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マグ婆ってどんな人

森のハズレにある、千年もののお化けキノコの枯れ木をくりぬいて作ったマグ婆の家が見えると、チラリとアリルとアギは目配せして、前触れもなくドンと勢いよく加速した。


「ふわああああ!?」

「今日はッ絶対にお前にもッ負けないッ!!」


「フフフン。そういいながらもお荷物引っ張ってるアリルに負ける気はしねーよっ」


実はこの徒競走が、毎週のこの二人の密かなもう一つの楽しみなのである。いつもは傍観のナギは、不幸なことに今日は手をうっとりつないでしまっていて巻き込まれたご様子。


グン、とアギは上体を倒し、両手を地面についた。

そしてそのまま、バヒュンと更なる加速をしてアリルをぶっちぎった。


「四足獣なめんな!!」

「あっ、てめえきったねー!!」

「きたなくはじめたのは誰でしたっけアリルちゅわん?」

「むがあああああ!!!?」

「ふあっちょ!?」


アギのセリフに見事挑発を受けたアリルは、引っ張っていたナギを横抱きに抱え上げ、そのまま、お姫様だっこへと持ち替えた。


「あわ、あわわわわわあり、ありありありありるくくく」

「悪い。ちょっとだけ、『借りる』」

「ふえ……う、うん」


ぼっと赤くなったナギの同意を得たのをアリルは確認すると、 ダンッと大きく跳躍して驚異的な空中加速でアギの横にいきなり並んだ。シュタンと音もなく華麗に着地した前足は力強く地を蹴り、いつの間にか全身が覆われている雪の体毛がアリルの銀の目をひときわ輝かせている。


「チッ……並ばれるとはな。ナーニが魔力も性能もないだよバカヤロー! ちゃんとあんだろその同意同調リンクフュージョンがよ!!」


「へへん、こんなの同意もらって他人の能力借りないと発動もできないゴミスキルだよ!! だがしかーし!!」


ヒュン、とさらに踏み込んだアリルの身体が、一瞬スローモーションになったかのような錯覚をアギは覚えた。


いや、でも、違う。

これは……


「ヒャッホオ!! やっぱスピードならアギよりナギの方が早いんだな! せーえのっ」


はっとアギが我に立ち帰ったその刹那、ほんのコンマ何秒で遥か先へぶっちぎっていったアリルは、マグ婆の扉にぷにぷにの肉球をタッチした。

ぽむん。


「はあー……はあー……。ど、どんなもんよ」


汗だくになりながらも、びっと親指をあげてみせるアリル。


と、ポオオオっとアリルの身体が光って、何かが剥がれ落ちるようにアリルの胸から人影が現れ、それをアリルが「おっと」と抱きとめた。


「はは。お疲れ様、ナギ。ありがとね」

「もう……いっつも急、なんだから」


憑き物が落ちたようにアリルからは全身の雪色の体毛がかき消え、それらは剥がれ落ちたナギのものであったように、今はナギの薄く染まる頬を覆っている。


やれやれ、と途中で獣化を解いてトコトコあるいて近づいていくアギは、何とも言えない感覚で苦笑いを浮かべていた。


(アリルの“同意同調”はシンクロ率に関係するっぽいからなー。あの馬鹿気づいてないみたいだけど。おれとアリルなら二人で100%MAXなんだけど、ナギの奴はあいつに絶賛お熱だからなあ。あいつだけで100%、そこへアリルの亜人のフィジカル加算したら……はあーあ。卑怯だろw)


ポケットに手を入れながらスタスタと二人に近づいていくと、能力を貸した吸い尽くされるような感覚でまだちょっと力が入らないナギと、それを支えながら、全力疾走のあとで酸欠状態のアリルが、荒い息をして支え合っているところだった。


……な、なんか気まずい。


「なあ……お前らもう付き合っちゃえよ」

長年思ってたけど、やっぱこれはさっさとくっつけばいんだよ。


ウザそうにジト目で睨みつけるアギに、ギクリとしてナギは顔をさらに真っ赤にした。ていうかなるんだ。なんだっけこの色。紅蓮?


「やっ……ち、ちがうもん!!」

「ちがう?」


あまりの慌てっぷりといきなり意味わからんことを言われたと思っているアリルが、キョトンと不思議そうな顔をしていた。


「ふえ……!? え、ええっと、違わないけど、その、違わない、のかな……?」


照れ照れと、おどおどと、もう視線が泳ぎまくるナギ。

これはこれでカワイイ、のかも。と、思うのはアギ。

「? お前ら何言ってんの?」 と残念おつむなアリル。


「くおおおおおらああ!!! あたしの家の前でラブコメってんじゃねえぞガキどもおお!!!」


「「あ、マグ婆」」

「っっきゃああああああああ!!」


お、と普通に挨拶されただけのようにしれっとしている馬鹿コンビに対し、真剣に泡を吹く勢いのナギ。


あまりのベクトルの違いに、さっきからドア越しに恋の顛末を覗き見ていて、ここらでいっちょう脅かしてやればあんの馬鹿アリルも抱きしめてくらいやるかと思ったマグ婆はなんだか申し訳なくなってしまったのであった。


「真剣にビビってくれるのももう、ナギだけなんだねえ……」


「アハハ。かーわいいよな、ナギって!」


カラカラと笑う無邪気なアリルに、こいついっぺん女の子に刺されて死ねばいいのに、とマグ婆とアギは半ば本気でため息をついてしまった。


え? ナギ?

ナギならそこで倒れていますよ?


泡と鼻血を盛大に噴いて。



続く

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