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ガンナ先生は嵐と共に

ここを……こうして……こう。


「そうそう、そこにこの泡を載せて、下のカフェオレの色を出してねえ……そうそう。うまいじゃないかい」


「わ、わあ」

ナギがプルプルと震える手で串とスプーンを握りしめて、カップを見つめて真っ赤になっている様子は、なんとも微笑ましく可愛らしいので、マグ婆はほくほくしているご様子。


白いマグカップに金色の縁取りが施してあるそのカップの口のほど近くには、実にナギらしいラテアートが出来上がっている。


真ん中に丸々したハートマークがあり、それを抱きしめるようにアリルらしき形と、ナギらしきかたちが抱き合っており、頭と思しきものの上あたりに、「ダイスキ 」と文字まで入っている。


ドジっ子かと思いきや、意外と器用なナギである。

いや、単に気合が違うのか、さてはて。



「ま、マグ婆、できた……できちゃった」


「おうおう、こりゃまた可愛いじゃないの。これでナギみたいな子に渡されて、それでも鈍感でいられるなら、もうアリルは男かどうかも怪しいもんだねえ」


「えへへ。そ、そうかな、かわいいかな。可愛くできたかなあ」


「うんうん、可愛いよお。自信をお持ち」


マグ婆は孫を見るばーばの目をしているので、もうラテアートが可愛いのかナギが可愛いのか分かりゃしませんが、まあ、ナギが可愛いでいいのか。この際。



「わ、わた、し、アリ、ルくん、起こしてくるねねねね」


ふんふんと鼻息荒くぎっくしゃっくしながらそうっとカップに蓋をするナギ。

一世一代の告白の前なので、それも仕方がないのか。ナギの毛並みに合う淡いエメラルドブルーのエプロンをガチガチと外そうとしているのを見ていると、なんだかマグ婆は自分までドキドキしてくるのでした。


「ナギや、そのままでお行きよ。男のハートにグサッとくるよ。手料理、だろ。これだって」



ぱち、と優しくウインクしてみると、改めて真っ赤になるナギ。

やだ。何この子。孫に欲しいね……




「う、ううう、うん。じゃ、じゃあ、行ってくるね」


トテトテとリビングの方へ駆けていくそのふわふわの尻尾も、心なしか弾んでいる。

恋をして、本当に女の子は綺麗になっていくんだねえ……


あたしゃあ、若い頃はやっぱりああ綺麗でいられたのかねえ……



と、マグ婆がしみじみと感慨にふけっていると、





バアン!! と、ドアを蹴り破らん勢いで開け放って、マグ婆の家に飛び込んできた怪しい人影が飛び込んできた。


そのあやしすぎる人影は、真っ赤に血走った目で真っ向からマグ婆を見据えて、低い声で唸った。



「……ババア」


「……あのねえ、ガンナ。あたしゃああんたに、人様の家の戸はまずノックをおしって何百回と教えた記憶があるんだけどねえ」


つかつかつか、と人の話も聞かずにマグ婆の目の前まで物凄い剣幕で歩み寄ってきたその不審者、改めガンナ先生は、振り乱した髪をばっさばっさ揺らしながらマグ婆に掴みかかると、すがるように詰問しはじめた。


「なあ、私のアリル君をどこぞの女狐がたらしこんでいるってタレコミがあったんだけど、それは嘘? 嘘だよね? 私のアリル君がそんなどこの馬の骨とも分からない女に尻尾振ってついてった挙句、ここに転がりこんだとかじゃないんだよね? あの可愛い尻尾とアリル君の貞操にもしも危害が及んでたりしたらわたしゃこの街を滅ぼすよ!!!?」



「……あんたやっぱり教育者やめた方がいいんじゃないかい……?」



マグ婆は狂気じみた教え子の、別にそこまで堕ちた恋をしなくてもいいだろうにと思わせるその異様さに、今更ながら戦慄する。


精神衛生上にも情操教育的にも、絶対によろしくないに違いない。


はー、はー、とせっかくの美人を残念に台無しにして吠えていたガンナ先生だったが、不意にキッチンに充満する甘い香りに気づいたのか、耳をピン、と立ててクンクンと空気の匂いを嗅いだ。



「甘いにおいがする」


「ん? ああ、ついさっきまでちょいとナギにラテアートをねえ。あの子もなかなかに筋がいいからねえ」


「ほほう」



ギラン、とガンナ先生の目がえぐるように骨格的に不自然な回転をマグ婆に見せつけながら、ビタリと可愛らしいマグカップに目を止めた。



「ほおっほー……」


「待ちな、ガンナ。あんた何をするつもりだい……?」


「何を? 決まってるじゃない」


ウフフっと 一瞬だけマグ婆の方を振り返ったガンナ先生は、それはそれは美しく、恋する邪神のごとき表情をしていたそうな。



「敵と邪魔と障害と癌は早めに叩き潰すに限るのよ♪」


「ッガンナ、おやめ!!?」


マグ婆がその異様さに気づくのと、ガンナ先生がマグカップの中身を思い切りぐういっとあおって飲み込むのが、ほぼ同時だった。



「ッッッ!!?? イヤアアアアアアア!!?」

ガッシャーーン!!



ああ……最悪だ。

マグ婆はもうそろそろこの家からも遠くに引っ越そうかと一瞬だけ真剣に悩んでしまった。



……なんで同時ついでにバカのアリル連れてきたナギが目撃しちゃうのかあもうッッ!!?



続く

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