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七つの丘  作者: 遠夜
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花色のフューシャ6

夕暮れ時、広場の鐘の音を合図に夏至祭が始まると、今年はサザナミの住人の殆どが集まったんじゃないかと思うくらいの人出に、会場になった広場は晴れ着を纏った人々で混み合っていた。

とにかく景気良く楽しむのが目的の祭だけに、広場は楽団の奏でる笛やフィドル(小型の弦楽器)の音で溢れ、競い合うようにして踊る老若男女の傍ら、ジョッキ片手に卓を囲んで余興で盛り上がる大人が続出中だった。

子供は子供で広場に並べられた料理や焼き菓子の制覇に走り回ったり、年長組の中に混じって踊りの輪に加わったりと、誰もがそれぞれの楽しみ方を満喫している。

そういえば、と、ふと気付いてリトは頭をめぐらせた。

今日はまだあの目立つ花色の髪を見かけていない。

毎年そこらの男衆に混じって呑んでいるはずなのに、どうしたことか。

今年も参加すると言っていたのにヘンだなぁ。もしかしてナナや双子と躍ってるのかも等々、あれこれ考えていたその時。


周囲の音が一瞬にして止んだ。


近くに居た誰かが「来たぞ」と小さな声で囁くのが聞こえた。

(……来たって何が?)

どういう事なのかと隣の大人に尋ねようとすると、ナナが側まで寄って来て唇に指をあて静かに、という仕草をする。

だけど目は悪戯っぽく微笑っていて、ナナは事情を知っているらしいと察しがついた。

(何が始まるのかな…)


炎のはぜる音が響くほど静まり反った広場の雰囲気に驚いた子供達が辺りを見回し、やがてゆっくりとした足取りで中央の祭壇に向かう人影を視線に捕らえた。

そのすらりとした長身は背の高い女性とも痩身の男性とも見てとれ、一見して性別の判断がしにくい人物だった。

全身を覆う長衣で身を包んでいるだけに、遠目では尚更判りづらい。

興味津々で身をのり出していたリトは、その人物が目の前を通り過ぎる際、ちらとこちらを向いて口許を緩めたのに気が付いた。

「……知らない人…だよね?」


別に不思議な事ではない。

隠れ里とはいえ、サザナミの人口は千を越える。小さな子供にとっては知らない他人も多い。なんとなく目が離せなくなって視線で追いかけていると、その人の周りに蛍火のようなものが徐々に集り始めているのに気が付いた。

赤や黄、緑に青、様々な色の光がふわふわ踊りながら相手を慕うように追いかけている。

やがて広場中の者が見守る中、祭壇に辿り着いたその人は、そこで初めて口を開いた。

「十年に一度の《補強作業》に今回も皆の御協力願う。――変わらざる永き平穏の為に、祈りを」

そう言って祭壇の炎に手をかざした途端、広場の照明全ての勢いが増した。

一気に明るくなった会場に子供や大人の歓声が上がる。

「うわー…どうなってるの?てゆーかコレ魔法!?」

一緒に歓声を上げていたリトが我に反って祭壇の前の人物を凝視してから、二度驚愕。

明るさを増した炎と蛍火に照らされて露になったその顔ときたら。

年端もいかない子供が残らず唖然と目を見張る美貌がそこにあった。

単に整っているとか奇麗だとか言う表現では到底足りない、圧倒的な存在感。

繊細で儚げな造りの面からは一切の甘さが抜け落ちており、緑玉の双眸には硬質な耀きがある。

しかもここまで見ても男女の区別がつけ難いとは、最早生物の域を超えているとしか言い様がない。

夜の月を仰ぎ見るような、朝の光を讃えるような、そんな美しさ。


実際、祭の見物客の中には魂を奪われたように呆然と見とれている者もいる。もちろんリトの悪戯仲間も同様だった。

それでも最初の衝撃が過ぎると途端に好奇心が湧くのは自然の成り行きで、リトは俄然目の前の人物の正体が気になり始めた。

そしてあれこれ思考を巡らせていて、あるモノが眼に入った瞬間、思わず固まってしまった。

「火炎木の……花色」

リトの知る限りこの色の髪の持ち主は一人きりだ。

距離のあるごく小さな呟きを聞き取ったのか、祭壇前の人がくすりと笑う気配があった。


自分の知る大人達は皆何と言っていただろうか。

誰に聞いても同じ答えを返しはしなかっただろうか。

「……フューシャ…?」


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