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放課後眠いよアリル君

幼い頃に流星に撃たれて四肢を失ったアリル少年。

(遺物)技師の彼の祖父、ビセイは偶然譲られたばかりの駆動関節のような(遺物)を作り変え、見事にアリルの身体をもと通りに回復させる。


それから十年。

少年アリルは片田舎マホロバですくすくと育ち、幸せに暮らしていた。


この幸せが再び壊れるなんて、思ってもみなかった。



それもまさか、同じ(遺物)によって・・・

カツカツと黒板にチョークの叩かれる音が響き、その単調な音はお昼ご飯の直後の子どもの脳には子守唄のように眠気のみを与える。

これが三年ほど前に出土した、「シルフの子守唄」という超魔法遺物アーティファクトのことについての授業だっていうのも、さらに眠気を誘う要因の一つだよねえ。


窓際に座ってノートをとるかたわら、窓からの心地いい風に髪をくすぐられ、収穫期の近い麦の穂が少しずつ色づいて揺れる水田の風景も心を洗ってくれる。


ううん。眠いよねえ。

うとうと、と机に突っ伏そうとした少年がうっとりと目をつむった、その瞬間。

少年の額ど真ん中、ダブルブルの勢いで真っ白い弾道を描いたチョークが見事に突き刺さった。


バキャアッ!

「いったぁ!?」


額に当たってチョークが砕けたよ!?


突然の激痛に少年が目からお星様を飛ばしていると、教壇に立った背の高い女性が、腰に手を当てて大きくため息をついた。


「まーた君は私の話を聞いていないなアリル君。君のために無駄にできる程チョークは安くんないんだぞ? まったく、自腹でベリーハードを箱買いする私の身にもなってくれよ♡」


「絶対になりたくないですごめんなさい」


涙目で睨みつけるぼくに、なんだよー素直じゃないんだからー、とにっこにこの笑顔でチョークの残弾を見せつけるようにじゃらつかせるこの鬼教師は、ガンナ先生。


飛び級で皇都のラインリンク古代テクノロジー大学を齢12歳で首席卒業し、引く手数多だったスカウトを全部蹴っ飛ばして故郷のここ、マホロバで何故かチョークを投げている変人である。亜人の多いこの地方の出身にたがわず、長い耳とネコ科に近い顔立ちで、身体の曲線の目立つ美人なのに、中の人は残念すぎる。


「なあ、時々君はとっても失礼なことを考えるクセがあるよなあ・・・・・・? ありるちゅわん?」


ゾッとする冷気に加え、おかしな熱のこもった声にアリルは背筋が凍る気がした。


「あ・・・・・・あんた、まさかまた・・・・・・?」


「んふふ♪ 前から言ってるよねえ。あたしの超古代科学遺物オーパーツ、「キミニキキミミ」は一人限定で心の声が聞けるのよ。君限定でね♪ 」


と、耳にかかる鍵の形をしたイヤリングをちょんちょんと指差し、悪戯っぽく笑う。


「プライバシーの大侵害だッ!? 基本的人権の尊重を教職者が破っていいのか!!?」


「そんなの愛の前には・・・・・・意味がナッシング!! 」


ドパアン!! と、アリルのうなじギリギリをかすめたチョークが壁に突き刺さって轟音を立てる。って、本当に刺さってる!!? 普段のぼくの石頭に乾杯だよ!!


「口答えしないで私の授業を受けるか、私のものになるか、二つにひとつ。さあ選べ♡ 三分間待ってやるけど、答えないとか逃げたりとかするなら次ぁ耳だ♡」


「・・・・・・授業受けます」


「チッッ!! なんだなんだア!!? 何ですかあ!!!? 君は優等生なんですかあ!!!? ここは年頃の男の子らしく私を選ぶところじゃないんですかあ!!!!!?? 」


「うるさいよ何でニ択から選んだのにディスられるんだよ!? っていうかさっきから授業止まってんだよ仕事しろ!!?」


ぎゃんぎゃんと騒ぎ立てるアリルとガンナ先生の痴話喧嘩(違う)を、あまり多くないクラスメイトたちはほんわかと見つめている。ガンナ先生は今年17歳で、アリルたちと同い年。微笑ましくはあるが、止める気にはならない。だって、授業潰れるんでしょ?


「私のこと好きって言えよばかあ!!」


「あーあー、好きだよ納豆の次くらいに!!」


「!!!?? それ君の一番嫌いなものじゃないか!!?」


「・・・・・・何で知ってンだよ」


「駆逐してやるううううううう!!!?」


ドオンドンドン!!





今日もマホロバは平和である。




西暦が紀元前を指すようになり、それからまた暦が変わった700年前、大陸は急激な地殻の変動を始め、世界地図は大きく書き換えられることになった。


大陸移動による混乱は生き物や人類に大きな変化を与え、機械文明は滅び、人類にも生き物に亜種や異形種、突然変異体が現れるようになっていった。


変革の多さもさることながら、今までの生活基準が壊れてしまった人類は、絶望に打ちひしがれた。


誰もがこの世はお終いだと考えていた、その時、一人の少女が人間の集落を訪れた。


金の髪に金の瞳をした少女は、そこの人間たちに何事かを囁き、その者たちを連れ立って遠い地にある死の砂漠の真ん中へ誘い、ここを掘りなさい、と言った。


人間たちがそこを掘ると、人類の滅亡は免れた。


そこにあったもの、それは未知の古代に作られたもので、記録にも残っていない不可思議なものもの。


超古代科学遺物オーパーツと、超魔法遺物アーティファクトの塚だったのである。


資源を失った人類にそれは新たなエネルギーを与え、緑を取り戻し、糧を与えた。


人類が滅ぶのを止めたその少女はその後忽然と姿を記録から消すが、その後も人類は彼女を探し求め、とうとう見つからないことを悟ったが、感謝の気持ちとして「救いの聖女」と崇め、教会をもつくった。


それを引き金にするように、世界各地で遺物は発掘されるようになったが、数はいぜん少なく、ものにより効力も魔力も異なったため、オーパーツもアーティファクトも取引は桁にして12以上の高値でされるようになる。

まあ、常人には皇都から供給されるエネルギー、〈イルミ・マナ〉が無料で配分されてるだけでも、ありがたいことなんだな。




と、ガンナ先生はカツン、とチョークを置いた。


眠気混じりだったアリルも、途中から身を乗り出して聞いてしまっていた。この国の、この世界の歴史。


どんな本にも乗っていない、はじまりの伝説。

大人はみんな知っているけど、アリルたちは知らなかったオーパーツやアーティファクトのルーツに触れる授業は、ガンナ先生の特別受け持ちだ。なんたって専門だし。眠い眠いと思うけど、どうしても引き込まれる授業は、他の生徒からも絶大な人気がある。


・・・・・・何でかぼくに求愛することからはじめるんだけどねえ・・・・・・。



と、アリルはため息をつくのであった。

で、チョークも飛んでくるのである。



指の力だけで30メートル離れた出席簿をブチ抜くチョークを放つ美人教師は、またも見事な早撃ちでアリル君を愛しつつ、心の中で、ひっそりと暗いものが彼女の笑顔を嘲っているのを感じていた。




アリルの両手両足を補う、その銀色の精巧な遺物を見るたびに・・・・・・。





続く

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