昼寝と油性ペン
付喪神とは、日本の民間信仰における観念で、長い年月を経て古くなったり、長く生きた依り代(道具や生き物や自然の物)に、神や霊魂などが宿ったものの総称で、荒ぶれば(荒ぶる神・九尾の狐など)禍を齎し、和ぎれば(和ぎる神・お狐様など)幸を齎すとされている。
「ごちでした」胃から空気が上がってくる。
少しばかり食い過ぎた。
「ごちそーさまでしたっ」文姫も食べ終わり麦茶のグラスから氷を取り出して口に放り込んだ。
狐は完璧に寝込んでしまっている
時計に目をやると一時になっていた。
「お昼寝する時間だ!」文姫が勢いよく椅子から立ち上がり寝込んでいる狐を抱き上げ畳の席まで行き座布団を枕代わりにして狐を腹に乗せ昼寝を始めてしまった。
何もする事が無いからそろそろおいとまする事にした。家に帰っても何もする事は無いんだが。
「じゃあ俺はそろそろ」
「あらソーマ君も昼寝して行ったら?」
「あ、では」
海百合さんの出す謎のオーラに押されすんなり昼寝をして行く事にした。それと地味に疲れていたのもある。
2つしかない畳席を文姫が畳の席を丸々一つ占領しているから文姫の背中側にあたる残りの畳席に上がりそのまま寝そべった。
クーラーの効いた室内の快適さは異常だ。冬のコタツ並みに気持ちがよくなってくる、少しだけ、ほんの少しだけ寝る事にして目を閉じた。
迷子になっていた。
たしかあの時は姉とかくれんぼをしていた。
見つからないようにするのに必死で気が付いたら森の奥まで入っていた。
簡単に人が入れる森がここらには一つだけある、森と言うよりは山の裾だ。
隠れたまでは成功だった。しかし幼い自分は隠れた茂みの中で寝てしまった。
目が覚めたころは日暮らしが四方八方から鳴き始める夕暮れだった。
少し歩いてみたが幼い自分は日が差し込む角度が変わったせいか迷った。
分からなくなって泣きながら歩いていると帽子を被ったがたいの良い人にぶつかった。今思えば森で突然出会った怪しい人ついていった自分の度胸に乾杯だ。
その人があっという間に出口まで案内してくれて、森から抜け出して大喜びしながら振り返ると誰もいなかった。
体や服装を覚えているけど顔が思い出せない
帽子の下の,,,,,,,
目を少し開けると何かを握った文姫が仰向けで寝ている自分に四つん這いで何かしようとしている、顔が近い。
「おらっ!」頭突きする、鈍い音がして文姫が額を押さえて転がる
「むぁぁあと少しだったのにぃ」文姫が握っていたのは黒いペンだ。
やり返すつもりでペンを拾い上げる、ペンの種類が視野に入った瞬間固まる
「油性じゃねえか!」額を撫でながら何かブツブツ言いながら立ち上がろうとしている文姫を押し倒す
「だ、だってそれしか無いんだもん」
「だったら書くな」
文姫のほっぺに渦巻きを書こうとペンのフタを開ける
「大人しくしろ」肩を押さえつけ胴に足をかけて動けないようにした
「お、お、お、おそわれるぅう」押さえつけていない方の手で抵抗してくる
なんだか懐かしい、昔姉によくやられていた光景だ。
しかしあのときの方がまだ軽少だ。水性ペンだから洗えば落ちる
「動くな」じたばたする文姫に容赦なくほっぺに黒い渦巻きを描く
「きれいなお肌がぁ」
「起きてたの?」この一言で二人が硬直する
振り向くと海百合さんが少し顔を赤らめて立っている
「そ、そのこれは復讐でして」
「べ、べつに続けていいのよ?」
「さつきさぁんそーまに襲われた」
「え!?これはちがくて」素早く胴にかけてあった足を外す。ついでにペンの蓋を閉めて海百合さんに渡す
「それと」ペンを受け取った海百合さんは笑いをこらえている
「「?」」二人で首を傾げる
「顔洗った方が良いわよ」そのまま海百合さんは何度か笑いをこらえたり吹き出したりしながら扉の奥へ戻って行った
「くそぉ」タオルを借りてトイレで洗顔する
油性ペンだけあって随分手強い
文姫も考えが同じだったのか両方のほっぺに渦巻きが書かれていた
十分ほど格闘した後、じっくり見ないと分からない程度になったので便所から出る
窓から差し込む光が傾いているる事に気が付き携帯をポッケから取り出す。3時だ
少し寝るつもりだったが随分経っていたらしい
「あ、落ちたんだよかったね」カウンターで文姫と何か話していた海百合さんがトイレから戻ってきた自分に気が付く
「今度あたしの番!!」素早く文姫が立ち上がり便所へ走って行く、ほっぺには黒い渦がはっきりと残っている、確かに笑える
海百合さんが小さく手招きしてきた。さっきまで文姫が乗っていた椅子に座る
「ごめんね。ふみちゃんて構ってちゃんだから」
「いや、なんとなく懐かしくてつい」
「そぉ?まったく扉開けたら文ちゃんが襲われる〜とか言っててそーまくんの背中が見えたからちょっと驚いちゃったけど、文ちゃんが先にちょっかい出したのね」
「油性はひどいですよ」こすり過ぎて少し赤くなった頬を撫でる
「今度は水性にしておくから安心してね」
「次回もあるんですか……」さっきまで自分が寝ていた場所を見ると狐が座布団の上で寝ていた。
「さぁて下準備しなきゃ」袖をまくり白い腕で力こぶをアピールするが全くない
突然ケータイが鳴り出す。海百合さんにちょっとゴメンナサイをしてケータイに出る
「もしもし?」
「聡真、お母さんだけど」
「ご用件は?」
「今日仕事の新人歓迎会あるから帰りが遅いの、自分で夕食なんとかしてね」
「わかった、んじゃ」
素早く閉じて海百合さんの方を向く
「どうかした?」髪を結び直す海百合さん、すこしドキッとする
「あの、よければ手伝いますよ」
「あちしも!!」トイレから出てきた文姫が挙手する
「じゃあお願いしちゃおっかな」
これで暇な時間を完璧に潰す事ができただろう、ついでに良い職場体験になりそうだ。
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