永遠の野原5
ひととおりの客が食事を終えると、青鹿亭の食堂は早めの閉店となった。
もともと朝が早い田舎だけあって、住人に常日頃から夜更かしをする習慣がない。
灯かりにするための蝋燭や精油は貴重品なのだ。
最低限の灯かりだけを残した食堂の片隅に、先程卓を囲んでいたのとほぼ同じ顔触れが並んでいる。
三姉妹は話の邪魔になりそうだからと先に部屋に戻り、この場には宿の夫婦とリトが残った。
「とりあえずアカデミーに連絡はついた。向こう側の門の修繕に二、三日かかるらしいが、多少お前さんの到着が遅れたところで咎められたりする事はないから安心していい」
あっさり本題に片がつけられた。
あっさり過ぎて拍子抜けするほどだ。
「いったい…どうやって連絡をつけたんです?」
「うん?そこはソレ少々強引に『路』を繋げて。自分一人ならどうにでもなるし」
そんなはずは無い。
転移門は本来固定式で、恐ろしく高度な技術で組み上げられたもの。
生中な知識でおいそれと手が加えられるような物ではないはずだ。
「フューシャが直接行ったの?」
「伝書鳩飛ばしてたんじゃ間に合わんからな」
そちら方面にいくらか知識のあるらしい青年は、最早空いた口が塞がらないといった様子で固まっている。
いくらなんでも非常識過ぎだ。
「あなたは……いったいどういう方なんですか?あまりにも常識と駆け離れています。それとも、私の知る常識が間違っているのでしょうか」
「無い無い、そりゃねぇって兄ちゃん」
「そぉだよ~」
すかさず二人ぶんの突っ込みが入った。
どこまでも生真面目な姿勢を崩さない青年は、尚も不思議そうに首を傾げる。
「そもそもその姿はどうなっているのですか?昼間会った時と随分違っていますが」
「あーそれ、僕も聞きたい!なんでお祭り仕様なの?」
益々訳が解らない。
「基本、昼間の姿で通す方がラクだからそうしてるんだ。嵩張らないし、狭い部屋も苦にならない」
「そんな理由!?」
何か物凄い事情があるのかと思っていたリトは、これを聞いて脱力した。
「たまたまアカデミーの今の学長とは知り合いでな。話をつけとこうと思って行ったらセキュリティに引っ掛かって少々揉めたんだ。例の門は放置されてただのガラクタ置き場になっててなー。本当に機能する代物だとは思われていなかったみたいだ」
突然現れたフューシャに対して『オマエは誰だ怪しい奴め』的な展開があったとか。
知人であるアカデミーの学長に面通しするため知り合った当時の姿をとったというオチらしい。
「学長と知り合い……」
「奴も昔この町にふら~っと迷い込んで来た事があってな。その時知り合ったんだ」
「あなたは…見た目通りの年齢ではないのですね」
「少しばかり長生きしてるのは確かさ」
儚げな姿に不釣り合いな程の、不敵な笑みを浮かべた眼に見返されて青年は一瞬息を呑んだ。
それは素直に美しい物を見たと感じた瞬間の感動にも似ていた。
「いろいろと面倒をおかけしてすみません」
「元はと言えばうちの飼い狼が原因なんだから気にしなさんな。あっちの準備が整うまでここで好きに過ごしてくれ」
自給自足の生活ってどんな感じかなーとか想像しながら書いてます。




