北方宗一の銃器語り #12 拳銃沼へようこそ その1 旧西側系現代ミリタリーオート アメリカ編
ネタに行き詰りかけの今回は銃器語り第二シーズン!
銃器の中でも沼ともいえる拳銃の世界に入っていきましょう。
今回は拳銃の中でもアメリカに縁の深い軍用オートに絞り紹介します。
ベレッタ M92F/M92FS
今現在、アメリカ軍がM9として制式としている拳銃の最大派閥です。
一般将兵向けで、特殊部隊はこれ以外です。
独特のプロップアップ式閉鎖で大きくスライドが抉れたデザインは排莢不良率を下げますが、強度不足を招きました。
そのためM92FSでは後部フレームピンの端を大きくしてスライド破損時にスライドを食い止めるリミッターとなるようになっており、スライド自体の熱処理も十分気を付けて行われています。今のM9はこのM92FSです。
この銃の制式化にはイタリアに空軍基地を作ることに対する見返りであるという話があったりします。
なお、アメリカ軍の要請で搭載した安全装置の配置が古臭いと配備されてからずっと言われ続けており、また構造上フレームをポリマー化出来ないという話もあって今後の動向が注目されています。
ダイ・ハードのマクレーン警部が愛用し、ブラックラグーンのレヴィはこの銃のカスタムモデルを二挺拳銃にしています。
M9A1
先述のM9のフレーム周辺を中心に改装したものです。
20ミリピカティニーレール搭載にグリップ上部の抉れを大きくして深く握りやすくしました。
海兵隊の制式拳銃ですが、もともとM9に対する評価が厳しいという海兵隊ではどう評価されているかはそこまでわかりません。
コルト M1911/M1911A1
名工、ジョン・ブローニングの手によって設計された元アメリカ軍制式拳銃。
土着宗教のイニシエーションで興奮し狂戦士化したモロ族を.38口径で止めれなかったことから制式化が急がれた、.45口径信仰の発端となる銃の一つです。
シンプルなブローニング式ショートリコイルを実装した、信頼性の高い銃です。
安全装置がマニュアルとグリップと二つ存在し、シリーズ80系からはさらにAFPBという安全装置が追加されています。ここまでの数のセーフティーを積んだシングルアクション拳銃は多くはありません。
1927年、M1911に改良を加えたのがM1911A1です。
トリガーとグリップ周りのリデザインがメインで、大きな変更ではありませんが、格段にトリガーが扱いやすくなりました。
この銃は今でもアメリカ人にとって基準となる銃で、この銃とどれくらい似ているかがアメリカ市場での成否を決定づけるとも言います。
また、口うるさいガバメント専門マニアが世界中におり、その誰もが口をそろえてシリーズ70は至高、シリーズ80はクソとしています。
これはシリーズ80がAFPBの実装でトリガーの引き味がちょっとギクシャクするようになったためとされています。しかし、普通に自衛などで使う場合であればそう気にならないレベルだとか。
銃を主題とする作品には欠かせない銃で、この銃のクローンやコピーは何らかの形で出ることになります。
スティーブン・セガールが愛する銃であり、緋弾のアリアのヒロイン・アリアは二挺拳銃をしています。
MEUピストル
M1911A1の中でも状態のいいフレームを選抜して、その他の部品を交換した拳銃。
海兵隊のMEU部隊向けに提案されたモデルで、当初は近代化改修を伴う修理扱いで制式ではなかったものの、現在ではM45として制式となっています。現在はM45A1が存在する模様。
改造費用は一挺40万円以上とのこと。
コルト デルタエリート
M1911を基に10ミリオート弾を使用するように再設計した拳銃。
10ミリオート弾がマグナム並みの高圧弾だったためにM1911流用のスライドでは強度が不足し破損する事故が続発しました。
また10ミリオート弾はジャム率も非常に高く、威力は低く、サイズは大きく、反動は.45ACP並みというデメリットだらけの銃と弾薬となってしまいました。
近年、材質処理を改善して復刻した模様です。
コルト・ダブルイーグル
コルト社が長らくM1911シリーズに依存してきたことを反省して設計した銃。
M1911のシリーズ80を設計の基礎に用いています。
トリガーがダブルアクションになり、デコッキングレバーを実装するなど欧州の自動拳銃と遜色ないモデルを目指しましたが、フルステンレスで重く、メカニズムの一部をグリップパネルで固定するなど設計が未熟である為か軍用民用共にまるで売れませんでした。
この後ポリマーフレームのコルト2000を製造しましたがこれも鳴かず飛ばずでコルトはその後経営危機に陥り、今では特別な場合を除いてM1911シリーズとSAA以外製造していない模様です。
なお、ダブルアクションのM1911クローンはカナダのSTIエッヂの一部や、シーキャンプと呼ばれる特殊モデルが存在します。
H&K Mk.23
アメリカの特殊部隊向け拳銃として設計された高性能大型拳銃です。
デザートイーグル並みの図体にポリマーフレームなのに本体重量1キロ越えとなかなかに大柄です。
使用弾が.45ACPなのは減音器を使っても威力が落ちないためです。
専用のレーザー照準器をとりつけることもできます。
極寒にも灼熱にも、砂塵にも泥水にも、油切れにも動じないこの銃のタフさは異質ともいえます。
しかし、重すぎるためか特殊部隊での評価は散々だそうです。
ただ、非常に命中精度が高いのも事実だそう。
メタルギアソリッドのスネークやヨルムンガンドのレームが愛用しています。
S&W M&P
自動拳銃に弱かったS&Wが総力を挙げて作り上げたポリマーフレームオート。
それまでの失敗作からノウハウを吸収した集大成。
グロックの影響が強い拳銃の一つです。
その気合いの入りようはM&PというS&Wの伝統あるモデルの名前を受け継ぐ程です。
バックストラップを発展させたパームスウェルの交換によってグリップの前後幅だけでなく左右の幅を変えることができるほか、カラーリングの変化をメタルフレームのグリップパネルのように行うことができるようになっています。
現在、警察向けにそこそこ順調なセールスを記録しており、民間向けもそれなりに売れているようです。
アベンジャーズではニック・フューリーが使用していました。
S&W シグマ
M&Pの源流ともいえる拳銃。
S&Wがポリマーフレーム市場に参入するにあたって設計した拳銃ですが、先行したグロックがデッドコピー(パチもの)だとして裁判になりました。なお、部品の大部分にグロックとの互換性があるというから訴訟になるのも残念ながら当然です。
しかし、グロックの最重要機構であるセイフアクションはコピーされず、シングルアクションストライカーに重いダブルアクション風トリガーを搭載しているようです。
また、グリップの握り心地はグロックよりシグマが上という人が多いようです。
デッドコピー認定された在庫を廃棄し、あげた利益の何倍もの賠償をしました。その後リデザインして販売したものの、裁判などのおかげで売れ行きは低調でした。しかし大手メーカー製のグロックより握りやすく安いポリマーフレームオートということもあってかそこそこ堅実に売れていたようです。一応テネシー州警察の制式拳銃にもなっている模様です。
現在ではM&Pの機構やノウハウを反映させてリファインしたSDと呼ばれるモデルが登場し、それから少ししてオリジナルのシグマはカタログ落ちしたようです。
なお、たまった在庫には法人税がかかるため、S&Wは節税を目的としてアフガン侵攻後アメリカ主導で再編された新制アフガニスタン軍に寄付という形で在庫処分を慣行したようです。
S&W M39
アメリカ史上初めてのダブルアクションオートです。
オーソドックスなクセの少ないデザインは欧州系に通じる部分があります。
それもそのはず、ワルサーP38を設計時に参考にした部分があるようで、スライドのセーフティーもそれが原因だとか。
また、フレームにアルミ材を使用しており、軽量化にも成功しています。
10ミリオート弾や.45ACP弾モデルを使用するモデルも存在し、さらには自社開発の.40S&W弾のローンチモデルにもなりました。しかし、モデル数が肥大化しすぎてセールスが低迷しました。
また、レディスミスと呼ばれる女性向けモデルも存在します。軽量小型化し、またメンテナンスしやすく素材処理を変更したモデルです。女性向けと銘打たれていますが、もちろんコンパクトモデルを必要とする男性にも好評でした。
日本警察や海上保安庁も少数配備しており、一般カタログ落ちしているものの、法執行機関などのオーダーがあれば生産するという話もあります。
ドラマ・アンフェアの雪平夏見がレディスミスモデルを愛用しています。
スタームルガー P85
スタームルガー社がグロックの半額で売り出したフルメタルオートです。
ロストワックス製法で製造したために実現できたという低価格ではあるものの、性能は十分であり、シークレットサービスの制式拳銃だったりもします。
1991年に口径のP89にバトンタッチ。2000年代後半まで、生産されました。
スタームルガー P95
P85を基にポリマーフレーム化した拳銃です。
今度は5000挺をまとめて買えばM9の半額で納入できるという驚異の安さを実現した模様。
ただし米軍向け特別価格のようです。これで米軍制式拳銃という看板を掲げることができるようになったわけです。
これは機甲師団でM9が足らなくなったための応急措置としてまとまった数を格安で買える拳銃を探した結果だとされます。
スプリングフィールド XD
スプリングフィールド社がクロアチアのアラン社のHS2000拳銃をアメリカで販売するために付けた名前です。XDはエクストリームデューティー、究極の任務用拳銃という意味になります。笑っているわけじゃありません。
このHS2000はグロックの影響が強い拳銃の一つで、ポリマーフレームを採用していますが、グリップの角度やグリップセーフティ―の存在からM1911の面影もあるのかアメリカ市場では格安で高性能と人気です。
XDMという近代化モデルをスプリングフィールドが独自に設計、生産しさらに人気になっています。
意外と主人公が愛用するらしく、ブラック・ブレットの里見蓮太郎が記憶に新しいでしょう。