北方宗一の銃器語り #13 拳銃沼へようこそ その2 旧西側系現代ミリタリーオート ドイツ語圏編
今回はドイツ近隣ののドイツ・ベルギー・オーストリアの拳銃です。
スイスもドイツ語圏ですが同時にフランス語圏で永世中立国なので次にします。
また、ベルギーはオランダ語系のフラマン語ですが、西ゲルマン語派なので含むこととします。(正直言ってうっかりミスしたとは認めたくないだけだったり)
10/26 追記
USP
H&K社謹製の売れっ子拳銃。
それまで独自設計で突っ走ってきたのに冷戦の終決とともに急におとなしくなったともいえるタイミングの銃です。
1993年に発表されたUSPは、H&Kが初めてブローニング式ショートリコイルと露出ハンマーを実装した古き良きスタイルの拳銃です。しかし独創性がないわけではなく、拳銃として初めて独自規格ながらもレイルを搭載し、光学機器の搭載によって拡張性を高めるという新しい発想が生まれました。H&K史上初めて拳銃に一大ムーブメントを巻き起こしたのです。
本来なら先駆者として名をはせるはずだったVP70のポリマーフレームをグロックに拝借されお株を奪われたことや、.45ACPや.40S&Wといったアメリカの強力な弾薬の使える拳銃を作って民間市場で儲けようとしたこともあってかポリマーフレームなのに古いスタイルのこの銃は非常に気合が入っており、一躍人気となり、ドイツ軍や世界中の特殊部隊がこぞって買い求めました。
セーフティーやデコックを一手に引き受けるコントロールレバーは10種類存在し、自分好みの状態を購入時に選択できます。
このコントロールレバーの位置がM1911のセーフティーと同じであり、また、通常モデルはレバーを上げるとセーフティーがロックされるため、アメリカでの受けが非常にいいのが特徴です。
コンパクトモデルも存在します。
24 -TWENTY FOUR-のジャック・バウアーはコンパクトモデルを愛用しています。また、エヴァンゲリオンの葛城ミサトも持っています。
H&K P2000
USPシリーズが大柄だという女性警官からの指摘から生まれた拳銃です。
USPコンパクトのグリップを若干小型化しバックストラップ交換を実装。コントロールレバーをオミットし、デコッキングラッチをスライド後端に搭載しています。トリガーの引きしろを長いままにトリガーの力を小さくしたCDM=LEM機構を搭載しています。
日本の警察にも少数配備されている模様で、SPが使用します。
藁の盾の主人公二人組の装備です。
H&K HK30
P2000のグリップが男性には細すぎると指摘があり再度設計されたモデルです。
今度は側面のグリップパネルの交換が可能となりました。また、グリップ形状も変更となり、スパイダーマングリップと呼ばれる独特な模様のフィンガーチャンネル付きのモノになりました。
このスパイダーマングリップは有機的な模様であり、手の幅を考慮しないフィンガーチャンネルを前提としているために好みが分かれやすく、P2000が未だに販売されている原因となっています。
なおこの銃からH&Kはピカティニーレイルを搭載し始めました。
H&K HK45
HK30のデザインを基にUSPのメカニズムを搭載した.45ACP使用拳銃です。
スパイダーマングリップでバックストラップは交換出来ますがグリップパネル交換には対応していません。
装弾数がUSP45より少なくなりましたが、グリップが細くなり格段に握りやすくなりました。
コンパクトモデルも存在します。
装弾数減少やスパイダーマングリップのこともあってUSPやMk.23とは差別化できています。
H&K P9S
世界で初めて一体成型のポリマーグリップを搭載した拳銃です。
ハンマー内蔵式ダブルアクションでローラーディレードメカニズムを搭載しています。
コンパクトで反動が軽い9ミリ拳銃ですが、セーフティーがただ撃針を固定するだけでトリガーとハンマーが連動したままになっています。
警視庁SATの前身であるSAPやアメリカ海軍特殊部隊SEALsが使用していました。
H&K P7
世界的に見ても特殊な拳銃の一つです。
グリップを握るとグリップ前方が握り込まれ、それによって撃針が後退して発砲可能になるグリップセーフティ―とトリガーメカニズムを合わせたような設計になっています。
またガス圧遅延式薬室閉鎖なので意外とコンパクトに仕上がっています。
グリップが握りにくいものの、命中精度がよく反動が軽いため一定数の愛好家がいます。
GSG9が使用していました。
H&K VP70
世界初のポリマーフレーム拳銃です。
構造を簡単にしようと様々な工夫が見られますが、最大の特徴は付属のホルスターストックと組み合わせることで使用できるようになる連射モードです。
しかし、そこまでうまみがないことや動作性の問題などでヒットしませんでした。
ワルサー PPQ
P99の経験から学び、大きく改良を重ねた拳銃です。
P99の発展型、P99Qのフレームに特許切れしたグロックのセイフアクションを組み込んだ拳銃です。
外観はP99と大きな差異はありませんが、曲面を多用したグリップデザインやバックストラップによるグリップサイズ調整の始祖ということもあってか、グロックの牙城の切り崩しにかかっています。
ワルサー P99
グロックの流行とP88の失敗から生み出した拳銃です。ポリマーフレーム拳銃で初めてバックストラップ変更という機能を盛り込み、手を合わせるか諦めるかだったポリマーフレーム拳銃の世界に革命をもたらしました。金型の節約もできます。
古くからのダブルアクション/シングルアクション選択型のメカニズムを持つASが基本モデルです。
ASモデルの特徴としてスライドを引いたときトリガーは後退せず撃針だけ交代するアンチストレス機構を搭載しています。これは不意の遭遇や物音で暴発させないための機構です。
QAと呼ばれるグロックに近いクイックアクションメカニズムを搭載したモデルもあります。これはデコックできるのでグロック以上に安全に携帯することができます。
またDAOモデルも存在し、さらに時期ごとにフレームデザインが大きく変わる(様々な部品の形状も大きく変化する)ためかなりのバリエーションが存在します。
さらにS&Wがライセンス生産したSW99やマグナムリサーチ向けのMR9が存在します。
007やルパン3世や峰理子の愛銃として登場します。
ワルサー P38/P1
ワルサーが戦前に設計生産した軍用拳銃です。
P1はP38の戦後生産モデルで1956年からフレームをアルミ合金に変更して軽量化を施されました。
デザインはM92Fに影響を与えただけあってマグキャッチ以外は非常に似通っており、マグキャッチの位置、装弾数の少なさと一部安全装置の不完全さを除けば現代でも通用する銃です。
排莢方向が普通の銃とは違い左側であることに注意しないといけません。
ルパン三世の愛銃として日本では特に人気と知名度が高いモデルです。
ワルサー P5
P38を基に大幅なリデザインを行ったモデル。
スライドストップと一体化したデコッキングレバーや短縮された全長、セーフティ省略など大きく装いを変えています。
警察向けの小型9ミリ拳銃を目指したためか、オランダや台湾の警察に導入されたほか、イギリス軍にもコンパクトモデルが少数納入されました。
ワルサー P88
P5と操作を共通化した拳銃です。
P5の後継機として設計されたものの、オーソドックスなブローニング式ショートリコイルを搭載し、ダブルカラム化を行いました。
アメリカのM9選抜試験に立候補したものの落選し、民間市場でもM92Fの二倍のコストということもあって大失敗を重ねました。
FN FNP
FN社が生産するハイパワー以来の本格的な軍用拳銃。
9ミリパラべラムから.45ACPまでの間に存在するメジャー弾薬4種を網羅しており、欧米の警察に対して売り込んでいます。
構造はオーソドックスで特筆することのないブローニング式ショートリコイルにコンベンショナルダブルアクション、アメリカ式マグキャッチなどでまとめています。
元はといえばグロックの影響を受けたフォーティー・ナインというモデルが存在し、それを基に改良を重ねていったとされています。
FNXやFNSなど、ファミリーモデルが大量に出現しており、H&KのUSP以降のシリーズ展開のようになるかもしれません。
FN Five-seveN
FNがハイパワー以来出してこなかった完全自社開発拳銃の沈黙を破ったモデル。
P90向けの5.7ミリ弾を拳銃弾として申請するため、またサイドアームとの共通性を持たせるために開発が進んだ拳銃です。
当初は貫通力の高い弾薬の特性上、軍や法執行機関のみの流通だったものの低性能弾が生産されるようになってからは民間向けモデルが流通しています。
初期はDAOだったものの現在はシングルアクションのみとなっており、構造もストライカー式の物からハンマー式の物まで存在します。
マガジンがライフル用の物と同じ構造のダブルフィード式で、また銃全体がポリマーでおおわれています。
ソードアート・オンラインのファントム・バレット編でのキリトの拳銃です。
FN ブローニング・ハイパワー
ブローニングの手によって設計され、死後完成された史上初のグリップ内蔵ダブルカラム・シングルフィードマガジン搭載拳銃です。
当時の拳銃では破格の13発という弾数を誇り、メカニズムもM1911シリーズより洗練されました。
しかし、マガジンセーフティを搭載する仕様がマガジンの交換に影響を与え、またマガジンなしで撃てないのが状況によっては危険だということもあって一部では取り除かれたりもしました。
ヨーロッパで9ミリパラべラム弾が標準になった原因の一つでもあります。
知名度の割にあまり映画などではぱっとしない銃ですが、ビバリーヒルズコップのアクセル、攻殻機動隊のバトー、ヨルムンガンドのヨナ、戦闘メカ ザブングルのジロン・アモス等の愛銃として登場しました。
グロック17
オーストリアの樹脂製品メーカー、グロックが設計したポリマーフレームピストルです。
当時VP70以外で積極的に使われなかったポリマーを使い銃の軽量化を実現しました。
非常に四角く、ハンマーもマニュアルセーフティもないそのデザインは当時は不評でしたが、現在では機能的で無駄がないと評されます。
フレームの樹脂は軟質でマガジンを抜いたグリップの対角線をつまんで潰すとぐにゃりと変形するほどです。これは樹脂の柔らかさで反動を吸収しようという試みでした。
また、セイフアクションという特殊な機構を使用しており、ダブルアクションとシングルアクションの間のような引き心地を実現しました。しかしニューヨーク市警察に納入された後ではダブルアクションリボルバーに慣れた手とその軽い引き金が原因で多数の暴発事故を引き起こしてしまい、トリガーを重くしたこともあります。
また、グリップの角度がそれ以外の多くの銃より寝ているため、他の銃を使ってきた人では構えを矯正しなければなりません。また、高威力弾の反動の吸収には不利な面があります。
雪国であるノルウェー軍での採用が著名であり、採用理由の「ポリマーフレーム故に兵士が凍傷になりにくい」という逸話もそこそこ有名です。
機関拳銃モデルの18、コンパクトモデルの19、サブコンパクトモデルの26などかなりのバリエーションがあり、正確に覚えている人は少ないとされます。
ダイハード2では敵の拳銃として出てきましたが、「金属探知機に反応しない」という誤解を与えたりもしました。
シュタイアー M
グロックの影響の強いポリマーフレーム拳銃。
グロックよりさらに寝かせたグリップが特徴です。
これはより高いハイグリップが可能となり反動を軽減できます。
シュタイアー GB
グロック17とオーストリア軍の制式拳銃を争った拳銃。
グロックとはあらゆる意味で対極にあり、デザインは少々大柄で有機的な曲面を多用し、メタルフレームを採用。マニュアルセーフティを採用し、機構はハンマー式コンベンショナルダブルアクション。
ガス圧閉鎖式ブローバックで、高い精度と量産性を両立できるとされていました。
1988年に生産中止になります。
この銃の原点はアメリカのロガック社のP‐18という拳銃で、こちらは少し撃っただけでガタがきて、試射したレポーターが地面に叩き付けるほどだったと言います。しかもパテント売却の際にトラブルがあったらしく非常に悲しい星の下に生まれたと言ってもいいかもしれない拳銃です。