放課後おやつタイム
「あ、あ、あ、リル、くん。寒い、ね」
「んー? あ、そうかも。秋だなあ」
「女心だなあ」
「それを言うならアキコ」
「ワダ」
「「フォォーーーウ!!」」
高らかにハイタッチするアリルたち。金曜日の放課後で、おやつの前だ。テンションもそりゃあ大変なことになっている。
「んんんんん」
あれ? なんでナギは膨れてんの?
「ん、どした? そんな寒いのか? 手え繋ぐ?」
すっとアリルが右手を差し出すと、ナギはふくれっ面から打って変わってぱあああああっと顔を輝かせた。
「う、ううううん!!」
ばっと手を上げたナギに、アリルははっと申し訳なさそうな表情を浮かべてさっと手をまた垂らした。
「ああ、ご、ごめんな。ぼくの手、遺物だし、なんの魔力も性能もないし、見た目ごついし……。気持ち悪いよな」
ふっとアリルの目に影が降りる。
その様子を、アギとナギははっとして見つめた。
十年前の事件、遺物での通り魔大事件。超魔法遺物。その毒牙にかかって家族を失い、自分だけ生き残り、しかもその時の怪我でダメになった四肢を、アリルの祖父、遺物技師のビセイがあり合わせの遺物で補ったアリルの身体。
それはアリルを生かしはしたが、水面下では今もアリルの心をじわじわと蝕んでいるのを、親友のアギとナギだけは知っていた。
ふふ、と悲しげに笑うアリルは、ここ亜人の里マホロバでは珍しいくらい、人間に近い。混合種族だとしてもだ。
頭にぺったりと力なく垂れるイヌ科の耳と、二人は知っているアリルのうさぎ科の尻尾を除けば、アリルは、極端に人間に近い風貌をしていて、それが通り魔である「人間」に近しいというだけで、アリルはたまらないのだ。
その様子をじっと見つめていたナギは、ちらっと自分の手を見つめた。雪豹の獣化族である自分の手には、白いふわふわの毛とピンク色の肉球がまるまるしている。
本当はアリルにもあったはずの、亜人の手。
ナギはおろおろとアリルを見ていたが、そのうちに何かを決意したようにきゅっと目をつむり、がばっとアリルの手にしがみついた。
「!!? え? ナギ!?」
「さ、さささ、寒うい! アリルの手、あったかい、ね」
びっくりしたアリルに、真っ赤な顔で、きょどきょどしつつも精一杯かわいく見えるように、ナギはにっこりしてみる。
「アリルの手、遺物なのに、ちゃんとアリルのあったかさが、ある。アリルのにおいも、する。この手、わたし、好き」
たどたどしくだけど、元気づけてあげたい。
ふわふわの手で、ナギはアリルの手のひらを握りしめた。
「だ、だから、そんな悲しそうな顔、しないで?」
ナギは一生懸命、自分を励まそうとしてくれているんだ、とアリルはその時やっと気がついた。
「……うん」
ふわふわのナギの手を、アリルもそっと握り返す。
いつもは泣き虫なのに、ナギにはかなわないや。
「ごめん、しょぼくれてた。よーっし、元気だして、マグ婆のとこまで、競争!! よーいどんヒャッホオ!!」
「あ!! 待てアリルきったねえ!!」
「ふわ!? あ、あはっ。 あはははっ」
木枯らしの吹き始めた色づく森の端を、転がるようにかけて行く三人を、森のどんぐりたちも微笑ましそうに眺めていた。
続く