花色のフューシャ8
翌朝、青鹿亭の食堂に姿を現したフューシャを見てリトはあんぐりと口を開けた。
「縮んでる……」
夕べ町の若い娘達に囲まれて見事な色男っぷりを発揮していた当人は、あっという間に背丈が元に戻っていた。
「やれやれ、着替えの事をすっかり忘れてたぞ」
当然ながら背丈が縮めば夕べの衣裳は着ていられないわけで、今朝はナナの一昨年の晴れ着を着て(着させられて)いつも適当に編んだだけの髪を丁寧に櫛梳り背中に流している。
レースやフリルをふんだんに使用した明るい緑色のワンピースは客観的に見ても良く似合っていたし、目にした百人中百人が目を剥く美少女であることは間違いないとしても、リトはもっと根本的なところが気になって仕方がなかった。
「えっとー…似合ってるけど……フューシャ。男の人なの?女の人なの?」
「まぁ、見かた次第というやつだ。――どっちでも無いからな」
「…はぃ?」
楚々とした美貌にニヤリと表現するしかない笑みを浮かぶ。
小さくても大きくてもフューシャ。
男でも女でもフューシャ。
結論からいくと『もう何でもイイデス』という感じだ。
「大人ってムズカシイよ……」
子供には解らない事がいっぱいだけど、聞けば何でも解る、というわけでもないらしい。
今年の夏至祭で一つだけ確かになった事があるとすれば。
どうやら僕の町には魔法使いが住んでいるらしい。
ちょっと小休止