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陽月と遊園地デート 前編

【Magic Lifeシリーズ続編③】


 ある種、この学園は変わっている。

 一般社会から切り離されたような、上流と位置付けられる家柄の子供のみが通う場所。全校生徒の数も多くはなく、一クラス数人で構成されている。陽月の学友も、4人と少数だ。

 廊下で会話を楽しむ生徒はおらず、顔を見合わせれば会釈をする程度。もちろん、同じ生業に属しているなら、挨拶くらいは交わすのだが。

 春陽が教えてくれる学校の話は、いつも騒がしくて、賑やかで、愚痴も共感も同じ場所に収まっている。

 よくもまぁ、そんなに自分の事を語れるものだと思う。もちろん、春陽も自分の事を他人に話しているだろうけれど。

 陽月は、あまり自分の話をしない。話すこともないと思うし、春陽のように他人の興味を引く話は出来ないと思う。無論、家の話でもするなら、前のめりに聞きたい奴はいるだろうが。

 話したいことよりも、話してはならないことの方が、陽月の人生には多い気がする。味も、色もないような話なら、フルコースで提供可能だと、そう思う。

 校内で、陽月の生活圏は大体決まっている。生徒会室か、教室か。ちゃんと昼食を摂る時間があるなら、食堂か。


 教室のドアは自身の手で開く。あくまでも、ここは学校であり、主役は学生だ。高等学部ともなれば、皆執事を連れてはいるけれど、大体は鞄持ちか、ただの付き人だ。

「あー陽月、来た来たー!」

 顔を見せて、一番に声をかけてきたのは、比良一穂。政界にも報道機関にも顔の効く、比良家の長女だ。女型のαである彼女は、番の歩を学園に連れて来ている。

「陽月も一緒に行かない? 遊園地のナイトパレード」

 広告を差し出して、泰河が誘う。陽月の従兄弟にあたる、西園寺家の次男だ。席に着きながら、陽月はそれを受け取った。

「今度、久しぶりにナイトパレードを一新するの。これはそのお披露目。株主だけの特別限定招待だから、混まなくていいよ」

 内容を説明してくれたのは、清水咲。泰河の婚約者で、その遊園地を所有する清水家の長女だ。

 正直、興味ないな……と陽月は思う。ちらりと広告に視線を落とし、そのまま返そうとした。けれど……。

 はるなら、好きかもしれない……。

 陽月は得意ではないけれど、春陽ならこういう賑やかな場所も苦にならないだろう。

 ちらりと加谷に視線を向ければ、「大丈夫ですよ」と返事が来た。

「そのお時間なら空いてございます」

 何も言わなくとも、察してくれる。

 陽月は制服のポケットからスマホを取り出した。クラスメイトにも見せることがほぼ無いプライベート携帯。陽月には不似合いな、可愛くて小さな犬のストラップが揺れる。

 迷わず春陽にコールして、あ、と息を飲んだ。時間帯的に迷惑ではないだろうか…?

 一日の生活時間は学校ごとに違うだろう。もしかしたら、もう授業中かもしれない。

 そんな心配を他所に、数コールで電話は取られた。もしもし、と愛しい人の声が聞こえる。

「ごめん、今、忙しかった?」

 陽月が聞くと、ううん、と否定が返ってくる。

『今お昼ごはんだから大丈夫だよ。どうしたの?』

「はるに、聞きたい事があって」

 本当は、ずっと声を聞いていたい。けれど、春陽の休み時間を奪いすぎるのも気が引ける。陽月は手短に事情を説明して、春陽を誘った。

『え、それ、俺が行ってもいいの?』

「うん」

『俺、全然関係ないよ?』

「大丈夫。はるが行くなら、俺も行く」

 そう答えると、春陽は少しだけ黙った。けれど……

『俺が一緒に行ってもいいなら、行きたい』

 先程より、声のトーンが高い。ああ、喜んでくれた……陽月もそれだけで嬉しくなる。

「じゃあ、行くって返事しておく」 

 幾分、自分の声も軽やかになったことは気付いていない。視線の先に映る、春陽とお揃いの犬が揺れた。首輪に付けた小さな誕生石が、陽月の心を理解したように、きらりと光を反射する。

 電話を切って顔を上げると、そこには驚いたようなクラスメイトの表情があった。思わず「何?」といつもの落ち着いたトーンで聞く。

「……いやちょっと待って! 態度変わり過ぎじゃない!? さっきまで超楽しそうだったじゃん!?」

 一穂に指摘されて、陽月はスマホを仕舞いながら小さく息を吐いた。

 当然だ。春陽とお前らを同じラインに並べるわけが無い。――そう言いたいけれど、飲み込む。

「さっきの、陽月くんの番さん?」

 歩が聞いて来たので、「うん」と返事をする。

「春陽くんだよね? 僕も数回しか会ったことないけど」

「この前、啓佑さんには会った。陽太と一緒に」

「聞いた聞いた。兄さん驚いてたよ。陽太さんにべったりだったって」

 それは陽月も否定はしない。ちゃんと起きていたと春陽は言っていたけれど、恐らく陽太のSpaceに、半ば足を踏み入れていただろうから。

「今の話、連れて来てくれるってことだよね? 良かったね、歩。お友達が増えるよ!」

 一穂が言って、歩は嬉しそうに頷いた。

 一穂も、煩いけれど悪い人柄ではない。歩は、どちらかと言えばおっとりしているので、春陽と合うかもしれない。

「じゃあ、私もちゃんとご挨拶しないとね」

 咲が頬に手を寄せながら上品に微笑む。西園寺家に嫁ぐのなら、春陽とは長い付き合いになるだろう。

 もちろん、陽月は進んで友人たちに春陽を紹介したいとは思わない。もちろん、春陽が紹介するに値しない、というわけではない。独占欲からか、大切に隠しておきたい……そんな風に思うから。

 まぁ、良い機会かな……。

 陽月が安心したように気を抜くと、後ろで加谷が微笑んだ気がした。


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