花色のフューシャ5
塔から下りると、思いの外時間が経っていた事に気が付いてリトは驚いた。太陽がかなり動いている。
「うわ~!ナナに怒られるぅ。じゃ、またねー!」
「寄り道するなよ」
挨拶もそこそこに走り出す子供を、フューシャはやれやれと溜め息を落として見送った。
丘を下る手前でリトは一度立ち止まり、何かを確かめるように《外》を見て、それから今度は真っ直ぐ町へ急いだ。
足下で揺れる白い花を道標に。
「……こっちも準備を始めるか」
今年の新年祭はなんだかいつもとは違うらしい、と最初に言い出したのはベルドだった。
ベルドは前回見張り塔に押し掛けた時に、リトと一緒にポチの背中で町内引き回しの刑の憂き目に遭った。物怖じしないガキ大将と天然の割に押しの強いリトは、子供の群れの中でも目立つ組み合わせだ。
新年前日の午後。
祭の準備にと広場の飾り付けにかり出されていた子供達は、準備そっちのけで噂話に熱中していた。
大人達が頻繁に口にする『10年目』の意味。広場の中央に去年は無かった祭壇が設けられているのは何故なのか。
「なーんか隠してるよなぁ、大人達」
「…だよねー。ジスは何か知ってる?」
「僕も…知らない。家の大人に聞いても教えてくれないんだ」
ジスんとこもかー、とリトがぼやいた。ちょっと気弱そうにも見えるジスは、代々学者のような役割をしている家の子供で、年齢以上に物知りだ。
もしかしたらと期待したものの結果は同じだった。
皆でひとしきり頭を捻った後、気分を切り替えるようにリトが笑い、
「とにかく、明日になれば分かるって事だよねー」
あまり悩まない、子供ならではの結論に達した。
そうこうしているうちにも広場の準備は着々と進み、日除けの布を張った卓が幾つも運び込まれ、即席の舞台が組み上げられていく。
この後しばらくして手伝いに復帰した年少組は、年長組の双子姉妹にサボったぶんビシバシ指図されて広場中を走り回る破目になったのは言うまでもなかった。
亀の歩みの進み具合です。