデル。愛称はコンバットマスターピース
M10にアジャスタブル・リアサイトを装備したモデルでFBIの制式拳銃でした。
.357マグナムは使用できませんが全米の警察官が愛用しました。
S&W M19
Kフレームを採用したモデル。コンバットマグナムとも呼ばれます。
コンバットマグナムは生産当初の製品名でしたが、M19という型番が降られて以降は愛称になりました。
当時の著名なシューターであるウィリアム・“ビル”・ジョーダンの意見であるM27より軽量で威力は据え置きを取り込んで実践したモデル。
全米の警察官が愛用しましたが、何回も使ううちに強度の問題でガタが出るとされます。
海上保安庁のSSTの前身の一つである関西国際空港海上警備隊が.38スペシャルモデルを採用していました。
ルパン三世の次元大介の愛銃ですが、ファニングショットできるように改造されているようです。
S&W M27
Nフレーム(大型)を採用したモデル。
ザ・.357マグナム、バリエーションのM28はハイウェイパトロールマンと呼ばれます。
その名前の通り.357マグナムを世界で初めて採用し、弾薬と同時に発売されたたモデルです。
.44マグナムにも使用できるフレームに.357マグナムを使用するため十分な強度を有し、M19のような破損事故を起こすことはありません。
表面処理を簡便なマット処理にしたM28はハイウェイパトロールマンという名の通りフロリダ・ハイウェイパトロールに採用されています。
太陽にほえろではボスをはじめとして7人が使用します。
S&W M686
Lフレーム(中型大)を新規開発して製造したモデル。炭素鋼製のM586が存在する。
ディスティングイッシュド・コンバットマグナムという愛称がありますが、そこまで浸透していません。
GIGNやノルウェー国家警察、アメリカの各州警察が採用しています。
あぶない刑事のタカが使用したリボルバーです。
S&W M36
Jフレーム(小型)を採用したモデル。通称チーフ(チーフス)・スペシャル。
小柄なため装弾数は5発。しかも.38口径がフレームの構造強度上の限界に近く、材料の性能が熱処理で向上したM60の最新モデルでも.357マグナムが限界です。
世界中にコピーモデルがあります。
現在刑事ドラマでよく見るリボルバーはM36系のモデルが主になっています。実はゴルゴ13のデューク東郷が携帯している拳銃はこれだったりします。
以下S&WのM36のバリエーション
・S&W M37
アルミ合金製フレームを採用して軽量化を図ったモデル。通称エアー・ウェイト。
日本警察がニューナンブの後継として採用しました。
・S&W M360
アルミニウム‐スカンジウム合金製フレームで軽量化を図ったモデル。
エア・ライト.357マグナムとも言い.357マグナムが使用できる強度を有していながら非常に軽量です。
日本警察がM37、ニューナンブの後継として改造モデルであるM360Jを採用しました。
・S&W M40
センティニアル、レモンスクィーザーとも呼ばれるモデル。
S&W創立100周年を記念して造られたモデルで、グリップセーフティ―を有したハンマーレスのDAOモデル。
しかしM49が出ると人気が移り1974年から20年近く生産が中止されましたがグリップセーフティ―を無くして生産再開されました。
・S&W M49
ボディーガードとも呼ばれるモデル。
M40同様ハンマーの露出を抑えましたが、ハンマーの指掛けが存在し、起こすことができます。
以上M36バリエーション
コルト ニューサービス
.45ロングコルト弾を使用する拳銃。
M1909として米軍に採用されたほか、カナダの騎馬警察に採用されました。
コルト ポリスポジティブ
警察向けの.38口径の小型モデル。
ミリタリー&ポリスのライバル製品。
これの改良品であるポリスポジティブ スペシャルがディテクティヴスペシャルの原形です。
日本警察が戦後の再編の際に導入した拳銃の一つでもあります。
コルト オフィシャルポリス
アーミースペシャルと呼ばれるモデルを基にトリガーとシリンダーラッチにチェッカリングを加えリアサイトの溝を拡張、表面処理もひと手間加えました。
イギリスやアメリカの軍隊に採用され、アメリカでもディテクティヴスペシャルとともに高いシェアを手に入れました。
バリエーションのコマンドーは日本警察が戦後の再編の際に導入した拳銃の一つです。
コルト ディテクティヴスペシャル
ポリスポジティブ後継の小型拳銃。
M36と張り合う小型モデルながら弾数は6発とリボルバーとして標準的な装弾数。
短銃身リボルバーの通称スナブノーズ(獅子鼻)という単語を初めて使ったのはこの銃とされています。
日本警察が戦後の再編の際に導入した拳銃の一つで、長らく刑事向けとして愛用されていました。
また陸上自衛隊の警務隊が設立当初使用していました
現存するものは麻薬取締官が使用しているとされます。
コルト トルーパー
コルト初の.357マグナムのリボルバー。
トルーパーは州警察官の意味。
セフティコネクターと呼ばれる安全装置を積んでおり、トリガーが引かれない限り撃針とハンマーの間に板を噛ませて撃発を防ぐ機構が組み込まれている。
コルト ローマン
ディテクティヴスペシャルの後継モデル。
トルーパーと同様のセフティコネクターを積んでいるモデルです。
1980年代の刑事ドラマに多数登場しますが日本国内で採用した組織は存在しないはずであり、完全な間違い。
特に西部警察ではかなりの割合で使用されている。
コルト パイソン
コルトで一番有名な拳銃。.357マグナム拳銃としてはS&Wのコンバットマグナムと肩を並べる。
しかし、リボルバーのロールスロイスと呼ばれるほど非常に高級でカリフォルニア・ハイウェイ・パトロールなどの極々一部の警察以外採用していません。
シティーハンターの冴羽 遼やもっとあぶない刑事のユージ、仮面ライダークウガの一条刑事が使用しました。
コルト オールアメリカン2000
グロックなどが警察に普及し始めた1990年代に入って開発されたパラべラム弾使用の自動拳銃。
警察向け市場を狙って開発が進みました。
ポリマーフレームかアルミニウム合金フレームかを選択できるハンマーレスの変則ダブルアクションオンリー拳銃としてデビューしました。
閉鎖機構がロータリーバレルで製造工程が複雑になり、コルトの品質が最もひどい時期の製品であるのもあって市場での受けも悪く2万丁製造されただけでした。
M1917
コルトとS&Wがそれぞれ生産した.45ACPを使用するリボルバー。
当初は第一次世界大戦でM1911が足らなかったために同じ弾薬を使うリボルバーで穴埋めするという奇策に打って出た為に生産されました。
コルトとS&Wで同じ型番で同じ弾薬を同じ弾数使用するが設計はまったく別々で、冒頭の比較の通りになっています。
日本警察再編時にアメリカ軍から払下げられ配備された拳銃の一つでニューナンブ以前は制服警官の標準装備でした。
スタームルガー セキュリティシックス
スタームルガー初の本格的ダブルアクション拳銃。
警察向けに安価で高性能で頑丈なモデルを指向し、ロストワックス製法を駆使し、トリガー周りをモジュラー化してサイドプレートを廃して特殊な工具なしに分解整備可能になっています。
国境警備隊、移民局、郵便公社が制式化し、一部警察も採用。フランスではマニューリン社がMR88として生産しており、フランス警察向けに販売していました。
チャーターアームズ リボルバーシリーズ
ブルドッグ、アンダーカバー、オフデューティーの三種。すべてM36やディテクティブスペシャルと同クラスの銃で、アルミ製ながら.38スペシャルの強壮弾に対応し、ブルドックに至っては.357マグナムや.44スペシャルに対応。照準器はしっかりしていてしかも非常に安いため銃器の出費を抑えたい層の護身用や警察官がバックアップに購入することも多かったそうです。
しかし、安いのは犯罪者にも使用されやすいということでもあり、多くが犯罪にも使われ、アンダーカバーはかのジョン・レノン暗殺に使用されたといいます。
アメリカの警察はベレッタ92Fの軍採用のころから軍用モデルのM9が安く手に入るようになり犯罪に多用され始めます。
弾数が少なく弾切れを察知しにくいリボルバーで対抗できなくなり殉職者が激増したのもあって全米の警察がM9を緊急納入し、現在は制服警官も軍用自動拳銃が基本となりつつあります。これは日本やシンガポールなどを除いたほぼすべての国の警察の潮流でもあり、リボルバーの需要は今や民間向けがほとんどとなっています。特に小型リボルバーは性能面で中途半端になりやすいのもあってか販売は低調だと言われています。M36系の販売が低調であるというのは有名で、日本警察が制式化したと話すと興味を持ってくれるんだとか。