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ラブリーラテアート大作戦

「くすんくすん」


さっきのアリルの発言で、未だに悲しそうにしゃくりあげるのは言わずもがなナギであった。


マグ婆は何度目かももう分からないけれど、なだめにかかっているところなのでした。


「ナギや、あんなバカのことはいい加減に諦めたらどうだい? あんたみたいな可愛らしい子が、あんなどうしようもないバカにご執心だなんて、宝の持ち腐れだとは思わないのかい?」


「だっ……だって、アリルくんがいいんだもん。アリルくんじゃなきゃ、ヤなんだもん……」


……タデ喰う虫も好き好きとはよく言うけれど、この子は好みが異質すぎやしないだろうか……


健気すぎるナギを心底心配しているマグ婆は、半ば諦めたように大きくため息をついて首をうなだれさせた。


「顔はいいのに、残念おつむで、その上しかも幼馴染なんて、わたし好きになる以外の選択肢ないと思うんだもん」




……ガンナか?

ガンナがなんか余計な知識植え込んだんじゃないだろうね?

我が教え子ながら、あんのバカも残念すぎる天才だからねえ……





「まーぐーばーあー!! ぼく、そろそろおやつが食べたいんだけど? 育ち盛りで食べ盛りなんだけどー?」


「以下同文であります。はんぐりーイェイイェイ」


ティースプーンとフォークをカチカチさせて、こっちの気も知らずにぶーぶー言い出すバカ二匹。

に、ぶちりとマグ婆のこめかみが嫌な音を立てる。



「うるっさいよおだまり!!」

マグ婆が腕を振り上げたと思ったら、ヒュンヒュン!! 、と濃紺の袖の広いマグ婆の服の袖先から、勢いよく何かが飛び出してアリルとアギのひたいにさくっと刺さった。



「ほえっ」

「うなっ」


一瞬びっくりしたようになんともアホな奇声をあげた二匹は、そのままの表情で何秒か固まったと思いきや、ガシャアンと机に突っ伏した。



「ふん」

「ア、アリル、くんっ!?」



すう……っと袖の中の深い闇から姿を表したマグ婆の手は、何やら禍々しいみどり色をした金属の銃のようなものが、人差し指に装着されていた。


「魔法道具、“シャラップドロップ”。若い頃に造った駄作だと思ってたけど、案外引っ張り出してみるもんだねえ」


ふう、とご満悦でその奇妙な魔法道具をなでなでするマグ婆に、あわあわと慌てふためくナギはおろおろとアリルの心配をしていた。


アリルの。あくまでアリルの。ここ、重要。


「わ、わ、わ、マグ婆、アリルくんに何したの!?」


「ん? ああ、心配しないでいいよ。ちょっと麻酔打って眠らせただけさね。あたしゃあ若い頃魔法道具を造る研究をしていてねえ。こりゃその時のもんだよ。効果は五分くらいだから安心おし」


満足そうにナギをなだめるが、うるうると涙目でアリルの身を案じているナギを見て、何故だか罪悪感が一瞬頭を占める。


いやいや、べつにあたしゃ何にも悪いことしてなくないかい?

バカが五月蝿かったってのと、ナギが可哀想だったから、のハズなんだがね……



「はふう……」


なんだかんだ言っても結局はナギはアリルバカで、あたしの忠告なんか聞きゃしないんだよね。いつものことなんだけどさ……


大きなオーブをちりばめたフード越しに、マグ婆は頭をがしがしとかいた。ええい。こうなったらヤケだよ。


このかわいい娘っ子に、ちょいと力添えでもしてやろうかい。


ふふふ、と腕まくりをはじめるマグ婆に、ナギはキョトンと首をかしげて様子を眺めていた。


浅いケトルとミルク・パン、ろ紙とサーバー、そして村はずれの農場の看板娘のアンナが朝イチで配達してくれたとれたてのミルク、そしてとっておきのコーヒー豆。


ごそごそと台所でひとしきり準備をしたマグ婆は、ナギを振り返ってはてなマークの浮かんでいるその頭をそっと撫でると、イタズラっぽくウインクして囁きかけた。



「ナギや、お前さんラテアートって、知ってるかい?」


「らてあーと?」


「そう。あまーいカフェラテの上に文字や絵を描いた、ちょっと特別なカフェラテだよ。にぶちんなアリルのボーヤに、ここらでおしゃれで可愛く気持ちを伝えてみる気はないかい?」


くしゃり、ナギをなでながら微笑みかけるマグ婆は、どこか本当に愛おしそうな表情をしていた。


その昔に、もしかしたらマグ婆自身もこうやって恋をしていたことがあったからなのかも知れない。


「ラブレター、って言ったら分かりやすいかね?」


「ら、らぶれたあ……!!?」


ボボン、とナギは顔から水蒸気爆発を起こしかけるが、マグ婆はいたって真剣な顔でナギと目線を合わせるためにしゃがみ、諭すように話しかける。


「いいかい、ナギ。よーくお聞き」


「う、うん」


「今日は何月だい?」


「じ、十個目の月、“ゴッドロスト”だけど……」


「そうだ。じゃあ、再来月は?」


「え? 十二個目の月、“マスターズラン”だとおも…… あっ」


言いかけた途端に、何かを察したように真面目な表情になるナギ。マグ婆も真面目な顔で、大仰に頷いて見せる。


「分かったかい? “マスターズラン”の聖なる夜の祭り、『クロースマスト』が、もう二ヶ月先にまで迫ってるんだよ。恋人の聖典、ヤドリギの下の誓いは、あんたにも憧れがあるんじゃないかい?」


ふんふん、と鼻息がちょっと荒くなったナギは、何気にあどけない寝顔でよだれを垂らしているアリルにちらっと視線を寄せる。


「すぴい。すぴい。むにゃ。」


「じゅるり」


(ん……? 今のじゅるりはナギの方から聞こえたような)


「むにゃむにゃ……くぅ」


「じゅるりらずずるっ。おっと、ふぅ。ふふ」


(………………。)


「むにゃ……んん……ガン、ナ、せんせえ……ふふ」


「ガーン!!?」


(アリル……恐ろしい子……)


たかが寝言が想像以上に乙女のハートをえぐるえぐる。


ううう、とアリルに祈るような目を向けて手を胸の前で組み始めるナギは、見てられないくらいハラハラしているご様子。


「な、ナギや」

と、マグ婆が慰めの言葉をかけようとしたその瞬間。


「ちょ」


「「ちょ?」」


「チョーク、けえす……クロースマスト、に……ぷ……ぷれぜん、とした、ら、へへ。よろこんで……く……へへ……えへへへ」



ズシャアアア、とナギが崩れ落ちる程にアリルの寝言は少女の心を悪気なくへし折った。


「アリル……恐ろしい子」


改めて、そして今度は口に出さずにはいられないマグ婆だった。


「マグ婆、決めた」


「うん? ナギ、どうした?」


両手を床についたまま、か細い声で震えるように言う様子に、マグ婆がもう投げやりに答えると、ナギは、涙をたっぷり湛えた瞳で、がばっと立ち上がった。


「ラテアート、する!! 告白する!! 好きって言うもん。ガンナ先生アリルくんのこと好き好き言っちゃって、わたしの方がアリルくんのこと、絶対好きだもん!!」


「お、おお。そ、そうかい……」


めらめらと再び恋の炎を燃やす乙女に感嘆の声を漏らしつつも、やっぱりマグ婆はこう思ってたりするのでありました。



(アリル……本当に恐ろしい子……)




この回に出てくる月の名前、

「ゴッドロスト」と「マスターズラン」とは旧読みの月の名前。

十月の神無月。

十二月の師走のことです。


はい。当て字英語です。

英語も合ってる気がしません。


が、作者の英語能力の限界なので生暖かい目で流し目してやって下さい^_^;


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